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カノンを捜して~Ⅱ  作者: 塘夜 凛
21/22

21 卒業。

「本田、卒業生代表頼めるか?」


矢野先生に声を掛けられ一瞬固まるも仕方ないと思い引き受けようとした椿はクラスの男子に嫌味を言われた。


「えー? 本田?今年の代表は瓶底眼鏡が読むのか・・・」


クラスの大半が揶揄う様に笑っていた。


椿は中学から高校までずっと何時如何なる時もこの瓶底眼鏡を外さなかった。

それは離れて暮らす恋人である未來との約束の為で有って決して目が悪い理由では無い。


未來は中学に入る椿に必ず外では着ける様にとお願いし椿も約束を守っていた。

椿的には自分の見た目なんかよりは未來との約束の方が大事なので周りに何と言われようが構わなかった。お陰で中高と誰一人椿に声を掛ける男子は居なかった。


勿論夏休みや冬休みにNYに行った時は眼鏡は疎か髪も自由に解いて行く。

大体は家族と一緒に行くが仕事で日本に来た未來が連れて帰る事も会った。


16歳の誕生日で既に婚約しこの秋からアメリカの大学に通う事にしている。

結婚は何時でも良いが予約だけしたいと未來が引かなかったから父梓も承諾した。

元々は椿の初恋だが未來が他人を大事にするのは椿だけだった。


矢野先生は揶揄う男子に向かって質問した。


「本田が眼鏡を外したらお前は一目惚れするぞ。前田は眼鏡を外した本田にも同じ事を言うのか?」


「イヤイヤ・・・先生本田が眼鏡を外した所を見たことが有りますか?此奴修学旅行の風呂でも外さなかったらしいですよ。」


「生憎だが俺は本田の両親とも知り合いで小さい時から知ってるからずっと見てきたよ。」


『へぇー』と無関心な返事が聞こえた。

他人にどうこう言われても良いが未だ椿は自分の素顔は晒せない。

矢野先生にそれ以上は勘弁して欲しいと目で訴え先生は話題を変えた。


卒業式当日式の会場に入るギリギリ迄眼鏡を掛けた椿は保護者席に両親と未來を見つけ驚く。

『嘘・・・』驚いた椿に矢野先生が眼鏡を預かると取り上げられ髪も解く様に言われた。

隣の列に並ぶ前田はふざけていたので椿が眼鏡を外している事も気付いていないどころか此方を見ても居なかったので普通に席まで着いて座った。式は進み卒業生代表で本田楓と呼ばれ返事をして立ち上がる。


漸く此方を見たであろう前田は椿が眼鏡を外している事に気付いたが、椿は既に歩き出して前田が見たのは椿の耳に眼鏡のアームが無い斜め後ろからだった。前に進み卒業生全員が立ち上がる。


「なぁ・・今の本田楓だよな?・・・」

一つ前の福原が振り向き聞いてきた。

「お前見たか?」

「いや・・・」

コソコソ話しながら楓が読んでいる卒業生代表の言葉は聞いていない。読み終えて振り返った瞬間に前に座った生徒からザワザワとした声が聞こえた。前田の身長は170cm位で椿は158cm隣に戻るまで顔が解らない。隣に戻った椿を見た前田は間抜けな声が出た。


「ふぇ?誰?」


椿は一瞬前田を見ると無言で前を向いた。それから椿の横顔から目が離せない。

式場を出てクラスに移動する間も声が掛けられず赤い顔でドキドキしていた。

教室に入った途端に女子は楓の処に集まりコンタクトにしたのかと訪ねていた。

前田はドキドキを他人に気付かれない様に聞き耳をすます。


「元々悪くは無かったんだけど・・・・」


その後言葉を濁すと保護者達が教室の後ろに入って来た。


途中から黄色い女子の声が聞こえて騒がしくなる。

モデル並の外人(未來)が矢野先生と話しながら教室に入って来た。

未來は一瞬椿を見るとにっこり微笑みそれに女子の奇声が響く。

其の儘未來は教室の後ろに移動し(椿の父)の隣に立っていた。


前田は椿の横顔だけを隣の席から見ていたので未來が椿に向かって微笑んだ事も気付かなかった。


暫く教室で先生の説明を聞き卒業証書や別れの言葉を一人一人が思い思いの言葉を告げて椿は『アメリカの大学に進む予定です。』と言った。全員が述べるとその後解散と成る。この後は夕方から謝恩会がホテルで開かれる。


前田は自分がずっと揶揄って来た椿に今日一目惚れをした。この後の謝恩会で告白しようと決める。

ホテルのロビーで何と言うべきか一人悶々と考えたが今迄が揶揄い続けて来たので言葉が思いつかない。そうこうするうちにドレスやスーツを来た同級生と保護者が集まりだした。


