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第九一話 「入渠と艦魂の不思議」

 昭和15年11月18日。

 この日、これまで予定としては耳にしてきた明石(あかし)艦の整備入渠がいよいよ工廠側より明石艦の艦首脳部へと指示されてきた。これは定期的に行うお船としてのメンテナンスの為で、明石艦としてはこれまでの艦隊勤務の間に艦底に少しずつへばり付いてきた汚れを綺麗サッパリ洗浄する機会である。艦の命である明石は一応毎日お風呂に入ってはいるが、この度の分身の洗浄もようやく迎えた垢落としに等しく、生来が綺麗好きな明石は首を長くしてこの入渠の機会を待っていた。


 もっとも乗組員達にとっての入渠とは忙しい時間を与える厄介な予定であり、その日の内に彼等は入渠準備の為のお仕事へと取り掛かる事になる。11月も後半に差し掛かった呉の空はどんよりと銀色の雲で覆われ、冷たい風が強弱を混ぜて駆け抜ける波間には今にも雪が降り出しそうであったが、甲板上で作業する乗組員達は白い息を一様に口から巻上げながら汗まで掻いて励んでいる始末だった。

 船の命である明石にとっては初めての入渠とあり、彼女はそもそも一体全体お船が入渠するのにどんな準備があるのだろうと持ち前の好奇心に火をつけ、寒がりながらも外套を頭から被って甲板や艦橋の中から乗組員達の一日を追ってみるのだった。




 まず最初に行われたのは徹底的な艦内全ての部署におけるお掃除で、艦内の水兵さんを総動員して毎朝の甲板掃除とは比べ物にならないくらいに細かい物品の一つ一つにまでも手を伸ばす。年末の大掃除よりもさらに細かいくらいで、掃除が終わったら終わったで机や椅子、寝具の整理に、格納してあるオスタップや掃除用具の一切に至るまで所定の位置にしっかりあるかどうか確認していく。烹水所や艦内の工作区間においてもそれは同じで、お鍋の蓋からスパナの一本一本に至るまでそこを持ち場とする兵員達が全部整理していた。

 何もこれはお偉いさんが来るからとか、伊藤特務艦長が神経質な程に清潔にうるさいからという訳ではなく、乗組んでいる艦が入渠するに当たっての大事な大事な下準備なのである。部屋備え付けの家具の裏までソーフを忍び込ませる程の念入りなお掃除は、入渠した後に艦体に対して実施する状態確認を簡易化する為の処置に他ならず、ほんの少しの塗料の剥げ落ち、錆びの発生箇所、不意な場所での漏水や油漏れ等の痕跡の発見を容易にする為なのである。

 また、多様な物品が所定の位置に決められた数で収納されているように実施する整理整頓も、明石艦の重心バランスがどんな状態であるかを艦長以下の艦首脳部が完璧に把握する為である。もしもこの重心状態の把握がいいかげんであったなら、船渠へと進入する際に艦底やスクリューを船渠の底に擦り付けてしまったり、あわよくば船渠に上手く入ったとしても排水した際に崩れた姿勢で艦が着座したりする危険性があり、最悪の場合は船渠の中で艦が横転するという事態だって有り得るのだ。

 故に明石艦はまだ桟橋に接岸したままにも関わらず、その艦内の一室では特務艦長と副長、付随する人員が艦内各部の状態を把握しつつ工廠側より指定された船渠の深さ等も勘案し、或いは計算の上ではじき出した位置にバラストを搭載したり、或いは動かせそうな艦内の重量物を移動させたりして艦の均衡を調整する等といった対応策を検討していた。

 言うまでも無くそれは数字との格闘である。

 とりわけ明石艦はそれなりの重量を持つ工作機械が艦内のあちこちに設置されている1万トン級のお船なのであるから、その繊細さは戦艦や空母よりもシビアであったりする。よって艦内のお掃除や整理整頓が終わり、辺りが真っ暗となった夜遅い時間になってもまだ、ポツリと電灯が灯る明石艦の艦内の一室では副長と附きの士官を筆頭として数名の乗組員達が複雑にして失敗の許されない重量計算の残業に精を出していたのであった。




 その甲斐もあって翌日は朝から早速入渠の作業へと移行し、明石艦は工廠側の人々と連絡を取り合いながら桟橋を離れる。呉海軍工廠は所属の艦艇の殆どが密集して停泊する有様で、しかも軍港ど真ん中には鋭意艤装中の大和(やまと)艦がその巨大な艦影をデンと浮べている事もあり、もっぱら船渠へと向かう明石艦は自力での移動ではなく曳船達の助けを借りる事になる。


