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第五十六話 老人と海老

 港に船が着く。さして大きくない漁船だ。老人が一人、乗り込んでいる。

 彼の習慣からいくと、大漁の時は黄色一色、模様なしの旗を上げる。

 今上がっているのはその旗である。ならば大漁であり、祝うべきことでもあろう。

 だが、老人の表情は芳しいものとは言いがたかった。何か不可解なものがあるのだろう。

「じいさん、どうした?」

 漁師仲間が尋ねてきた。老人は首を何度も傾げつつ、

「わしは五十年漁をしてきたが、こんなモノは見たことがない……」

 と言って、生け簀を開けて中を見せた。

「なんだこりゃ……海老か?」

 驚いた様子で漁師仲間が叫んだ。老人もううむ、と唸った。

「わしも海老じゃと思う。だがこんな種類は見たことがないぞ」

 海老はどす黒い。さらに体長三十センチはあるだろう。そして、両目が異様に――ピンポン玉ほど――大きい。その他にも異質な点を書き連ねることはできるが今はやめておこう。

「それでじいさん、そんなにこいつが採れたのかい?」

「ああ、おかげで船が沈みそうになったわ。……どうしたもんかな」

「大学の先生に訊いてみよう」

 そして老人の海老は新種で食べても問題ないとわかった。それはそれでよかった。

 まずいことになったのは、新月の夜だった。港に、新種の海老が群れを成して上がってきたのである。漁港はパニック状態になった。後にその海老は陸上に産卵するとわかったのだが、その卵の匂いがまた最悪だった。おかげで、その漁港は寂れてしまった。


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