仮面ライダーだったり ショッカーの怪人だったりしたアルバイト
まだ10代か20歳そこそこだった頃、
デパートの屋上などで催す小さな子供たち向けの、
アクションショーのアルバイトをしていたことがある。
いろいろなアルバイトをしたがその中でも最高に楽しかった。
幼稚園生ぐらいの小さな子供たち、
特に男の子たち目の輝きとその熱中ぶりはありえないくらいだ。
本気になった子は場合によっては傘で怪人をつついたりすることさえある。
楽しく始まる司会のお姉さんの明るく元気な声と、
しばらくしておどろおどろしい音楽と共に 登場する怪人達。
司会のお姉さんと仲間は彼らに捕まってしまい、
いよいよヒーローを呼ぶ段取りとなる。
客席からは全力でヒーローを応援する子供たちの声援。
彼らの一斉の呼びかけに応じて颯爽と登場するヒーロー。
ここで僕は大抵はショッカーの隊員のような前座のザコ怪人だ。
打ち合わせでは格闘の段取りはきちんと決まっているが、
本番が始まると度々ミスが起きる。
ヒーローの中にはチーフの人が入っている。
そうなると彼は切れてしまったのか本気で殴ったり蹴ったりする。
それでも着ぐるみを着ているため痛くても表情は伝わらないので安心だ。
巨大ロボットを動かす人の体力は本当にすごい。
あの手足パーツだけでもものすごく重い。それらを一人で振り回し、
細身の人なのに怪力で、回し蹴りなんかしたりする。
どこかの地方の会場でアクシデントもあった。
ショーが始まる前にロボットの首の付け根の部分の針金が弱くなり、
戦闘途中に頭が取れそうになったのだ。
本番中に頭が取れてしまうというのは一大事だ。
中の人が見えたら一巻の終わりである。
子供達の夢を壊してしまうことだけは何としても避けなければならない。
スタッフは必死だった。
その甲斐もあってその時はなんとか切り抜けることができた。
そういう一つ一つの苦労もアクションショーの醍醐味だ。
某有名ヒーローの中に代役として入っていたチーフの話や、
スタントの話など業界の興味深い話も聞けた。
爆発シーンでの爆破を担当する方のお話によると、
連続して爆発する中をヒーローが駆け抜ける仕掛けでは一歩タイミングが間違うと、
爆薬が直撃する危険な撮影なのだそうだ。
戦隊もののピンクのキャラは大抵は女の人が入っているが、
ある会場で人員が不足、やむなく僕がその中に入ったこともあった。
ほんとに恥ずかしい。
できるだけ女性っぽく振る舞いたいと思ったけれども、会場から一人の男の子が叫んだ。
「あれは男だ!」
冷や汗だらけで最後まで演じ切ったがこの時だけは焦った。
船橋だったか千葉方面へライダー二人だけでショーへ言って欲しいと出張になったこともあった。
相方は大学で体育専攻の素晴らしい運動能力の持ち主で性格も良い爽やかな青年だ。
アクションも素晴らしく彼はステージでバク転も演じて見せた。
大成功だった。
どこへ行っても子供たちの輝く顔に出会い、
時には自分に近い年齢の女の子にサインを頼まれたりもした。
子供たちに夢を与えるビジネス。
これがアクションショーの世界だ。