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カノンを捜して~Ⅱ  作者: 塘夜 凛
5/22

5 王子様に恋をしただけ。

今回はショーンの幼馴染で婚約者だったエレナさんのお話です。

一話で終わりますが少し長いです。

5歳のお誕生日会で王子様と出会った。

王子様は小さな花束を渡すと私の頬にキスしてくれた。


私の父は有名な大物俳優で、彼のお父様は父の仕事のスポンサー。

仕事の付き合いで招待され息子を連れて来たと紹介された。


一目で恋に落ちた私は父にお願いして時折彼の家に遊びに行くようになる。

両家の付き合いも深くなる頃、父は彼のお父様に私との婚約の話を持ち掛け彼のお父様も快く賛成してくれた。

この事を彼が知らなかったとは大分後に知らされた。


父は自分にとって大切なスポンサーを娘の婚約により確固たる物に出来た事で大いに喜んだ。


王子様は私の婚約者になった。

私はとても嬉しく思ったのに彼は大きくなっても私を妹の様に接する。


いつだって王子様の周りには綺麗な女の子達が沢山いる。

小さい頃から私も子役としてテレビに出たけれど、『普通より少し可愛いかなぁ?』が私の立ち位置で父程役者としての才能も無く最近は仕事も来ない。


それでも王子様は毎年私の誕生日にお祝いに来てくれてたし時折遊びにも連れ出してくれらから私は彼にとって特別だと思っていた。

王子様の名前はショーン・ディラン。

将来は彼の妻になれると信じて疑わなかった。


20歳の時には大学を飛び級で卒業し、実家を手伝っていた彼は地元でも優秀な事業家として知られていた。


私が大学4年になった秋に彼は突然、婚約を解消したいと破談の申し込みに来た。


元々はこちら側が無理に申し出た婚約ではあったが、10年以上も婚約者として過ごして来た私には信じ難く訳を聞く。


ショックだった。彼に子供がいたなんて・・・

元々かなり人気がある人だったので何人かの女性と噂が有った事は知っていたけど、それは結婚前の遊びだと父は私に言い聞かせた。


彼は直接私の所に来て頭を下げた。


「こんな形で君を傷つけた事を申し訳無く思う。だけど、どうしても彼女を幸せにしたい。彼女こそが私の唯一なんだ。」


「私の初恋はお兄様でした。それならば私の気持ちはどうなるのですか?ずっとお兄様をお慕いしているのに・・・」


泣きすがる私を見ても何処か冷めた目で


「私は君に慕われる様な人間では無いよ。自分勝手な思いだけで彼女を犯し手に入れる様な人間だ・・・子供が出来た事で彼女を確実に手に入れることが出来たと喜ぶ様な・・・」


「犯した?無理矢理?お兄様が?」


「ああ・・・・・『嫌だ、辞めてくれ』と泣き喚く15歳の彼女を犯した。結果子供が出来た事をこの上なく喜んでいる自分に呆れるよ。」


「15・・・嘘、嘘よ・・・お兄様はそんな事しない・・・・」


「・・・本当だ。彼女を手に入れる為にした事なんだ。子供は偶然だったが・・・」


「だって私には頬かおデコにしかキスしなかったお兄様が強姦紛いな事をするわけ無いわ。きっと騙されてるのよ。」


「事実だよ。僕が彼女を強姦し孕ませた。彼女は初めてだったし・・・無我夢中で避妊もしなかった。」


この人は本当に私の王子様だった人なの?泣き叫ぶ事しか出来ない私に両親はただ言葉を失う。


後日婚約破談に対する慰謝料を弁護士が話し合いに来たが、要らないと伝える。

だってお金を貰ったりしたら本当に終わりになってしまう気がしたから・・・自分に少しでも可能性が残るならと思いたかった。





私は大学を卒業しタレントをしながら事務所の手伝いを始める。売れっ子女優になれる様な才能は無かった。

有るのは大物俳優の娘と言うコネだけ・・・

コネで通用する世界では無い事を子供の頃から知っている。他のタレントのマネージメントをしている方が自分に合っていた。


タレント(ジョシュ)を連れ雑誌の取材で浜辺を訪れた時

、偶然にもお兄様と彼女を見かける。


お兄様は赤ちゃんを抱き、彼女の手を繋いで歩いている。衝撃過ぎて言葉も出ない。

声もかけられず車の中から見ていた。


私の乗った車に気付く事もなく隣を通り過ぎて行く。

ジョシュが彼女を見て口笛を吹く。


「何?このアジアンビューティ・・・めちゃくちゃ綺麗イヤ可愛い・・・このボディラインに幼さの残った顔と色気・・・ヤバイ・・・僕でも勃つよ・・・クソッ・・・なんだよ~隣の男が羨ましいな。」


