第四十三話 歯の妖精
男はぶどうパンを食べていた。彼の大好物である。
一人で食べるにはカロリーがかなり気になるくらいの大きさがあるぶどうパンをがつがつと彼は食べる。
ふと、口の中に違和感を覚えた。何か固いものがある。何であろう。噛んでみる。そうすると己の歯が欠けたのに気付く。
「なんてこった」
彼は呟いた。欠けた歯を吐き出してみる。白い小さな欠片が出てきた。
「こういうときはどうすればいいんだったかな」
男は迷信深い人物だったので、屋根の上に歯を投げることを実行せねば、と思った。だが、歯は抜けたわけでなく欠けたのだし、しかも一部分の小さな欠片である。おまじないどおり屋根の上に投げるべきか。十分ほど迷って、外に出た。投げることに決めたのである。
「だけどこういうときでもいいんだったか……」
最後まで迷いがあった。しかし、放り投げる。歯の欠片は屋根から滑り落ち雨樋の中にコン、と小さな音を立てて見えなくなった。
さて、その夜。彼は夢を見た。半透明の妖精らしきものが飛んでいる。
「私は歯の妖精です」
「何故半透明なんだ」
「それが、今回のケースをどうするか私にも判別がつかなくって」
「……」
「とりあえず、半分だけあなたをお金持ちにします」
「どういうことだ」
男が叫ぶと同時に目が覚めた。見渡すと、家具が金に輝いているではないか!
「金持ちになるってこういうことか!」
しかし、よく見てみると半分だけ以前と変わらない様子だった。何もかも。




