プロローグ あの日の君へ
「正義とは何か?」と問われたら、
私はこう答えるだろう。
あの物語の主人公のように
プロローグ あの日の君へ
「ごめんね、お兄ちゃん」
少女は虚ろな目で、兄と思われる人物に、剣を向けている。
「どうして? ×××......」
その男は、少女の名を呼んだのだろうが、私には聞き取れなかった。
「......世界は、私たちを拒んだ」
か細い声で少女は、そう言った。その後も何か話しているが、
だんだんと音が遠ざかっていく。
少女が男に剣を振りかざした。その瞬間......
ジリリリリリリリリリリ
目覚まし時計に起こされた。
本好きの私にとっては、割りとそそられる内容の夢だったために、
少しだけ憂鬱な気分になる。
......一瞬ここはどこだ?最近流行りの異世界召喚かと思ったが、
そうだ、ここは実家だ。
幼い頃からの夢だった図書館司書になることができ、
しかも勤務先が故郷の図書館だったので、
遠慮なく実家暮らし!! と一石二鳥な社会人生活のために
つい先日ここ実家に帰ってきたのであった。
とりあえずまだしばらくは、勤務も始まらないし、
家でゴロゴロする気満々である!!
お腹が空いたので食卓に行くと、母が作ってくれた朝食が。
白米ベースに作られた今日の朝食は
白米 味噌汁 目玉焼き 野菜が少々
実に家庭的な理想の朝食だ。
「わー! ありがとう! お母さん! すっごく美味しそう!」
「はいはい、ありがとね。お母さんこの後、近所の○○さんと△△さんとお出かけするから、お皿洗いは自分でしといてね」
「はーい! いただきまーす!!」
うん、予想通りの美味しさだ。
ホッカホカの白米に、具に味の染み渡った味噌汁!
絶妙な焼き加減の目玉焼きは星五つだ!
そしてシャキシャキの野菜が美味しいんだよなあ......
なんて味わっているうちに母はもう支度を終えて、
「あ、そうだ。どうせすることないんだったら図書館に
一度挨拶しに行ってらっしゃい。
司書さんにあんたの就職の事伝えたら、
とても喜んでいたから。じゃあ、行ってきます」
とだけ残して、行ってしまった。
「......行ってらっしゃーい」
正直に言えば面倒くさい。しばらくは
ゴロゴロして過ごすと、
決めていたからだ。
しかし、母の言う、司書さんには小さい頃から、お世話になっていたし、
なにより、もう社会人だ。そういう礼儀は常識であろう。
そう思い、私はノソノソと活動を始めた。
家から図書館まではそう遠くない。自転車で15分くらいのところだ。
しかし、その道にはたくさんの桜の木が植えられていて、満開の時期になると、
皆こぞって花見に来る。
(ここの桜......割りと綺麗で私も好きだったんだよな......)
残念ながら、まだ桜は咲いていない。
けれど、十分に暖かくなってきて、
春の訪れを感じる。
近所の子供たちも春休みだからか外で遊んでいる姿をよく見る。
その姿に自分の幼い頃を重ねていると、
「あの一冊の本」の存在を思い出した。
自転車をグッと加速させ、図書館へ向かった。
「あら~、久しぶりね!元気そうで何よりだわ」
司書さんの顔には皴が入って時間の流れを感じさせるが、
あの頃と変わらない優しい声に私は少し安心した。
「お久しぶりです。この度、こちらの図書館に勤めることになりました。そのご報告とご挨拶に来ました」
と、定型文な挨拶をすると
「これは、丁寧にどうも。こちらこそよろしくね。なんだったら、昔みたいに本を読んで行ってね」
と、微笑んで返してくれた。
お言葉に甘えて私は、本棚の方へ行った。
ここへ来るときに思い出した「ある物語」を探しているのだ。
初めて読んだのは、いつだったか?
確か小学5, 6年生の時だったかな?
その本は誰にも読まれていないのか埃を被っていた。
しかもタイトルは無いし、誰が書いたのかもわからない。
ただその本を読み終えたときの妙な感動は覚えている。
ものすごい感動作だったわけでもない。
むしろ小学生が読むには面白くない内容だったと思う。
それなのに涙が出てきて、司書さんにいらぬ心配をかけさせる
羽目になった。
「あっ、あった」
相変わらず埃を被っていて、誰にも読まれていないようだ。
暖かな光りが窓より入り、手元を少し照らす。
私はあの頃と同じようにゆっくりと本を開いた。
自分の過去を振り返っているように......
初投稿です。
拙い文章ですが、
読んでいただけるとありがたいです。