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第7話

「幸せだ……」


 もう時間は昼間だが、俺はベッドの中で温もりに包まれていた。

 金持ちというほどではないが、普通に生活するのには何の不自由もない。レベルは15まで上がったが、このペースが早いのか遅いのかは分からない。


 今ではすっかりアウトドア派となったが、それでも元インドア派の俺に布団の温もりは恋しいものだ。


「ダックス! ダックスはいるか!」


 ドアが勢いよく開かれ、俺にこの世界について教えてくれた衛兵が顔を覗かせる。


「騒がしいな……」


 布団に包まりながら体を起こす。

 衛兵はためらう事なく家の中へと押し入り、言葉を続ける。


「のんきな事言ってる場合じゃない! 今から出られるか?」

「緊急の依頼なのか?」


 彼の険しい表情を見て、ただ事ではないという事はすぐに分かった。

 インベントリから装備を纏い、数秒でいつもの外出用の格好へと変わる。


「隣の村に魔物が出た! それも群れでだ!」

「イベントクエストってところか?」

「何か言ったか?」

「いや、詳しく教えてくれ」


 同じ村に居続けた場合に発生するイベントクエスト、転生者である俺はそう思いはしたが、この世界の住人からすれば大事だろう。


 詳しく話を聞いてみると、どうやらコボルトとゴブリン、そしてウルフの3種類の魔物による大規模な群れなのだそうだ。

 近くの冒険者ギルドにも依頼が出ているそうで、他の冒険者と協力する形になる可能性があるそうだ。


「冒険者ギルドか……あったんだ」

「冒険者が先に来ていた場合はそいつの言う事に従って欲しい、この依頼受けてくれ!」

「報酬次第ってところだな」

「報酬は1000ノアだ、他に受けたヤツがいても1人頭の値段だから安心しろ」

「オーケー、なら受けるさ。場所は?」


 インベントリを確認しつつ、マップを開いて場所を確認する。


「ここからそう遠くはない場所だ。馬も使っていいから出来るだけ急いでくれ!」


 よく狩りに行く方向に村があるらしく、馬で駆ければ10分ほどで着くような距離だ。

 マップに目印(ピン)を打ってやると、地図を見ずとも感覚で村のある方向が分かるようになった。


「行ってくる!」


 厩舎から馬を引っ張り、飛び乗るようにして跨って脇腹を蹴る。


 狩りで見慣れた街道を馬で一気に駆け抜ける。

 風を切って突き進む感覚は気持ちいいが、今回の依頼はいつもの狩りとは違う大乱闘になる可能性がある。さらに村に襲撃があったとなれば、住人の避難が出来ているかが気になるところだ。


「しかし冒険者か、目指してみるのもアリか?」

「楽に暮らすだけならオススメはしないよ、私はね」

「ま、アテナから勧めてこなかったしな」

「お金の稼ぎはいい職業だけれども、その使い道の殆どが武器や防具になっちゃうし、楽に暮らすだけなら今のままでいいからね。そんな事よりももうすぐ着くよ!」


 街道の先に村の影が見える。しかし、よく見てみると薄く煙が上がっており、村を囲う塀の一部は崩れている。


「馬はどうすればいいんだこれ!」

「その辺に乗り捨てて大丈夫! 指笛を吹けばいつでも戻ってきてくれるよ!」

「そいつは便利なこった!」


 塀の外で馬から降り、走って村の中へと向かう。


 村の中は思っていた以上に酷く、入り口付近は既に荒らされつくした後でのようで、扉や窓は壊されている惨状だ。

 村の奥からは悲鳴や魔物の叫び声が響いており、ゲームで耳にするようなものではなく、耳を塞ぎたくなるような現実感があった。


「一刻も早く動いた方が良さそうだね」


 アテナの一言で硬直してしまった俺の思考回路が元に戻る。

 剣を抜き、それを強く握りしめて村の中心の方へと向かう。


「ッ――!!」


 倒壊した家の陰から何かが飛び出して来た。

 灰色の毛皮に、犬のような体躯。ウルフだ。


 魔物と呼べるのかも怪しい、これといった特徴もないまさに普通の狼といった魔物ではあるが、その素早さはこの世界においても十分脅威と呼べるものだ。

 体をかがめて回避しつつ、タイミングを見て腹へと思い切り剣を貫き通す。


「なっ……」


 ウルフは狙い通りに仕留める事が出来た。

 しかし、それとほぼ同時に俺の背中に鈍い痛みが走っていた。


 後ろを振り向くとゴブリンが武器を振り下ろしており、彼によって殴られたのだと脳が理解する。


「ぐっ――!」

「ダックス!」


 そのゴブリンへと向き合った瞬間、再び後ろから鋭い痛みが襲う。

 今度はコボルトが俺の背後に立っており、2匹によって完全に挟まれてしまう形となった。


「狙ってやったかのようなタイミングだなあ……おい」


 ウルフはともかくとして、ゴブリンとコボルトの攻撃は俺の隙を狙ったと言っていいだろう。

 狩りをしていても、偶発的にそうなったであろうという場面は多かったが、2匹に続けざまに不意打ちされるという事は無かった。


「ちと真面目にやりますか」


 更なる追撃があっても不思議ではない。そして、ここで下手に相手をすれば時間を稼がれてしまう。


「となれば、ここは無視だ!」


 悲鳴の聞こえる方へと向き直り、一気に駆け出す。

 行かせまいとゴブリンが立ちはだかるが、純粋な力勝負なら俺の方が圧倒的に強い。


 所々で待ち伏せを受けながらも、俺は村の中心へと駆けた。

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