砂浜を歩く2人。可愛い子供をお兄様から受け取りあやす彼女、その人を愛おしそうに優しく微笑むお兄様。


そうお兄様はいつだって優しかった。でもあんな蕩けそうな顔で私に囁く事なんて一度も無かったわ。本当にその人がお兄様の唯一の人なのね。


胸が締め付けられる。この日から私の心は晴れない・・・


それから暫く経った時だった。父の仕事に同行した先で小父様に会う。小父様は今回も父の映画のスポンサー。


「こんにちは。お久しぶりです。小父様。」


「こんにちはエレナ、綺麗になったね。元気にしていたかい?」


「其れがショーンに振られて以来すっかりなんだよ・・・」


「お父様・・・」


父が会話に入り慌てる。


「お兄様もお元気でいらっしゃいますか?」


しらない振りをして問いかける質問に小父様は少し難しい顔をして


「仕事は以前より勢力的にこなしているよ。だが、プライベートでは些か問題で・・・」


歯切れの悪い言い方に先を促すと、


「日本人の女性との間に子供が産まれたんだが未だ籍を入れてない。色々訳ありでね・・・」


信じられない。だってあんなに幸せそうに親子で散歩していたのに・・・?


「何故籍を入れないのですか?」


「私も聞いてみたが、どうも彼女の心がもう少し自分に向く迄はって待っているらしい・・・」


「そうですか・・・お兄様の子供ならきっと可愛いお子さんでしょうね。私も見てみたいな。」


「エレナ。一度私とショーンと子供に会いに行かないか?」


「本当ですか?私は小父様が宜しければ・・・」


久しぶりにお兄様に会える、お兄様の子供を抱けるかも知れない・・・そう思うだけで嬉しかった。

当日突然押しかけた私たちを彼女たち親子は戸惑いながらも家に招いた。


「この子はエレナ。ショーンの婚約者だよ。君は息子と籍を入れる気がないのだろう?

ああ・・入れなくていい。子供は此方で引き取って育てる。息子の髪と目の色を持って生まれた子だ。

私の孫だと認めるよ。君たちに出来ない様な教育を受けさせる事が私達には出来る。

示談金も多く出そう。その子を置いて日本に帰ってくれ。もういいだろ?そろそろ息子を自由にしてくれないか?」


彼女は顔を強ばらせ部屋を出て行った。


私は小父様にお兄様から婚約は破談になった事を伝えていたが小父様はそれを無視した。


「どっちにしても会社の時期社長に此の儘でいて貰っては困るんだよ。」


そう言って引かなかった。私はベビーベッドで眠る赤ちゃんに近づき彼女の母に抱かせて下さいとお願いした。最初は渋っていたが、再度お願いすると困ったように了承してくれた。

可愛い・・・小さくてフワフワしたお兄様のBaby・・・


其処にお兄様が慌てた様子で帰ってきた。お兄様は一瞬お父様と私を見るとどうして此処に居るのか?という顔をしたげど私の腕の中に居る赤ちゃんの顔を見ると優しく目を細め


「ただいま。未來・・・」


そう言って赤ちゃんの頬にキスをした。


パタン。と後からドアが閉まる音に、お兄様は振り向き彼女の後ろ姿を確認すると慌てて後を追う。


家の中に居ても聞こえたクラクションとドンと響いた音に嫌な汗が流れた。


赤ちゃんをメイドに預け外に出ると車の前に跪き叫ぶお兄様・・・・

心臓は早鐘のように鳴り近づくとお兄様は彼女の名前を叫びながら抱き起こしていた。

直ぐに救急車が来て運ばれて行く。お兄様は血だらけのまま一緒に車に乗り込んで行ってしまった。


呆然とする中で彼女の母は『取り敢えず今日はお引取りください』と私達に言う。その目に怒りが困っている様に思えたのは少なからず私の心に疚しさがあったから?


