シベリア
午後三時のティータイム。食卓に並べられたのは、今までに見たことがないような奇妙な菓子であった。香ばしそうに焼かれたスポンジの間に、練羊羹が挟まっている。和洋折衷なその菓子に、チアキは不思議そうな表情でマスミに尋ねた。
「変わったお菓子だ」
テーブルに紅茶のカップを置きながら、マスミは少し微笑んだ。向かい側の椅子に座って、どこか嬉しそうに答える。
「私の好物でな。『シベリア』というんだ」
「シベリア?」
チアキは思わず聞き返した。まったく納得のいかぬ名前である。シベリアといえばロシアの地名だ、それとこの菓子と何の関係があるのかさっぱり検討がつかない。和菓子の羊羹が挟まっているので、シベリア発祥というわけでもなかろう。
「そんなに難しい顔をせずに食べてみたらどうだ、中々おいしいぞ」
いやににこにことしながらそう言うマスミを少々不気味に思いながらも、チアキは「シベリア」をフォークで切り分けて口に運んだ。
確かにおいしい。ふわりと軽いスポンジに少し弾力のある羊羹の歯触りがいいし、甘過ぎない小豆とカステラがとてもよく合っている。
「どうだ?」
もぐもぐと口を動かしながら何度も頷くと、マスミは嬉しそうな顔でこちらを眺める。まだ温かい紅茶を一口啜ったあとにチアキは尋ねた。
「どうして、名前が『シベリア』なんだ?」
「どうしてだと思う?」
彼女の質問に、マスミは待ってましたとばかりにそう言った。質問を質問で返されたチアキは困って眉根を寄せ、しばらくの間腕を組んで考える。
「……さっぱり分かんない」
マスミはチアキの答えにふふ、と笑ってそのまま何も言わなかった。痺れを切らしたチアキが由来を問うたのだが、やはり応える気はないようで薄く微笑んで彼女を見つめている。
「もしかして、知らないの?」
「知ってるさ」
からかうようにそう言ってみても軽くいなされるだけ。さすがにむっとし始めたチアキを見てマスミはようやく口を開いた。
「気になってる方が、私と食べたこのシベリアのことを忘れないだろう?」
だから秘密だ、とマスミは顔色ひとつ変えずに言ってのけた。チアキは、久々にマスミに対して呆れてしまった。そんなことをせずとも、一緒に過ごした時間を忘れることなどないのに。マスミがどうしてもシベリアの訳を教えてくれないのなら、こちらもこのことを黙ったままでいてやろうと、チアキはこっそり口角を上げた。