4 敬士郎の場合
今回は幼馴染で呉服屋さんの敬ちゃん編です。
花音が居なくなって俺は街の高校に進んだ。葵は県一番の進学校を受験し失敗した。
この頃、葵はもうボロボロだった。そしてどうでも良さそうに地元の高校へ進んだ。
それが高三になった時、突然花音は地元の高校に現れた。俺は寮に入っていた為夏休みになるまで知らなかった。
修が死んでから地元の幼馴染との連絡は疎遠になっていたから自分の親から聞いた時には驚いた。
久しぶりに会えた夏休み、花音は以前と雰囲気迄もが違っていてなんとなく違和感と距離を感じた。
俺は付属の大学に合格しそのまま進むことが決まった2学期の終わり学食で昼飯を摂っていた所に瑛兄がきた。
「三学期から花音此処の付属に通うから、色々教えてあげてくれないか。」
「はぁ? 転校? 何で?」
折角地元に帰れて馴染んでた筈の花音に何が有ったのか?
「ちょっと葵絡みで問題起きて・・・花音は悪くないんだけど、外聞が悪くって・・・田舎だしね。」
瑛兄の歯切れの悪い物言いが気にはなったが花音が一緒の高校に転校してくると聞くと嬉しくなる。
三学期の始めに一年のクラスまで行き教室を覗くと人集が出来ていた。
「花音。おはよう。」
「あっ・・敬ちゃん・・・おはよう・・・短い間だけどよろしくね。」
「うん。俺大学もここだからお昼はずっと一緒に食べれるよ。」
「そうなんだね・・・あっ私、お兄と瑛兄もだけどこの近くに引越ししたんだ。暇な時はおいでよ・・葵とりっくんにも住所は伝えて有るから。」
そうなんだ・・・花音が転校しただけで蓮兄と瑛兄迄引越しするんだ・・・なんかガード固くない?
そもそも何で今まで二人共学校は街中なのに田舎から通ってたんだ?
花音が居なくなった原因を2人は知っていて、葵は知らないとか?・・・
俺たちが何も知らされてないように・・・
じゃあーまたお昼に・・・と声を掛け一年の教室を離れると他の女子達がキャーっと騒いでいた。
俺は自分でも容姿は悪くないと自負しているが、瑛兄と比べられると辛いもんがある。アレは特別だ・・・
先に学食に来ていた花音に呼ばれその場に行くと既に瑛兄が居て花音に付いて来た女子もソワソワしている。(まぁ、想像通りのハーレム具合だな)
「瑛兄も来てたんだ。講義は?」
「ん?今日は花音の初登校だったからお昼は奢るって約束してたんだ。なので急遽お休み。」
イラッとした。Mr.G大は成績もトップクラスと有名で1限位休んでもお咎めがない様だ。
「じゃあ、俺はカツカレーでお願いします。」
「あ?・・・ったく。良いよ買って来いよ。」
言いながら千円札をくれる。花音はメニューを見てどれが美味しいか聞いてきた。
「ねぇ、あき兄。私明日からお弁当作るよ・・・」
「どうしたの急に?・・・」
「朝御飯はあき兄が作って、昼は学食で、夜は私とお兄が作るって約束だけど、食費って馬鹿にならないじゃない・・・栄養も偏りがちかなぁ・・・と思うの。」
「俺は構わないけど、花音はきつくない?」
「きつい時は学食にしようよ・・・」
「OK!!じゃあ帰りに弁当の買い物でもして帰ろうか?弁当箱も買わなきゃ・・・」
ちょっと待て。
「瑛兄・・・夫婦かよ・・・」
「何言ってるの敬ちゃん・・・どう聞いたって兄妹の会話でしょ・・・ふふふ・・・」
花音、俺にはどう聞いたって新婚夫婦の会話に聞こえたよ・・・て言っていいものか・・・?