『ぉはよあります。』

『おはようぁりますぅ。』


 曳船の艦魂達はずっとこの呉軍港にて励む働き者の皆様で、呉鎮所属の明石もこれまでに何度と無く軍港で身体を休める際はお世話になっている。緩衝材や防舷材越しとは言え直接舳先を押し当てて励む彼女達は結構生傷が耐えない日々を送っており、おかげで軍医の明石は彼女達に治療を施す機会を得ていた故に大体は顔見知りの仲。白の作業衣の上下を身に付け、四六時中浴びた陽の光によってかちょっと真珠色ぎみに変色した作業帽を被り、比較的小柄な体格の者が多い一族である。知り合った頃から皆、広島訛りの言葉遣いで、明石の分身の甲板上に現れるや二人は艦の主にいつもと変わらぬ広島弁での挨拶をしてきた。明石が声を返すと少し角度の度が過ぎるお辞儀をし、すぐさまそれぞれの分身へと転移してお仕事へと取り掛かり始める。


『そいや、そいや!』

『どっせー、どっせー!』


 それぞれが分身から明石艦へと伸びるロープに直に手を触れ、奇妙な掛け声を小気味良いエンジン音と供に二人は響かせる。下手をしたら漁船よりもまだ小さい二人の分身は1万トン級の明石艦と比べるとケシ粒程なのだが、掛け声が2、3回くらいも繰り返されると明石の分身はゆらゆらと揺れながら波の上を動き出した。


『うおっとと・・・。あはは、すんごいなぁ。』


 何度もこの様を見てきた明石なのだが、対比するのも気が引けるくらいの小ささを誇る曳船達が自分より何十倍もある巨艦を動かすというのは見ていて飽きない。明石の分身の3倍はあろうかという戦艦や空母ですら、彼女達はこのお祭り調子を武器に狭い軍港内の波間の上で自在に操ってみせる。彼女達はロープでの牽引が終わると今度は反対舷から舳先で押し始め、その際もまた自身の分身にある舳先の狭い平面部分にて両脚を突っ張り、直にその手を明石艦の乾舷に添えてエンジン音と同じテンポで声を上げていく。


『らっせらー、らっせらー!』

『らっせらっせらっせらー!』


 二人は努めて真面目な顔でのお仕事に汗を流しているのだが、どうにもその可愛げ溢れる姿が乾舷の上から見下ろしている明石には可笑しくて可笑しくて仕方ない。ただこの掛け声ですらも彼女達にとっては号令にも似た重要な物で、何十種類もあるその一つ一つにちゃんと意味が含まれている事は明石も知っている。小さな分身で巨艦を押したり引いたりする彼女達は、牽引や押し込み、それらを実施している対象の艦に対して艦首側や艦尾側といった自分の立ち位置等に応じて掛け声を決めており、狭い上に巨艦の影に隠れてしまいやすい軍港内の自分達の存在を他の曳船、及び港内交通船の仲間達に声で示し、衝突等の事故を回避しようと企図しているのだ。

 やがてそんな二人の活躍によって明石艦は扉船(とせん)が外された船渠を正面に捉える形で移動し、甲板の上からお礼を口にして艦の命である明石が手を振る。働き者の二人は新艦隊編成公布後の軍港内では引っ張りだこで、明石に気付くとほぼ同じタイミングでまたまた度の過ぎたお辞儀を返し、喧騒が静まる気配が微塵も無い呉の波間に散っていった。


 一方、明石艦の乗組員は彼女の様にのんびりと過ごす時間は一秒たりとて無い有様で、曳船による艦位保持が終わると艦首へと集まり、船渠の一番奥の部分から伸長して運ばれてくる太いロープを艦首付近に固定し始める。鍛え抜かれた水兵さん達の腕の太さにも匹敵する何本ものロープは船渠内へと艦を進入させる為の物であり、陸地にある巻揚げ機の作動によって対象の艦艇を真っ直ぐにゆっくりと進めていく役割を担うのだ。

 もっともこの作業もまた、担当する者達、特に巻揚げ機を操作する工廠側の人員には大変に気を使う作業である。巻揚げの速度は艦が持つ艦体形状やそれ自体の重量、明石艦側から連絡された重心バランスを勘定して行う為に一律で設定する事は出来ず、牽引する艦に合わせた繊細な操作が要求される。例えば巻揚げの速度が速すぎたり、停止するタイミングが遅かった場合、水に浮かんだ艦はしばらく残る慣性に従って牽引される力が無くなっても前進を続けてしまうので、船渠内に進入した後もそのまま進んで船渠の最奥部に派手な頭突きをかます事になる。修理補修の目的で入渠したのに損傷したとなれば笑い者は必至だ。

 故にジトジトと首筋に滲む汗を袖で拭いながら工廠側の作業者達は明石艦が少しずつ船渠内に進入してくる様子を瞳に映しているのだが、彼等とてその一人一人が年号が変わる以前よりこの呉海軍工廠にて長く励んできた職人達である。3万トン以上の艦艇だって扱う事もある彼等にしたらせいぜい1万トン程の大きさしかない明石艦の入渠作業なぞ造作も無い事で、明石艦はスイッと船渠の中央まで進みつつ減速を終え、やり直しや微調整も無しに船足を完全に止める。