後日小父様の会社を訪れ社長室へと向かうと廊下まで怒鳴り声が聞こえる。お兄様の声だ・・・


《そもそも何しに花音の処に来たんだ・・・・》


《私はお前の事を心配して・・・》


《何の心配だ・・・後継者問題か・・・花音との事は彼女に許される迄待つつもりでいたんだ。

それなのに何故貴方は何時も勝手に思い道理にしようとする?誰が婚約なんて望んだんだ。貴方に僕の意思は関係無いのか?》


その声に私はノックし室内に入った。


《違うんです、お兄様。お父様は私の事を心配して・・・》


《やあ・・・エレナ・・・何しに来たの?・・・》


《・・・・・》


冷たい声と凍りつくような眼差しで射られ言葉も出ない。

私は自分の思いを優先してお兄様を怒らせてしまったのね。

未だ甞てお兄様にこんな恐ろしい表情を向けられた事はない。


《私は彼女がお前と籍を入れたがらないのならエレナと結婚して子供を引き取り両親揃った家庭で暮らした方が子供のためにも良いと思ったから彼女に提案したよ。籍も入れずお前の買った屋敷で隠し子の様に育てるよりはマシだろ・・・そもそも子供の頃から慕っていたエレナに失礼じゃないか・・・》


《自分達のした事は花音に対して失礼じゃ無かったとでも?・・・エレナは?君も同じ意見?・・・君を愛してもいない男と籍だけ一緒になれて幸せなの?

未來はもう生まれているんだ。入籍を急ぐ必要もない、花音が心から僕を信じ受け入れる様になるまで待ちたかったんだ。》


《申し訳ありません、お兄様。でも小父様はお兄様の今後の事を心配なさって・・・》


《俺のことを心配したら何しても許されるのか?・・・・今後?・・・・

最悪、花音に逃げられてエレナと入籍させられたとしても僕は彼女以外愛さないし子供も要らない・・・私には未來が居る。他所で作るつもりも無いからさっきパイプカットして来たよ。それでも俺の子供がほしい?》


《私は只…お兄様が好きなだけだったんです。》


《君は、君を愛さない俺の何処が好き?俺の子を孕んでこの会社の後継者でも作ってくれって父にでも頼まれた?

この会社が欲しいなら入籍でも何でもすればいいだろう?くれてやるさ・・・しかし俺は君を抱かない。他所の男に孕ませて貰うか、処女のまま父の睾丸から取り出した種を自分に植えることだね・・・僕の事は心配要らない、今日限りこの会社を出て行くよ・・・》


《お前一人で何が出来ると思ってるんだ。》


《簡単な事ですよ。今迄この会社の半分以上は僕が経営して来た。その力で独立します。私に着いて来る者は皆連れて行きます。貴方は残ったご老体達と共にこの会社を守ればいい・・・失礼・・・》


お兄様は小父様と決別し部屋を出て行く。私は震える足を叩き慌てて追いかけた。


《お兄様。待って・・・何をするつもりなの?・・・》


《花音を傷つけられて私が黙っているとでも思った?彼女に害なす者は皆私の敵だ。徹底的に潰してやる。》


そう言い去ったお兄様はとても恐ろしくその日からNYにある自宅にお兄様が帰ることは無くなったと聞いた。


1年もしない内にお兄様が立ち上げた会社は飛躍し、逆に小父様の会社は幹部の汚職等の悪い噂が広まる。マスコミも日々このお家騒動を面白可笑しく報道をくり返し父の事務所のスポンサーも降りる程に立ち行かなくなる。


