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第五十四話 手作りチョコレート
「手作りチョコには恐るべき引力がある!」
風を背に羽生田は叫んだ。川の堤に腰掛けた俺は、ああ、またいつものバカが始まるな、と思った。煽るか、それか無視するか。後者がよいと俺は判断した。
「おい吉城! なんで黙っている!? この俺の演説を盛り上げないのか!」
「羽生田、バカはそこまでにしておけ」
「なんだと吉城! バカはどっちだ!? この俺が素晴らしい演説をしようとだな……」
「『手作りチョコには抗いがたい引力がある』か?」
俺が言ってやると、羽生田は目を白黒させた。しばらくの間、奴は妙なポーズを二十五種もしてみせた挙句、よれよれとした声で、
「な、なんで俺の演説の先をお前が知っているんだ……?」
と言った。俺は仕方なく、ひらひらと一枚の紙を奴の目の前で振る。
「こいつが落ちてたぞ」
「一体いつから!?」
「ついさっきだ。風で飛んだんだろう」
羽生田はぐぬぬと唸って座り込んだ。しばらくして、
「吉城、お前チョコ貰ったか?」
「ブラックサンダーなら。ああ、問い返しはしないぞ、わかりきっているから」
「なんと……」
うつむいて羽生田は唸った。
「本命でも義理でもいいからチョコ欲しかった……」
「だったらそのバカを治すんだな」
言ってやった刹那、思いっきり殴られた。




