第六話 錬金術師の死
夕日が沈みかけている。その光は町外れの小さな屋敷の窓を通して部屋へと入っていく。
部屋の中には、フラスコ、蘭引、吹子、分離器、その他様々な実験道具が並ぶ。ここは錬金術師の家である。錬金術師はその乱雑な物の中で祈っていた。
「おお、ヘルメス・トリスメギストスよ! どうか私にあなたの知恵の一端をお見せください!」
彼は八十の歳になっていた。当時ではかなりの高齢だったが、錬金術師の老人にとって、それは何の意味もなかった。彼は自分が何ら成さずに終わるのではないかとひどく恐れていたのである。事実、彼の実験は無意味なものが多く、賢者の石の欠片は当然のこと、愚者の金すら生み出すことはなかったのだ。
「おお! おお! お答えください、ヘルメス・トリスメギストスよ! どうか、どうか!」
そう言って彼は立ち上がり、実験にとりかかった。乳鉢と乳棒を手にすると、木炭を砕く。砕く。砕く。粉状になった炭の中に、硫黄を入れ混ぜる。彼は元素を取り出そうとしていた。燃えやすいものを集めれば、火の元素を取り出せるのではないか。そう思い、次に砕いた硝石を加える。
「……暗いな」
老人は呟いた。よく混ざっているかどうか確かめるべく、乳鉢にランプを近づけた。
その時である、爆発が起きたのは。老人は音の強大さ故にショック死した。彼は黒色火薬を生み出したのだが、その栄光を生きている間に受けることはなかったのである。