父は小父様の会社が危ないと知るや私に問うて来た。私は事の顛末を父に話し頭を抱えさせるハメになる。


《ディランのスポンサーが降りた原因の一端に自分の娘が関係しているなんてマスコミにでも知られたら私の仕事は終わりだ・・・》


そう言って出て行った。父の名前が有名なだけにお兄様の家族がその後どうなったかなんて探偵を使って調べる事も出来ない。

私がお兄様の子供を間近で見てみたいなんて言わなければ・・・

あの日、我が儘を言い赤ちゃんを抱き上げなければ・・・後悔だけが残る。









お兄様にはあれから一度も会っていない。

9年近く過ぎた頃ニュースでお兄様がおじ様の会社の救済に回ったと言う報道を聞く。漸く仲直りが出来たのか気にはなったが関わる事も憚られた。


私は6年前タレント事務所の次男と結婚し5歳と3歳の娘の母となる。

仕事も充実し平凡だが幸せな日々をすごしている。


共に事務所を手伝う傍ら夫に婚前モーションをかけていたタレントが自分の娘を抱いているのを見た時思わず取り上げてしまった。彼は大げさだと笑ったが不愉快でしか無かった。


私は自分もあのタレントと同じ事をした過去がある。

けれど彼女は私の様に取り上げる様な事はしなかった。

あの時私は『この子が自分の子ならお兄様の笑顔も私に向けられるのに』と思っていた。

小父様が言うようにこの子さえ引き取ればお兄様は自分のものになると・・・恐ろしい事を考えた。


あの時のお兄様の怒りは私の気持ちも見透かしていたのだろうか?・・・・












「ママさっきホテルのロビーに王子様がいたの。綺麗な王妃様と一緒にSPに守られていたわ。」


娘ソフィアの誕生日のお祝いをホテルのレストランで食べていた時にそう言った。


「ママは見てないわ」


「君が化粧室に行っている時さ。はしゃいでぶつかってしまってね。」


「ごめんなさい。って言ったら抱き起こしてくれて『気をつけてね、折角の可愛いプリンセスが怪我したらパパが悲しむよ』って言ったの・・・」


「まぁ・・・素敵な王子様ね・・・」


「一緒に居たのは多分ディランのCEOだったと思うけど・・・」


「えっ?・・・・」


心臓が跳ねた・・・王子様ってお兄様の事?動揺したままあたりを見回すと個室へと案内された美女と目が合う。女性が誰かに何か話しお兄様が部屋から出てきた。


「やあ・・・エレナ久しぶりだね。元気にしてた?」


「ええ。お兄様も元気そうで何よりです。」


「紹介するよ。妻の花音と息子の未來。会ったこと有るよね。」


「・・・ええ。お久しぶりです。」


気不味そうに挨拶すると横からスカートを引かれた。


「わぁ~さっきの王子様と王妃様・・・」


「ソフィー・・・紹介します。夫のジャックと長女のソフィアと次女のアメリアです。」


「こんにちは。ジャック・ウィルソンです。トレジャータレント事務所の副社長をしています。」


「私は・・・」


「フューチャー・エンタープライズのショーン・ディラン氏ですよね・・・知っていますよ・・有名ですもの・・・」


彼が答える前に軽く握手を交わすお兄様と夫。


「王子様も御飯を食べに来たの?」


「僕のことかな・・・僕は王子様じゃ無いよ・・・ご飯は食べるけどね・・・」


困った様に笑い大きくなった彼の息子が優しく答える。


「では・・・失礼するよ・・・」


そう言ってお兄様達は個室に入っていった。


10年前、未だあどけなかった彼女は今や大輪の赤い薔薇の様に匂い立つ色気を醸し出し悠然と彼にエスコートされて行く。


「あれだけの女性ならハリウッドでも通用するよね。」


笑いながら夫は言い、私は『ええ』とだけ答える。


お兄様は彼女が私に気付いたから挨拶をしただけでそれ以上関わろうとはしなかった。と言うか気づきもしなかった筈。



夫は自分から職種を伝えたが、勘のいいお兄様は敢えて其処に触れなかった。


彼が関わればビジネスの話になると分かって妻と息子を優先する。



今でもそう。お兄様の一番は彼女と息子。

もう二度と不用意に近づいてはいけない。

私たちは食事を済ますと早々に帰路へと就いた。










ここまで読んで下さって有難うございます。

エレナ編ずっと気になっていましたがやっと書けました。


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