第六十四話 令嬢マドモワゼットと陶器のベル
令嬢マドモワゼットはきなこ餅が食べたいと思った。そこで執事のセバスチャンを呼ぶことにしたのだが、いつもの呼び鈴――陶器製――が壊れていることに気がついた。
「マイセンだったか景徳鎮だったかウェッジウッドだったか古伊万里だったか忘れてしまったけれど残念ですわ。とにかく、別の方法でセバスチャンを呼ばなくては」
と言い終えてから、マドモワゼットはおかしなことだと思う。
「このような陶器製のベルではそんなに音が響くはずもありませんわ……。どこかに盗聴器が仕掛けられているに違いなくってよ!!」
彼女はタンスの奥に仕舞い込んだアンティークな聴診器を取り出し、壁という壁に当てて異音を探し始める。
「東の壁は何もなし……」
そーっと足を動かす。盗聴器を仕掛けた相手に気づかれてはならないからだ。
「北の壁も何もなし……」
西の壁を調べようとマドモワゼットが動いたとき、ドアが開いてセバスチャンが顔を出した。
「セバスチャン! 盗聴器が仕掛けられているはずですわ! お探しになって!」
「そんなものはございません。昨日調べたばかりです」
「あら! そうでしたのね、ごめんあそばせ」
そしてマドモワゼットが事情を説明すると、執事はこう答えた。
「その呼び鈴は屋外でお茶をなさる際に使うものであって、屋内で使うには音が小さすぎるでしょう」
マドモワゼットはきなこ餅を食べたくて仕方がなかったので、そういったことは忘れてしまっていたのだった。