 すると明石艦の両舷の乾舷には支え棒が当てられて船渠内で艦が微妙に動かないように支持され、軍港の波間へと続く占拠の入り口には扉船がゆっくりと進んできて船渠に蓋をする形で停止。それらを入渠作業の監督官が確認するや号令が掛けられ、明石艦が進入した船渠からは海水の排出が始まるのだった。


 時を同じくしてその明石艦の艦内にある明石のお部屋では、白い着物を模した寝巻き姿となった明石がベッドの上で布団を被っていた。ただ掛け布団から首だけ出したような状態にも関わらず彼女の大きな目はパッチリと開いており、その光景に比してちっとも眠気に襲われている気配は無い。そして彼女自身もまた、快適な安眠に陥る事を信じている訳ではなかった。


『ほ、ホントに寝ちゃうのかなあ・・・。』


 胸の中にわだかまる小さな不安を乗せ、僅かに震えた声で明石は呟く。その言葉にもあったように、明石は別に自分の意志で眠ろうとしている訳でも、姉と慕う長門(ながと)の様に決して真昼間からお仕事をサボろうとしている訳でもない。それでもこうしてお布団の中に身体を入れているのは、尊敬する師匠より自分も含めた艦の命は例外なく入渠の際はこうなるのだと前もって教えられていたからだった。

 佐世保で艦が完成して呉へと回航される当たりでようやく物覚えが付き始めた明石は、今日という日が人生初の入渠である。その事をここ最近は毎日顔を会わせている師匠の朝日(あさひ)に告げてみた所、なんと「艦が陸地にその艦底を着けた際は、艦の命である自分達は意図せずに通常のそれとは少し違った睡眠状態へと陥る。」というお話をしてくれたのである。色んな知識に精通している朝日に言わせればそれは動物の冬眠に非常に似た物らしく、艦魂の身体の代謝活動も大幅に低下して食事の摂取も排便もせずにただひたすら眠り続け、やがて出渠に際して艦体の周りを水が包んで浮力を得た時に覚醒するのだという。


『う〜ん・・・、なんでだぁ〜・・・?』


 一応は人間の女性の身体を模した姿を持つ艦の命。その一人である明石は冬眠などという行動を自分の乗組員達が取っている所なぞ見た事が無いし、軍医のお勉強の一環として学んだ人間の人体についての知識の中にもそんな言葉を見つける事ができない。だがそれを教えてくれたお師匠様が、自分に対して艦魂に纏わる嘘を教える理由は皆無でもある。

 そしてこの時、ふと明石はいつぞや富士(ふじ)が教えてくれた〝Sleeping Beauty〟、すなわち三笠(みかさ)艦の命たる者のお話を思い出す。その際に富士は『陸地に艦底を着ける事は、私達にとっては死ぬ事に等しいからよ。』と言ってはいたが、それに反して彼女は現代ではもう会えぬ友人の状態を一貫して「眠る」という言葉で表現していた。明石は単純に富士が友人の状態を率直な言葉に変えるのを控えたのだろうと考えてこれまでは至って気にはしていなかったのだが、今になって思うとあながち富士の言葉は偽りや比喩の類ではないような気もしてくる。


『眠る、かぁ・・・。』


 艦魂による冬眠がなんとなく理解できたような、でもできないような状態の明石は呟く様に声を放ち、排水の物であろう静かな水流の音色に耳を撫でられる中で天井をぼんやりと眺める。鉄材の持つ灰色の色合いは舷窓から漏れてくる僅かな光でユラユラと揺れ、どうにも理解が捗らない艦魂の冬眠に対する明石の思考を描いて見せたようだった。


『ぬぅ〜、解かんない事ばっかりぃ・・・。』


 自分を含めた艦の命たる者達の事柄であるのに謎だらけ。ただでさえここ最近は師匠による英語のお勉強で奮闘中の明石であるから、ここに来てまたまた考えても考えても解からない懸案が出てきたのはなんだかとても残念である。やがて無意識の内にしおれた胸の内から溢れてきた溜め息を静かに明石は吐き、暖房などといった高価な物が装備されていない明石のお部屋には師走を控える空気によって白い吐息の流れが現れる。ついで舷窓から漏れてくる僅かな陽の光とも一緒に遊んだその流れが輝きを失って四散していく最中、部屋の中にはそれはそれは低い音色の重苦い金属音が木霊し、少し遅れて上げた状態の舷窓の蓋や室内に備え付けた椅子や机が短い間、カタカタと震えた。

