第十話 チェスプレイヤー
C公爵の別荘に四人のチェスプレイヤーが集まった。件の公爵がチェス好きだという話を小耳に挟んだ人は、そのプレイヤーたちは最高の腕を持っているのだろうと考えるに違いあるまい。
しかし事実は否である。公爵は噂になるほどひどいヘボチェスプレイヤー、すなわちウッドプッシャーを集めたのだった。
一人目はひっくり返しのジョン。戦況が不利になると、盤をくるりと向きを変えるイカサマを得意とする。無論、チェス盤の向きが変わったことを咎めない者はいない。
二人目は二度差しのエドワード。そこそこ強いと言われていたが、実際は相手の気をそらして二度駒を進めるというイカサマを行っており、チェス協会から追放された。
三人目はぶつくさマイク。ひたすらに小声で何かをつぶやいて相手の集中力を奪う戦法を取っているが、実際のところほとんど自分がその術中にはまる。ぐりはまである。
四人目は長袖イアン。ウッドプッシャー界でも強いとされていたが、ある日長袖の中にチェス駒が仕込んであることに気づかれ、ヘボの中でも軽蔑された。
こんな連中を集めて公爵は何をしようというのだろう。四人はお互いの顔を見まもり牽制し合う。しばらく沈黙の天使が別荘を支配した。ようやく、公爵が口を開いた。
「諸君、チェスではヘボでもポーカーなら強いのではないかね?」
そしてポーカーを五人でプレイすることとなった。結果は、ヘボは他の道でもヘボだとわかっただけだった。