黒塗りの外車が止まりホテルのドアマンがドアを開けるとさっきのイケメン外人(未來)が先に降りて手を差し伸べた後に椿が降りてきた。椿は未來の腕に手を廻し優雅にエスコートされて前田の前を通り会場入りした。そして矢野先生に何かを話している。


用意された幾つも在る円卓の左に先生、椿、右に未來が座り正面に前田は座ったが隣は母親だ。

後で福原も来たが先生の隣に福原の母が座り、前田の隣に福原が座った。


福原の母親は未來を見ると暫く見とれ徐に質問していた。


「そちらの素敵な方はどなたの付き添いですか?」


矢野先生は一瞬未來を見て彼が頷くと


「彼は本田の婚約者で未來・ディラン、付属中の時は私の教え子だったんですよ。」


矢野先生の言葉に興味津津の俺の母親は


「でも未だお若いですよね。婚約って早く無いですか?大学生位かしら?」


其れまで黙っていた未來は椿に微笑むと


「僕達は幼馴染みなんですよ。お互いに初恋で、僕が中学卒業後、帰国したので婚約は椿が16の誕生日にしました。誰にも取られたくなかったので・・・それに僕も仕事を引き継ぎしていて暫くは忙しいし、彼女はこの秋からアメリカで大学に通うので明後日には連れて帰ります。」


そういった未來の言葉を盗み聞きしていた周りの女子は『きゃー』と悲鳴をあげていた。

前田の思いは粉々に砕かれ更に母は追い打ちを掛けるように質問した。


「お仕事されてるって事はもう社会人ですわよね。お年を聞いても良いかしら?」


母達の目はキラキラ(ギラギラ)している。


「歳は椿より3歳上で21歳です。大学は19で日本で言うところの院迄卒業しました。

今は父の会社を手伝っていますよ。」


未來の答えに皆が驚き矢野先生と椿は只微笑んでいる。周りは全員驚いて声も出ない中、矢野先生は


「付属の近くにcafeフューチャーって在るでしょ・・・あそこ彼の会社のチェーン店ですよ。分かり易いでしょフューチャー日本語で言うと?福原。」


「・・未来(怒)・・」


息子の言葉に反応した福原の母は


(うち)の主人その子会社のエターナルに勤めてますけど・・・」


「ええ・・・日本の子会社は全てエターナルに企業名を変え統一しました。その内誰かに任せようとは考えていますが、サロン系ですか?人材派遣ですか?cafeはフューチャーしか此処には無いので違いますね。」


未來に聞かれた福原の母は人材派遣の方だと答えたがその後物凄い勢いで飛び上がった。


「フューチャー・エンタープライズの社長さんですよね。確かお母様はモデルの・・・・」


このテーブルの周りにギャラリーが多いのは決して気の所為では無いはずだ・・・・

ずっと黙ったいた椿は矢野先生を見ると矢野先生はやんわりと話題を変えた。


「そう言えば前田、本田の眼鏡を外した姿はどうだった?」


飲みかけの烏龍茶を吹き出しそうに成った前田は真っ赤に成り俯いた。

椿は慌てて『敬士郎小父ちゃん』と怒った。


矢野先生は自分がモデルのKANONと幼馴染だと言う事を告げてついでに自分の初恋でしたと笑って答え幼馴染繋がりで椿の父も親しいと告げた。


椿は其れまで他人と群れる事も無かったが寄って来た女子に質問攻めに合いながらも笑顔で答えていた。前田は椿が将来アメリカに移住するつもりで居たから余り親しい友達を作らなかった事と婚約者の情報を漏らさないようにしていた事に気付いた。


窓際で小難しい本を読みながら、何時でもおさげで瓶底眼鏡を掛けた椿が時折携帯のメッセージを見て嬉しそうに笑う姿が気になって揶揄っていた前田は自分に『小学生か・・・』と突っ込んでみた。


「あー・・・気付くのが遅すぎたなぁ・・・・」


勝手に溢れた独り言は椿の婚約者に聞かれた。丁度トイレから出て来た処だった。


「可愛いでしょ・・・僕のフィアンセは・・・・誰にも取られてく無かったから中学入学の時にあの眼鏡をプレゼントしたんだよ。彼女も約束を守ってくれてたしもう必要ない。・・・これからはずっと一緒だ。今更誰かに渡せないよ。」

未來は微笑んでいるが目は笑っていない。


「解ってますよ・・・伊達に6年間同じクラスに居た訳じゃ無いし・・・・3年の2学期位から雰囲気が変わったなとは思っていたけど・・・・」


言った途端に前田は後悔した。未來は顔を逸らし頬を掻いていた。


「マジで?・・・・」


「僕としては何時子供が出来ても良いけど、椿が未だ遣りたい事が沢山有るから毎回避妊はしているよ。」


前田は『聞いてませんよ。』と項垂れた。

前田の淡い恋心は気付いた途端に砕けた。願わくば彼女がずっと幸せである事を祈ろうと誓った。





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