焦った俺は週末に花音のマンションを訪れた。
インターホンを鳴らしてオートロックを解除して貰い訪れた部屋で白いフラフラのエプロンを着けた花音に向かい入れられる。可愛いじゃないかコノヤロー・・・
「敬ちゃん。丁度良かった。お昼まだでしょ・・今作ってるからまってて!!」
そう言いながらリビングに座るとお揃いのフリフリエプロンを着けた瑛兄と一緒にオムライスを作ってくれた。
なんか複雑。
「敬ちゃん。薄い卵が巻いたのと、トロトロ半熟卵が掛かったのとどっちがいい?」
「俺はどちらでもいいよ。花音は?」
俺の返事を聞いて自分の希望もついでに瑛兄にお願いする。
「ふふ・・・ふわとろ卵でお願いします。」
「了解。サラダとドレッシング用意して・・・」
はーい。と行って用意する花音と瑛兄はやっぱり夫婦みたいだ。そこにピンポーンとインターホンが鳴り葵か入って来た。
「はい。デミソース・・・」
「有難う。直ぐ分かった?」
「何時ものだろ・・・何度買いに行かされたと思ってる?」
デミソース缶を買って来た葵の久しぶりに笑った顔を見て驚く。
「蓮兄は?」
「今日はデートだって!!葵、オムライス半分こして・・・」
「ん・・・」
葵の薄焼き卵のオムライスと花音のふわとろ卵を途中迄食べて交換していた。
「何してるの?」
「花音は我儘だから何時も途中で葵のオムライスとトレードするんだ・・・」
烏龍茶を注ぎながら瑛兄が説明してくれる。
「酷い、瑛兄。だって違う食感も味わいたいじゃない・・・・」
「味は一緒だろ。」
「だって葵もその方が美味しく食べられるよね?」
自分を正当化したい花音と当然のように受け入れる葵。
「さあ・・・子供の頃からの習慣だからそういうもんだと思ってた。」
そういう問題か?お前って潔癖だったよな?花音の食べ掛けだから食べれるんだろ?
羨ましいけど言わない。
これでもこいつら付き合ってないんだ・・・しかも瑛兄は隣のマンション寝に帰るだけって・・・
「一緒でも良かったんだけど此処も隣も2LDKしか空いてなかったから葵も泊まりに来るだろうし、男の子ばかりの中で私が生活するのもどうだろって小母さんが気を使ってくれたんだけど結局はお風呂と寝るとき以外は家に居るよね・・・」
と説明された。そんなんじゃ瑛兄あんた彼女出来ないよ・・・その顔無駄・・・勿体無い・・・
食後はショッピングモールへと出掛け当然の様に葵は籠を持つ。こいつ本当にこんな奴だったっけ?
試食のウインナーを嬉しそうに花音に食べさせて自分も食べてる。
感想を花音が言うと一緒に笑って楽しそう。俺って邪魔じゃないかと気になった。
花音が居なくなった後の葵を見てただけに俺は戸惑いを覚えていた。
不安に駆られた俺は月曜の放課後花音に交際を申し出た。分かっていたが返事はNOだった。
花音もまた葵をとても心配していた。2年もの間自分が居なくなった事に因る葵の心の脆さを・・・
母とも姉とも取れる愛情みたいに感じた。
春になり俺は此処の大学に進んだが葵は見事東京のH大に合格した。葵のメンタルのバロメーターは花音次第なんだと改めて納得する。
二年後、付属だからそのまま進学すると思っていたのに花音は美容学校へと進んだ。
大学で同じサークルに誘って一緒に同じ時を過ごそうと考えた俺の浅はかな願いは砕けた。
「敬士郎さん。私を覚えてますか?」
突然声をかけられて誰だ?と思ったら田舎でたまに花音の周りをチョロチョロしてた夏希だった。
夏希は俺のサークルに入り大学から1人暮らしを始めた俺のアパートに差し入れと言ってはご飯を作りに来てくれた。花音の時みたいに他の奴に取られたくないとか自分が醜くなる様な激しい感情はなかったが夏希と居ると素朴な暖かさに溶かされて行く自分がいた。
その時やっと自分の初恋は終わったと気付いた。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
敬ちゃんもそこそこモテる位のイケメンさんでしたが、葵の執着を見て我に帰れる位には冷静に判断できる処の有るいい男でした。この後夏希と結婚し呉服屋を継ぎますが本編にまた出てくるカモです。




