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最終手段でバズりたい!

 ――四天使が一体、ガブリエラ。

 天使軍最強の一角にして、広報全てを担当する天使。

 輝く緑色の髪、宝石よりも美しい琥珀(こはく)の瞳、首座の愛を受ける彼女は終始上機嫌だった。


「ざーこ♡ ざーこ♡ よわよわ悪魔軍♡ パクってもバズりもしない♡ 炎上ざっこ♡」


 あどけなさの残る顔と口を(ゆが)め、しなやかな指先がスマホを()でる。

 映し出されたウィスパは全てバズっていて、彼女の虚栄心を更に刺激した。


「あ! ミカエラじゃん。ちょっと手伝ってほしいな〜」

「む? また『ウィスパグラム』なる物か? 無論構わんが」

「助かる〜。すぐ終わるから、ちょっとこっちにきて……そう、そんな感じ。うん、良いね。いくよ〜」


 ――パシャリ


 そんなやり取りがあったとはつゆ知らず、バルフェゴールは今日も囁く!




「――アスモデュース、ついにお前の力が必要だ……」

「はい? ついこの間も全力で協力したじゃないですか。炎上しましたけど……」

「あれとは話が違う。こいつを見てくれ、どう思う?」

「あー、さっき投稿されたウィスパですか? どれどれ〜。って、えぇええええぇえ――ッ!!!」


 そこに(ささや)かれていた物は、それはそれは衝撃的な物だ。

『#裏垢風(笑)』『#隣は誰でしょーか?』『#正解者には唇から上も下賜(かし)(笑)』とタグ付けされ、唇から下……主に胸元が強調されたウィスパだった。


『参戦する』数は、驚愕(きょうがく)の五十万越え。

 見ている今も、着実にその数が増えていく。

 (つつ)ましい谷間の一人は、ガブリエラに間違いないだろう。

 しかし、もう一人が全く分からない。

 男性型のウリエラは除外するとして、ミカエラかラファエラか? 悲しき男達の(さが)が『参戦する』と一緒に大量のコメントを残したのである。



『エッッッッッッッッ!』『デッッッッッッッッ!』『家宝にします』『人類の楽園はここにあった』『どう見てもラファエラ様。ミカエラ様がこんなことするはずがない!』『←それってラファエラ様を馬鹿にしてるってこと?』『お前らコメント欄で喧嘩すなw』



 コメントを確認しよとシークバーを下げ続けるが、一向に終わりが見えない。

 アスモデュースはゴクッと生唾を飲み込み、背中に薄ら寒いものを感じた。


「これは、ヤバいですね……完全にウチのウィスパを殺しにきてる……」

「だろ? あの若作り年増ロリ天使がここまでやるとは思いもしなかったぞ」

「でも、どうします? 露骨(ろこつ)なエロは削除されますよ? これだってギリギリ攻めてますし」

「そこで、君の力が必要なのだよアスモデュースく〜ん。勿論、手伝ってくれるよね? 大丈夫、大丈夫。ちょっとだけだから、大丈夫。先っちょだけ、ね? 先っちょ。ぐへへ」

