2 驚愕の事実 陸斗 Ⅱ
高校を卒業すると俺は美容専門学校へと進んだ。
元々美容サロンの息子だ。小さい時から1番身近な玩具はウィッグで手先は器用だと思う。
最初は三つ編み、上手くなったら編み込み、お団子ヘアーは簡単すぎて余り好きじゃない。失敗しても水で濡らすと元通りに戻るから何度でもやり直しがきく。
そのうち母からがしていたロット巻き迄覚えて自由にアレンジ出来るようになっていた。
花音に似合う髪型は徹底的に練習した。
でも、花音のサラサラの綺麗な髪をさわれた時は軽く結って纏めるだけだった。
変な癖が付きそうで勿体無くて出来なかった。結局手先は器用になったものの花音の役には立てなかった。
ある日専門学校の先輩に声を掛けられる。
「菅原君とても器用よね。」
「実家が美容サロンなので小さい頃から遊んでましたよ。」
「ねえ、私の髪を編み込みとか出来る?」
「出来ますけど先輩綺麗な髪してるから勿体無くないですか?」
「私ね、本当は縮毛強制かけてるの。でも偶に編み込みとかカラーとか可愛くなりたいじゃない。」
「はぁ。俺は良いですけど・・・(どっちでも)」
「じゃあ決まりね。今夜家に来て!」
「はぁ・・・」
女性の一人暮らし宅に余り遅くに訪問するのもどうかと思い7時に訪れた。
「こんばんわ。」
チャイムを鳴らすと露出度MAXな服で迎えられた。
「あっ。菅原君来てくれて有難う。」
「いえ。で、今日はセットで良かったんですか。」
今からどっか出掛けるのかな?
「今日っていうか、明日の朝卒業した先輩に会いに行くからセットして欲しいのよ・・・だから泊まって行って。」
そんな格好で男を部屋に引き入れて何言ってんだ?
「はぁ? じゃあ明日の朝でいいですよね?」
「ちょっと待って。菅原君、本宮蓮音さん知ってる? 地元同じって聞いたんだけど。」
あーこの人蓮兄狙いか・・・
「知ってますが、蓮兄が何か?」
立ち話も何だからとアパートの中に通される。
「私、一昨年のオープンキャンパスで今の学校に来た時に私達のグループを担当してくれたのが蓮音先輩だったの。そこで一目惚れしちゃって今の学校に決めたの。でも入学して分かったんだけど、どうも彼女と同棲してたみたいで。」
「・・・彼女居ても不思議ではないけど同棲はないと思いますよ。」
あの蓮兄が花音と住んでるのに同棲はあり得ないな・・・
「一度先輩のマンション近くのスーパーで女の人と買い物していたのを目撃してしまって思わず後をつけたのよ。でも、その女の人マンションから出て来なかったのよ。」
頭の中に『ストーカー』の文字が過った。
「その女の人ってどんな感じでした?」
「どんなって・・・物凄く綺麗なストレートの髪をした美人だったわ。」
「花音かぁ・・・」
「え??・・・知ってる人?」
「多分、妹ですよ。」
「嘘よ・・・凄く親密な感じだったもの・・・」
「その後、スーッとしたイケメンもマンションに来なかったですか?」
「???そういえば・・・モデル並みのイケメンも同じマンションに入って行ったわ。なに?どういう事?」
「蓮兄と花音が兄弟で、イケメンは幼馴染です。蓮兄と瑛兄は小さい頃からずーっと花音を溺愛して育ててますが、決して変な繋がりではありません。しかし、お互い無駄にスペックが高い物同士が一緒に居るから当然恋人なんて作らない。出来ない・・・」
「何それ?兄妹でしょ?」
「花音は中3から2年位の記憶を無くしてるから、普通の兄妹以上に過保護なだけですよ。
当然彼女になる女性はそれを受け入れなければならない。」
「俺、帰りますね。明日の朝携帯で起こしてくれたらセットしに来ますよ。蓮兄の彼女になりたいならむやみに男に泊まれとか言わないほうがいいです。その露出過多な服装も控えた方が。結構そう言う処彼らは潔癖ですから。」
「分かったわ。有難う。」
何かを期待して行ったわけではなかったが『あぁ、またか・・・』という思いで帰った。
美容学校に入って3ヶ月、蓮兄絡みで呼び出されたのはコレで8回目・・・
真直ぐなストレートの黒髪。誰かを思い出させて気になっていただけに少しショックを覚えた。
翌日、朝から携帯がなった。
「おはよう。未だ寝てた?」
「んぁ・・・おはようございます。」
「昨日の事、一晩考えたんだけど、やっぱり告白してみようと思うの。もし善かったら菅原くんも着いて来てくれない?途中迄でも良いから。」
結局蓮兄の務める美容室まで見学という形でついて行った。
「よう、いらっしゃい。陸、と、福田さんだったっけ?」
「名前覚えてて下さったんですね。福田彩美です。」
「あっ。学校の後輩だよね?」
ほらね。昨日俺が蓮兄に電話したから苗字が言えた位で全く覚えていない。