 だが部屋の主である明石は、突如として襲ってきたその物音や衝撃に対して驚きの声を上げる様子は無い。なぜならベッドの上で布団に身を包んだ彼女は既に瞼を閉じ、波の満ち引きよりもさらに遅い間隔で寝息を立てて深い眠りへと落ちていたからだった。


 不思議な不思議な艦魂の生態。

 その謎を探求する道はしばしの間、こうして沈黙と静寂の中に消える。




 だがこの時、沈黙とか静寂という状態が適用されたのは艦の命である明石だけで、明石艦の乗組員、及び船渠の脇にて艦の無事な着座を見守っていた作業員達にあっては正反対であった。船渠の周りでは作業員達による掛け声の大合唱が始まり、明石艦の艦内でも所定の位置にて待機していた乗組員達がそれぞれの仕事場所へと駆け出し始める。

 入渠整備作業の本格的な始まりなのだ。


 まずは船渠内の排水が完全に終わった事を確認した後、船渠内壁と明石艦の乾舷の間に竹や丸太で作られたサイド・ショアーとも呼ばれる大きな棒をつっかえさせる様に渡して艦を固定する。完全に浮力を失った状態の艦体は盤木の上に乗った状態で、艦底の盤木に接していない殆どの面積は地上から浮き上がっている。ましてそもそもがお船の底という物は地上にどっしり足をつける等という機能性は皆無なのであるから、船渠の中での艦はとても不安定なのであり、不意な地震や衝撃、重量物の積載を受けて転倒するのを防止する為につっかえ棒を幹舷と船渠内壁の間に渡すのだ。

 また、これと同時に船渠の平地面から明石艦の最上甲板に掛けてラッタルが渡され、晴れて明石艦の艦内は〝陸続き〟となる。すぐさま工廠側の作業員の何名かがその上を渡って行き、甲板上にて明石艦の乗組員と落ち合って作業の進捗や計画を確認。

 一部の者達はその隣で陸地から伸びてくる電線を明石艦の最上甲板へと引き上げ始める。電線と言っても彼等の手にした物は市中の電信柱に張り巡らせている電線に比べると何倍も太い代物で、先端に結わえたロープを引っ張って甲板にあげるのもデリックを用い、使用する場所へ引きずっていくのも10人近い水兵さん達が力を合わせて運ばねばならない、という程にその扱いは大変である。しかもまたなるたけ速くこのどデカイ電線の処置は終えねばならない。これから明石艦の主電源を艦内発電より陸上供給へと切り替え、整備補修の為に四六時中稼動しっぱなしの艦内発電機を停止するからだ。

 ただ電線を担ぐのは力作業であるものの、帝国海軍最新鋭の艦艇である明石艦は艦内の電源が交流とされており、電線を所定の箇所に接続してしまえばそれでお終いと言っても過言ではない。少し前までの帝国海軍の艦艇はその電源を直流としている事から交流の陸上電源に接続するのは一苦労で、整流器(コンバータ)を介しての供給だった為に手間も掛かれば設備の分のスペースも毎度毎度確保せねばならず、定期的な入渠整備であっても船渠の周りは色んな機械が点在して作業の上でもその効率をかなり落とすような側面があったのである。

 それが回避できている分、明石艦は整備作業に従事する者達にとっては割とお仕事が捗るお船であった。


『電線接続良しです。』


『よし。機関長より分電室、艦内供給電源の切り替えにかかれ。』

『はい、電源切り替えます。』


『おし次。機関長より発電機室、発電機の運転停止準備にかかれ。』

『はい。発電機の運転停止準備、掛かります。』


 明石艦の艦内奥深くにある艦の外観よりも黒さと機械油の臭いが一段と増した機関室には、機関長のテキパキとした指示の声が飛んで彼に従う機関科員達の背中を押していく。明石艦の発電機は一般的なお船の設備を動かす為の物に加えて多種多様な工作設備の稼動も担う為、操作手順は少し複雑で扱い自体も慎重でなければならない。機関長自らが出向いての陣頭指揮の理由だ。


 やがて明石艦の艦内に木霊していた発電機の低い唸り声はなりを潜め、艦中央にある煙突からはそれまでもくもくと上がっていた一条の煙の帯が消えていく。ちょうどその頃には船渠内の排水も終わってベトンが剥き出しの船渠の底が顕わになり、明石艦の整備前の状態をその目で検査すべく工廠側の作業員達は小魚が何匹か飛び跳ねる船渠の底面へと降り始めた。

