第二十九話 怪盗アルカサル
夜の新日本武具馬具美術館。通常なら昼にもまして静寂が支配するはずの場所。しかし今夜は物々しかった。怪盗アルカサルの犯行予告状が届いたからだ。警察にマスコミに野次馬に、集まった人々は五千人を超えたとも言う。
怪盗アルカサルが狙うと宣言したるは浅葱糸縅の大鎧。使用者はハッキリしないものの、鎌倉時代前期のものだと伝わっている。日本史学会界隈においては七つの説が入り乱れいずれも一定の支持を得ているためややこしい品である。
ともかく、件の大鎧が盗まれぬよう大勢の警官が新日本武具馬具美術館に詰めていた。予告された犯行時刻は深夜三時。上の階級から下のそれまで警官たちは非常に緊張した面持ちである。
そして件の時刻になった。予告通りならこれから一時間は気が抜けない。だが。
一時間、二時間、三時間過ぎれど、怪盗アルカサルはおろか鼠一匹すら現れない。
警察からマスコミ、野次馬、学芸員にいたるまで疲れ切った午前六時、皆を驚かせる一報が届いた。
アルカサルが宝飾美術館を襲撃し総額二十億円の宝石を奪ったというのだ。どういうことか? と世間では話題になったが、実のところ、警察が予告状の余白をあぶらなかったのが原因だった。蜜柑の汁で記された隠し文書は、新日本武具馬具美術館襲撃はフェイクで、宝飾美術館こそが本命だったのである。