「今日はカットしていく?見学だけ?」
「私は揃える程度でお願いします。」
「俺、見学。蓮兄、お昼ランチ出れそう?」
「ちょっとだけなら良いよ。」
先輩それだけで嬉しそうにするのはちょっと・・・と思いながらカットの後ランチに出た。
「花音元気?」
「会ってないのか? K高の二年生してるよ。周りが年知らないから楽だって言ってたな。」
「先輩の妹さんで未だ高校生だったんですか? 一度見かけましたけどカップルに見えました。」
「・・・高校生って言えば高校生なんだけど、歳は陸と同じなんだ。」
困ったように答える蓮兄。話題を変えよう・・・
「先輩、蓮兄に話あったんですよね?俺、少し席外します。」
「ちょっ・・・あっ・・あの・・・まっ・・
・・・・・・・蓮音先輩今お付き合いしてる方っていますか?」
お願いだ蓮兄、そこで俺の居る席を振り返るな、睨むな・・・
「・・・今はいないけど・・・暫くは余裕がないかなぁ・・・」
しまった。もう少し離れたテーブルに座れば良かった。
「じゃあ、落ち着いてからでいいんで私の事考えて下さい。」
「・・・・・ごめん・・・そう言うの無理だわ・・・基本、自分が惚れないと付き合えない。」
「・・・妹さんの事があるからですか?・・・」
「陸に何を何処まで聞いたの?」
「妹さん二年くらい記憶を無くしてるって。」
蓮兄…睨まないで・・・俺は悪くない。
「はぁ・・・切欠は妹かもしれないけど、俺は今、自分に余裕もなく只好きだって言われたからって付き合う様な男ではないんだよ。相手にも失礼だし、責任も取れない。色んな意味で・・・」
「・・・分かりました。突然押しかけて不躾な事言ってすみませんでした・・・」
「いや、俺のほうこそ・・・」
蓮兄が言ってる途中で先輩は立ち上がってお店を出て行った。
向こうの席でため息吐きながら俺に『追いかけろっ』て視線を送らないで・・・
「ふ・・福田先輩・・・」
「・・・すがわだぐん・・ひっ・・ぎょうは・・あでぃがどぅ・・・ふっ・・・」
瑛兄好みの清楚な服を着て顔をぐちゃぐちゃにしながらお礼を言われた。どうしたもんかなぁ・・・
告白に着いて来てと頼まれたもは5回目その内二回は断った。けれど俺自信放って置けなかったのは今回が初めてで、結局は居酒屋で慰めてアパートまで送った。
先輩は入学間も無く蓮兄に告白しようと後をつけて、花音と買い物している現場を見たそうで、それから蓮兄の好みが黒髪ロン毛のサラサラストレートだと思ったらしく二ヵ月に一回の早いペースで縮毛嬌声を繰返し彼女が居ないと云う噂を頼りに少しでも蓮兄の好みになれる様努力してきたらしい。
黒髪ロン毛のサラサラストレートが好みの男なんて花音の周りの男は皆そうじゃないか。
俺もその1人だし。
でも俺は花音が居なくなって寂しい気持ちはあっても自分を壊してしまえるほど花音に執着してはいなかったのだと葵や亡くなった修を見た時感じた。勿論今でも大事な幼馴染だし初恋の女の子だ。
俺は、ほんの少しだけ花音に似た福田先輩と良く話をする様になった。
中身は全然違ったけれど思いやりのある人だと思った。
その内どちらからでもなく付き合う様になる。先に先輩が卒業し、一年後俺も同じサロンに就職した。それから6年後俺は福田彩美とデキ婚した。
悪阻で苦しむ彩美の為に買い物を頼まれスーパーに寄ると
「あれ?りっくん?りっくんだよね?」
懐かしい声に振り返ると花音だった。隣にはイケメン外人の青年が居る。
「花音?何してるの?デート?」
久しぶりに見た花音はやっぱり綺麗だと思う。げど・・・
「何言ってるのりっくん。デートって・・・ふふっ・・この子私の息子なの。」
「・・息子?・・・はぁ?・・・」
どう見ても中学生、もしくは、高校生に見えなくも無いかという外人男性を息子と言った。
《mom僕daddyの所に行ってるね。》
「OK!! 大きいでしょ。今11歳なの。私15で生んだから。」
「は?・・・・・」
花音の日本語が理解できない。
「あっ・・・今晩うちに皆集まるんだけど、善かったらりっくんもこない?結婚したんだよね?奥さんも一緒に。」
「やっ・・・うちのは今悪阻が酷くて・・・えっ・・15で?・・・」
混乱する脳を高速で回転させる。
「そう?・・・うちもお兄所がもうすぐ産まれそうだし、私も二人目妊活中よ・・・」
「奥さん、体調が善かったらおいでよ。後で場所メールするから。 アドレス変わってないよね? じゃあね・・・」
「・・・・・・・・・」
正気に戻るのに3分は動けなかった。花音は今何と言った?
俺は買い物を辞め、速攻で家に帰り彩美に相談し花音の家に伺う様に連絡を入れた。