 だが当然の事ながら彼等が降りた船渠の底で見た物は、水線下くらいまでアオサやフジツボの集合住宅へと変わった自然溢れる明石艦の乾舷。二年近く海の中にあったお船の底とはこんな具合で、力強い自然の力は国家の強さを象徴する海軍艦艇であっても遠慮せずに群がってくるという事に、作業員の内の何人かはなにやら色々と感心したのか緩めた口から溜め息を漏らしていた。もっとも国民の尊い血税によって生まれた帝国海軍の艦艇に乗組員以外の入居を認める事は出来ないので、申し訳ないがここまで明石艦に従って生きて来た彼等には作業員達の握るヘラや、ポンプから噴出す海水によって強制立ち退きして頂く事になる。

 幸いにも艦艇から引っぺがし難いフジツボ、牡蠣等の量はそれ程多くは無かった為、お昼も過ぎた頃には水線下に当たる幹舷のお掃除は終了。すっかり冬の気配が色濃い呉の寒空は既にやや明るさが薄れ始めており、作業員達は残り少ない自然の照明が灯り続ける時間を大事に使いながら明石艦の乾舷に視線を這わせていった。

 左舷右舷も含めた全ての外鈑に盤木の上となった艦底は勿論、升目状に整列したリベットの一本一本、鋼鈑と鋼鈑の継ぎ目、スクリューと舵、艦首旗竿の真下の舳先を艦底に向か縦に真っ直ぐ走る艦首材、そして二年ぶりの入渠に合わせてアンカーも船渠の底へと降ろし、連なる錨鎖もまた船渠の底に綺麗に並べて検査を行う。しかもその検査の方法は目視検査が大半であり、時折片手にした小さなハンマーで叩いて音により判別したりするという職人技。工廠作業員の顔ぶれの多くが中年の男達なのも彼等が良く経験を積んだ職人さんだからであり、明石艦の艦内でも長年乗組んでいる兵下士官の者達が総出で設備や艦内構造の異常に対して目を光らせていた。

 特務艦である明石艦は前線に出て派手な撃ち合いをするような事は無いし、これまでの艦隊訓練でも急旋回や急加速を頻繁に行うような戦闘運動等はほとんど実施してはいないのだが、乗組員が海軍軍人ならば〝武人の蛮用〟という物がやっぱり大なり小なり有るらしい。艦の外でも中でも、錆が浮かんだ鉄材の継ぎ目、頭が無くなったリベット、緩やかに凹凸を設けた鋼鈑、円周の具合が隣に並んだ物と不揃いになっているフレーム等がそこそこに見つけられていく。そして発見されたこれらの異常個所はすぐに工廠側の検査官の元締めに当たる人物へと集められ、明石艦の総責任者たる伊藤特務艦長も混じっての整備補修計画が作成される。


 取り替えれる物は取り替えるし曲がった物は直す訳であるが、それに掛かる日程や人員の割り振り等は伊藤特務艦長もしっかり把握せねばならない。明石艦は既に機関を停止しているので自分の艦の中での造水はできないし、そうなるとお風呂や蒸気烹水設備、お洗濯もまた不可能である。おまけに現在の艦の周りには海水が一滴も無いので水洗式である厠までも使えない。しかし乗組員達に何日にも及ぶであろう修理補修の期間中、飯も与えず風呂にも入らせず便意も我慢させるという生活を送らせる訳にも行かないので、伊藤特務艦長は工廠内のどの厠を使って良いのかとか、食事の場所やその人員分の量が何日必要であるのか、入浴の為に上陸させる順番や人数はどのくらいにするか、どうせなら近隣の出身である兵下士官にはこの際帰郷させようか、等と艦の責任者として運営においての目処をつけ、必要なら工廠のお偉方とも折衝しなければならないのである。お船としての行動を書類で見た時、整備入渠と書かれていればお船にとっては休憩中と思う事も多いが、その実は艦長以下の乗組員達にとっては結構多忙な日々であったりもするのだ。


『じゃあ、機関科の人員は工作設備の出し入れに当てましょうか。』

『あの〜、特務艦長。烹水所勤務の兵員はどうします? 電熱調理器具は動きますけど、どうせスチームが来ないんなら仕事にならんですし。』


『工作機械は割りと重くてデカイのが多いらしいから人は多い方が良いだろう。・・・あ、川島主計長。一応、人力での重量物の出し入れになるよな? ほらあ、載炭作業の時に出る非常労働食、もしかして適用になるんじゃないか?』

『ありゃ〜、忘れてたぁ・・・。はい、こら適用ですね。明日の朝までに要求の書類には記載しておきますよ。』

『うん。頼む。』


 士官室での艦内幹部による打ち合わせは夜遅くにまで及ぶ。いつもなら定時で切り上げて晩酌としけこむ彼等もこういう時は仕事が長引く物で、鉛筆や何枚にも及ぶ書類を片手に懸案と対応を声に出し、伊藤特務艦長の決済を仰いでいった。魔法瓶に入れた紅茶やコーヒーを何度も自分のカップに注ぎ足し、全員が詰めるテーブルの上に置かれた灰皿には吸殻の山が時間の経つのに合わせてどんどん重なっていく。帝国海軍の大部分を占める水兵さんから見れば士官連中は待遇の良い割に夜遅くまで重労働するような人々ではなく、普段からそんな姿を見る事も無い為に恨みつらみを募らせるような者もいたりはするが、士官も士官でこうして既に水兵さん達が寝静まった頃になっても尚働くような場面もあるのだ。

