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第三十一話 即席珈琲老君

 コーヒーを飲もうと思って食品棚を覗くと、小さな老人がいた。

 思わず驚きの声を上げる。すると老人が棚から飛び出してきた。

 杖を持った彼はちょうど仙人を描いたかのような姿で、私が何も言えない内にむくむくと大きくなっていった。

 私は自然にひざまずき、こう言っていた。

「ああ、名の知れぬお方、あなたは一体どなたさまでしょうか?」

 老人はニイイ、と口角を吊り上げて言う。

「わしは即席珈琲老君じゃ。すなわちインスタントコーヒーの神である」

 インスタントコーヒーの神! 聞いたこともないし考えたこともないが、今目の前にいることを思うと実在するのだろう。しかし、何故ここにいるのだろう?

「お前は何故わしがこの家にいるのか不思議に思っておるのだろう」

「はい、その通りです」

「わしが来たのは必然、というわけではないのじゃよ。たまたま通りかかったお前の家に入ってみたというだけじゃ」

「そ、それでは、特にご用もないのですか」

「左様。しかし、暇じゃからお前に恩恵を授けよう。そーれ」

 それ以来、インスタントコーヒーの瓶には常に顆粒があるようになった。しかし、神だというなら、もっと嬉しい恩恵をくれても良さそうなものを。

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