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第五十九話 げに山風を
風は唸り、雨は大地を殴打する。山より吹く疾風はまさに大嵐であった。
乾坤は千万の太鼓めいて耳を聾するがごとく、木々はたわみあるいはへし折れ、家屋の内は干戈にすわ巻き込まれたかと錯覚するほどの轟音が渦巻いた。
村男たちは高台へと女子供そして老人を連れて大難から逃し、己らは堤防の決壊を防がんと奮起した。
大河はうねり、叫ぶ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
声を上げて、時に大河の声にかき消されつつも、村男たちは土嚢をリレーした。
土砂を袋に詰める。渡す。運ぶ。積み上げる。
土砂を袋に詰める。渡す。運ぶ。積み上げる。
土砂を袋に詰める。渡す。運ぶ。積み上げる。
このような単純作業を繰り返すこと二時間。土嚢は穴太衆の妙技のごとく集められ積み上がった。
されど、乾坤は今なお千万の太鼓を鳴らすがごとく轟々と唸り、大河は千万の虎狼の叫びのごとくうねる。
男たちは祈った。人事は尽くした。もはやそれ以上のことはできまい。
風は唸り、雨は大地を殴打した。山より吹いた疾風はまさに大嵐であった。