 やがて疲労の音色が隠せぬ溜め息を漏らしながら、士官室に詰めていた者達がゾロゾロと寝床へと戻ったのは既に日付も変わった頃であった。




 おかげで次の日の朝から明石艦では本格的な各種工事関係の作業も始まり、艦は瀬戸内の潮風に撫でられる波の声に代わって幾重もの機械音にて包まれる。その甲板の上はもちろん、船渠脇の陸地にも作業員と乗組みの水兵達が事業服姿で汗を流し、艦内より不調のあった大小の工作機械を出し入れする光景が広がる。船渠の底では早速ドリル等の機械が唸りを上げ、前日に異常が見られた鋼鈑等を剥がしとって交換したり、リベットを何本も外して新しいリベットを打ち込む等といった工事が始まっていた。


 その一方、昨日より深い眠りに落ちている明石は自分の分身の変化に目を覚ます事は無く、唇から漏れる寝息を高らかに上げて布団の中で寝返りを打つ。彼女の存在を知る者なれば、「大勢の男達に身体をイジられる」というある意味では大変にアブないその状態を危惧してしまいそうになるであろうが、幸いにも明石艦には彼女の姿をその目に写せる人間は誰もいない。それに布団に包まった明石の身体には分身とは違ってこれといった変化が現れる様子も無く、時折その身体の所々に痒さやチクリとした痛みが一瞬だけ生じる程度であった。

 よって明石の安心の睡眠は妨げられず、やがて彼女は『う〜ん・・・。』と寝言を漏らしながら布団の上で再び寝返りを打ち、無意識の内でお尻をガリガリと掻きながら眠り続ける。


 さて、船の命たる明石がこんな暢気な状態であれば、その分身である明石艦の整備補修もまた特に問題なく滞り無く進んでおり、大きな事故や追加の工事も発生せずに極めて順調な進捗具合であった。重い工作機材の出し入れも乗組員達の掛け声と供にある担ぐ姿が崩れたりはせず、工廠側の作業員達にあっても工事の作業手順を間違えたり、僅か3ミリの位置ズレすらも許されないリベット打ちも失敗無く実施されて行く。

 ただ工事作業とは危険がそこかしこに潜むのが常という物で、携わる人々が十分に気をつけていても多様な形で襲い掛かってくる。当然、帝国海軍においてもこれまでに色んな事故が起こり、中には死人が出てしまった事態だってあるのだ。




 そして明石艦が入渠して2日目の朝、そんな事故が起こってしまう。

 今日も一日頑張るぞと艦の乗組員や作業員達が船渠の中の明石艦へと群がり、口から白い息を漏らしながらの点呼が終わった後に本日の整備補修作業へと汗を流し始める。明石艦の外鈑交換やその下にあるフレーム修正が行われている船渠の底は特に忙しく、無造作にその辺で散らばる各種工事用の機械の隙間を縫うようにして、ヘルメットや作業帽を被った作業員達が動き回っている。本日は艦左舷中央部、艦艇に近い外鈑の新品を付け替える日で、船の骨組みが露わになった作業現場には20名近い男達が船渠の底へと降ろされてくる光沢も輝かしい新たな鋼鈑を見上げていた。

 そんな中、盤木に乗って浮き上がった艦底の下から這い出すように出てきた若い作業員が工具を取ろうとして腕を伸ばした刹那、艦の真上から見るとちょうど乾舷より突き出た格好の彼の頭には小さな衝撃と供に甲高い金属音が鳴り響く。


『いてっ・・・!』


 ヘルメット越しにでも十分伝わる振動が作業員の首を強引に垂らさせ、カーンという甲高い衝撃音は船渠の壁に木霊して辺り一面に伝わる。だがこの光景を振り向き様に目にした作業員は一斉に驚き、鋼鈑の釣り降ろしが完了するのも待たずに一目散になって船渠の壁にある階段を登り始める。


『うあ! 落下だ!』

『逃げろぉ!』


 作業員達の蜘蛛の子が散るような遁走劇を目にする明石艦の乗組員達は何が起きたのか、何を恐れて彼等が逃げ出したのか解らず、船渠の上や艦の上から見下ろして目を丸くする。突然の喧騒は明石艦の周囲全体にまで広がり、全然関係ない隣の船渠や工場施設からも『何だ、何だ。』と作業員達が駆け寄ってくる始末だ。