「とりあえず、その手をワキワキするの止めてください。後、私は誰にでも許すような安い女じゃないからね!」

「そんな煽情的(せんじょうてき)な服着た色欲魔がよく言うぜ」

「これとそれとは、話が違いますぅー」

「まぁいいから。ほら、行くぞ」






 ――ディーテ市南銀座商店街裏通り。

 通称、裏銀。

 ここは飲食店が立ち並ぶメイン通りとは違い、ディープな店が(のき)を連ねるヲタクスポットだ。

 その一角にある、これまたディープな店構えの前に彼女達は降り立った。



「『レイノプールスタジオ』?」

「あぁ。ここは、人間界でも屈指の撮影スポットを真似して作られたらしい。数多くのバズりウィスパが生まれた伝説の地。その力にあやかろうと思ってな」

「へ〜、よくこんなお店知ってましたね?」

「ん。ベルたんから聞いてね。なんでもベルたんが推してるメイド喫茶のアモンたんがよく使ってるらしく、個人的なSNSでバズってるんだとよ」

「え? じゃあ、初めからその方に広報任せれば良かったのでは?」

「そ! れ! な!」



 早速中に入る二人。

 通されたスタジオは、天井が高く斜めに張り巡らされたガラス窓から地獄には似合わない光が降り注いでいる。


 そして、極め付けは豪華なプールだ。

 広々としたプールに光が反射してキラキラと輝き、絶好の撮影スポットと言っても良いくらいだ。


「うわ〜、地獄にもこんな場所があったんですね。これなら映えるウィスパが撮れそう」

「だろ? じゃあ、一枚脱いでみよっか?」

「脱ぎませんから!」

「え〜、良いじゃん! 減るもんじゃないし」

「ダメです! 脱ぎませんけど、試しに何枚か撮ってみてくださいよ」

「それにしても、このアスモデュースノリノリである…………

 いいよいいよ〜、アスモデュースちゃ〜ん。可愛くて綺麗! バズるの間違いなしだこりゃ!」


 ポーズを取ったアスモデュースにシャッター音が鳴り響く。

 アスモデュースは『色欲』を(かん)する悪魔であり、その美貌(びぼう)と豊満なボディーラインは悪魔軍一番と断言できる。


 そんな彼女が可愛らしく、時には大胆で扇情的に、男達の目を奪うポーズを取るなどお茶の子さいさいであった。


「アスモデュース、さいこ〜! あ! ちょっと片膝(かたひざ)着いて、手で目を隠してみてよ」

「こ…こう……?」

「そうそう、もうちょっと胸張って見上げる感じで」


 ――パシャリ


「ふぅ……ごちでした、アスモデュース。何枚か個人のスマホの待受けにしよー、ぐへへ」

「何言ってるんですか、バルフェゴール……で、バズりそうなのありました?」

「当たり前よ〜。じゃ、早速ポチッとして、ポチポチ送信〜っと」


 バルフェゴールは、早速渾身(こんしん)の一枚を『#裏垢風(笑)』『#大サービス』と囁き送信。

 そこには、手で目線を隠し膝立ちをしたアスモデュースが胸を強調したグラビアポーズで写っていた。


 …

 ……

 ………


<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!



 ちょっとだけソワソワしながら待っていた二人に、待望の通知音が鳴り響く。

 そこに付いたコメントとは……



『手がシワシワ?』『BBA無理すんなw』『まんま例のプールで草』『落ち目の月刊誌渾身の袋とじ』『片田舎の電話ボックスに貼ってあるアレ』『今日のお茶引き枠』



「……」

「やっぱバズっちゃってます? 私にも見せてくださいよ〜」

「あ…いや……うん……」

「も〜、意地悪しないでください。えいっ!」


 後ろから(のぞ)き込むアスモデュースは、抑えが効かずバルフェゴールからスマホを奪い取った。


「えへへ〜、どれどれ? え……」

「うん……あー、なんだ? とりあえず飲み行く?」

「……」

「ア、アスモデュースさん……?」

「…………」

「おーい、聞いてますか? その……元気出して……?」

「………………うぎゃぁあああああああ――ッ!!! 誰の手がシワシワだ! クソボケ!! ババアだ? 貴様ら人間から見れば多少歳いってるけどピチピチだっつーの! てか、なんだよ袋とじって! デリじゃねーよ! だったら、私が人間界に攻め込んで二度と私以外で()てない身体にしてやんよ!!! あぁああああんん!!!」

「ちょ、ちょ…落ち着いて……アスモデュースさん? ね?」

「こんなん落ち着けるわけねンだわ!! 行くぞ、バルフェゴール! カチコミじゃぁああ――ッ!!!」

「ちょ、おま…キャラ変わってるし!?」



 この後、二人は行き場のない怒り矛先を酒に向けた。

 朝方まで商店街に悪魔達の恨み節が響き渡る――

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