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第五十五話 世戸の工場

 三ノ輪。人口三千人ほどの村。その一地区、世戸には最近工場が建った。

 豆腐のような立方体の建造物。他の色を失ったように白く塗られた壁。枯れ木のごとくにょっきりと起立した煙突が三本。

「ありゃあ一体何の工場ですかねえ」

 世戸の人々は一人残らず工場が立つ土地の持ち主、妹尾氏に聞いた。そもそも、以前から何の工場が建つのか尋ねられてはいた。

 しかし、妹尾氏はあまり多くを語らなかった。

 ただ一言、

「鉱物を加工している」

 とだけ答えるのである。世戸の人々は、日照権だとか開明的な権利には疎かったので、たいていそこで話は終わってしまうのだった。一方でこじれかける話もあった。労働者のことである。

 世戸の人々はほとんど、というより全く件の工場で働いていなかった。妹尾氏がどこから労働者を確保しているのか、また世戸の人間を雇う気はないのか、だいたいこの二つの事柄で世戸の住民が氏に詰め寄ることが多々あった。けれども、例の工場で本当に働きたいか、と所有者に問われると不思議とそうでもない気持ちになっていくのである。

 さて、例の工場ができてから五年が経った深夜。轟音と共に豆腐めいた建物が打ち割られた。内部からである。世戸の住人は皆驚いて明かりを手に集まった。

「何だ、あれは……」

 皆が見たのは、歩く大仏。放心する皆を睥睨しつつ、大仏は世戸を去っていった。

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