 やがて船渠の底より一目散で階段を駆け上がった作業員達の中から40歳くらいの顔立ちをした髭を蓄えた作業員が船渠の端っこまで進み出るや、口の前に両手を添えて未だ船渠の底、艦底付近で頭を抱えて悶えている若い作業員に声を掛ける。叫んだ中年の作業員はその上司であった。


中岸(ちゅうがん)ー! 大丈夫かー!?』

『おぁ、だ、大丈夫ですー! あいって〜・・・!』


 明石艦の浮き上がった艦底の下。陽の光も上手く届かない場所にいた若い作業員は頭を抑えながらも片手を挙げて応えてみせ、船渠の端にいる上司を始めとした作業員達は一斉に胸を撫で下ろす。ただ一連の騒ぎは明石艦の艦橋までも届いていたらしく、先程の中年の作業員の叫び声も合わせて何事かと驚いた伊藤特務艦長が甲板へと姿を現した。するとちょうど手近な位置にて明石艦の隔壁の異常を調べていた作業員が駆け寄り、事の仔細と何故に作業員達が一斉に逃げたのかを説明する。

 作業に当たっていた男達が恐れたのは、船渠の底面から10メートル近くもある所より重い鉄材が落下した事態であり、乾舷のちょうど境目付近にて若い作業員が頭を抑え、しかも不気味なほどに甲高い金属音が鳴り響いた事によって、即座に彼等は何かの資材が落下した事態を脳裏に過ぎらせて一目散にその場を逃げたのだった。これはお船の入渠整備では最も忌諱される事故で、時にはボルト一本が落ちたのに続いて数メートル近い鉄板が降り注ぐ事だってある。作業員達は若い作業員を心配しながらも、二次災害の恐れを一瞬の内に懸念したのだ。


『なんだって!? そら大変だ!』


 自分の艦に起因する事故とその概要を耳にした伊藤特務艦長もさすがに狼狽し、大急ぎで甲板の端まで駆け寄って10メートル程もある乾舷の下に目を移す。幸いにもそこから見た限りでは目に付くような落下物は無く、それを確認したのか船渠の上にいた他の作業員達もドカドカと重い靴音を連ならせて駆け寄っていく。若い作業員は駆け寄ってくる彼等に手を上げてみせ、とりあえず自分の身に異常が無い事を継げて安堵の溜め息を先輩方に放たせる。怪我も無く受け答えもハッキリしており、伊藤特務艦長も大勢の部下と供に甲板よりそれを認めて胸を撫で下ろした。良かった、良かった。


『ふう。しかし何が落ちたんだ? リベットか? それともネジか?』


 心配の吐息も瀬戸内の潮風に拭い去られた後、ふと上がった作業員の言葉に他の作業員達も頷いて早速落下物の捜索を行ってみる。若い作業員のヘルメットには何かが擦れた様な傷が確かに出来ていて、彼は船渠の端、排水の為の溝が掘られている部分まで退いて脱いだヘルメットを見回しながら一休みし、先輩方の全員はその前で四つん這いの格好になりながら船渠の底へとしらみつぶしに視線を投げていた。

 ところがこれまた一向に落下したような物体が見当たらない。無造作ながらもその辺に散らばってる工具は元のままだし、その場に控えさせてあるリベットの類もケースに入れて保管されている。故にリベットやネジの類なれば無造作にその場に一本転がっている筈なのだが、何故かしらその場には不自然に落ちている物は一つとしてなかった。


『はあて?』


 そんな言葉を誰かが放って首を捻る最中、若い作業員の上司が先程事故に遭遇した際に彼がいた艦底の部分を調べてみる。外鈑が剥ぎ取られた箇所の真下にあたるそこは鉄製のフレームが剥き出しで、明石艦の骨組み構造がよく見て取れる場所。しかしそれ故に彼は、一番外側のフレームに引っ掛けられた工具の一部を見逃さなかった。


『ん?』


 その工具は先っぽが鉤状になった特殊な形態の物で、明石艦のフレームにしっかりと引っかかるように固定されている。普通に柄の部分を持って引っ張っても外れるような代物ではなく、円の動きを書くように柄を捻る事で外れるような構造なのだが、彼はその長い柄の部分に何かに擦れたような傷がある事、そしてそんな柄の傷がある先端部分がちょうど艦の乾舷の真下の位置にある事に気付く。すると振り返った先にて座り込んでいる若い部下とこの工具、そして一連の一悶着が、彼の頭の中で一つの線で結ばれるのだった。


『お〜い、中岸。ちょっとこっち来いや。』


 即座に彼はその工具を外して片手に持ち替えながら部下を呼び、若い作業員はヘルメットを被り直しながら駆け寄ってくる。刹那、彼の上司は軽く柄とは反対の部分を持った工具を振り上げ、驚く表情のまま固まる部下に構わずにその頭へと工具を振り下ろしてみせる。

 それに続いて響いてくるのは、一悶着の最初の一幕を切り開いた音色であった。


 カーン!


『あいて・・・!』

『なんだよ! 工具に頭ぶつけただけじゃねえか、お前!』


 ここに至ってようやく事故の真相を得た二人。上司の男は大きな声で怒鳴りつけて若い部下の頭にあるヘルメットを小突き、周りの作業員達はなんとも間抜けな事の仔細を知って安堵を越えた感情が溢れ、さらにそれを笑い声へと昇華させていった。


『なんだよ、脅かしやがって〜。ははは。』

『かあ〜、またヘマやったのか、アイツ。わははは。』

『あははは。人騒がせだな、まったくよぉ。』


 笑い声の渦は船渠の底にいた作業員の全てへと連鎖していき、その鎖は錨鎖の如くそこから10メートル以上も上にある明石艦の甲板へと登っていく。伊藤特務艦長以下、明石艦の乗組員達も目にした様子から落下が落下して作業員に直撃したのでは無く、とある間抜けな作業員一名の自打球に近い事故であった事を理解。たちまち彼等もまた微笑みの鎖を構成する一つとなり、明石艦の船渠は笑いの渦で包まれていく。

 こうして明石艦の整備補修中に起きた一悶着は、『ビックリしたなあ、もお〜。』の一言で済んだのだった。






 その2日後。

 明石艦はめでたく出渠となり、整備補修を完全に終えてピカピカに輝く艦体を4日ぶりに仲間達へと示す事になった。久方ぶりの海面にもその艦体の輝きは映りこみ、清々しい11月の澄み渡った晴れ空の下にカモメ達の上空直援を受けて海原を進む明石艦。その前途を伊藤特務艦長以下の乗組員達はきっと明るい物であろうと確信し、各々の職務にさらに励まんと心を新たにする。


 ところがどっこい、船渠に注水されて4日に渡る睡眠から覚醒した明石はそうではなかった。


『ぐええぇえ・・・、お、お腹が痛いぃ〜・・・』


 教育の再開だと意気込んで朝日の下に姿を現すも、彼女は目覚めた時から原因不明の物凄い腹痛に襲われてその表情を明るくする事ができない。見れば明石の顔は血の気が少し失せて青褪めた色合いを滲ませており、いつものように朝日と向かい合う形で腰を下ろしたソファの上でついにダウンしてしまう。歪んだ表情の病める明石は、その身体もまた酷い倦怠感に襲われて鉛筆を握るのすらも一苦労という有様だった。

 だが朝日はそんな教え子の横になった姿を見ても心配するような素振りは見せず、いつものように優しげな笑みを輝かせて紅茶を唇から流し込んでいる。実は明石のこの原因不明の身体状態、朝日もまた経験している物であり、二人を始めとする艦魂達においては整備入渠の度に味わう苦痛なのであった。

 朝日はそんな整備入渠がお船としては定期的に行わなければならない事、そしてお互いに人体の構造を学んだ者故に、人間の女性が同じく定期的にこういう状態に陥らねばならない事を併せ、その事を極めて端的に明石に教えてあげた。


『ふふふ。艦魂にも〝女性の日〟みたいな物があるのよ、明石。苦痛の度合いも様々で、艦齢が募ってくると和らぐ傾向にあるかしらね。私も昔はそうなった物よ。』

『ひぎぃい・・・、し、死ぬるぅ〜・・・。』

『ふふふ。別に死にはしないわよ。明日か明後日くらいには自然と治まるわ。今日はもう良いから、自分の艦に戻って休みなさい、明石。』


 今日だけは朝日が用意してくれた紅茶を一口も飲む事が出来ない明石。余りの苦痛に耐えかねて朝日のお言葉に従ってまだ朝も始まったばかりというのに部屋へと戻り、出てきたばかりの布団に舞い戻ってひたすらに苦痛に耐える時間を過ごす。痛みというより苦しみの度合いがやたらと濃いその容体は相当な物で、しかもまた黙って横になっている方が苦しみが増すという困った物であった。


 新たな命をその身に宿すという人間の女性が持つ大きな特徴を、何故に艦魂もまた持っているのであろうか?


 共通点として模しているにも関わらず、その必要性が全くない艦魂独自の事情を考えると、明石には身体の奥底から放たれる苦痛が物凄く理不尽に思えた。しかし長く思考を巡らせるのもまた不快になる今の明石は、そんな自分を含めた艦魂の不思議を追求しようという気は微塵も起きない。


『ぬうぅう〜・・・、く、苦しい〜・・・。』


 結局この日、明石は一日中ずっと布団に包まり、黙っていられない衝動から枕をガジガジと(かじ)りながら耐える日を過ごしたのだった。

 自分を含めた艦魂という存在の不思議は深く、そしてとても不条理であった。

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