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魂魄浄瑠璃  作者: 湊 蓮
第参天守 盛夏下日常《せいかのもとでのにちじょう》
14/15

拾肆之間 札島亭戦乱《ふだじまていでのたたかい》■

 ボーナス試験が終わってから10日余りがたち、生徒や教師といった島で生活している人の大半が部活の遠征や実家への帰省などで島の外にいる中、僕や調陪姉妹は島内にいた。

 そして現在、僕はあるお誘いを調陪さんから受けている。そのお誘いとは豊後の温泉旅館に響禾さんを含めた3人で宿泊するというものだ。なお、詳細については旅館での白数は1泊2日だが2日目に日向の高千穂にある鬼之里を収めているといわれているらしい調陪家の本宅へ向かうつもりらしくその事実を知った僕は衝撃を受けた。

 今年のお盆は特に用事がないので行こうと思ったが僕の価値観がそれを拒み、断ろうとしたら文化祭の出し物の配役を決める時みたいに「私、瑠璃浜君と一緒に夜を過ごしたいの。だから旅行についてきてほしいな。」と色仕掛けをしてきたのでそういうのに若干弱い僕だったが同じ手は二度も通用しない。結局は価値観の方が勝り、僕は断ったが今度は調陪さんが服を脱いで下着姿となって僕を押し倒し、「私は、お姉ちゃんと3人で行きたいな。そうしたら男であれば興奮するであろうこの姿を間違いなくみられるのに…。」と誘惑してきた。すると、客間の襖が開いて「あらあら、神楽ちゃんって意外と大胆なのね。まあ、今回の温泉旅行は3人で行くことにして旅館の方に予約を入れておくわね。」と響禾さんが現れて今回の話を決めた。

 それから3日後、鬼岩島の近くにある朱雀島まで高速艇で行き、そこにある朱雀島空港から飛行機に乗って数十分後に豊後に到着した。

 そうして僕たちは空港に待ち構えていた豊後温泉郷行のシャトルバスにほかの客とともに乗車して今回予約を取った温泉旅館である「札島亭」へと向かい、シャトルバスの中で僕はある疑惑を感じていた。それは札島という2文字のワードに対する既視感で、それはおそらく調陪さんも同じことを感じているだろう。暫くして到着し、出入り口の横の予約表には僕たちを含めて4件の予約が入っており、それは僕たちを除くと「○○様御一家」という形だったのだが左から順に葛木様御一家、調陪様、百合根様御一家、そして瑠璃浜様御一家という風に既視感のある苗字が並んでいた。

 同級生と会うことを覚悟して旅館に入って受付を済ませてから部屋へ案内され、散策しようと部屋を出た時に葛木君と遭遇した。同級生と遭遇するかもしれないとは思っていたがそれは案の定だった。僕たちと目を合わせた葛木君は「あれ、瑠璃浜と調陪じゃねえか、お前らもここへ泊りに来たのか?あっ、そういえばさっき札島の姿を見たぞ。場所は1階のロビーだから気が向いたら行くのはどうだ。」と僕にとっては偶然が起こるかもしれない情報を伝えてきた。僕はロビーの近くにゲームコーナーがあることを思い出し、そこへ向かうことにして足を運ぶと丁度僕の家族が受け付けを行っている場面に遭遇した。すると妹の実緒がこちらに気づいて「あっ、唯織兄だ、ちょっとお母さーん、こっちに唯織兄がいるよ。」と母親を呼んだが丁度受付を済ませた父親が「おーい、部屋行くぞ。それと唯織、後でいつでも来られるように部屋の情報教えてやるからしばらく待ってろ。」と僕に伝え、2人を連れて自分たちが止まる部屋へと向かった。

 家族を見送った僕はロビーに置かれているソファーに腰をかけて父を待っていると向かい側に仲居姿の札島さんが腰を掛け、僕と自分の手元にアイスコーヒーが注がれたコップを置いて「家族と再会してみてどうだった、瑠璃浜君。」と話しかけてきた。その問いに対して僕は「まさかこんなところでアウトはあ思ってなかったよ。まあ、2か月ぶりに家族の顔を見ることができたから別にいいけど。」と答え、札島さんが「ふーん、人間や鬼なら大抵が家族に対する思い入れがあるもんね。そりゃそう思うよ。」とコメントしてきたところに実緒がやってきて硬直しつつ「い…唯織兄が女と密会…。しかも相手は見た目の年齢があたしと同じくらい…。唯織兄ってもしかしてロリコン!?」と僕に対して疑惑の言葉をぶつけてきた。その時実緒の隣にいた父は「こんなところで女と密会だなんてお前もやるじゃないか。どうせならうちの弟もこういったことをして欲しいものだがな。」と高笑いしながら言う始末だった。

 いろいろあったものの何とか家族の情報を聞き出すことができたが僕はそこへ行く気になれない。なぜなら調陪さんには見られなかったからまだいい方だが実緒には「家族のいないところで年端のいかない女を侍らすロリコン」という目で見られているからだ。この誤解をどうやって解こうか考えているうちに仲居が2人入ってきて「お待たせしました。当旅館で温泉と並ぶ評判を持つ夕食でございます。是非ご堪能ください。」と1人分を運んでいる方が料理に関する自慢をした。献立は大抵の旅館で宴会を行う時に出てくるようなアものだが量が少しばかり多く、色がやや細い僕にとっては完食できるかどうか不安である。調陪姉妹の方を見るとそれぞれ自分が苦手なものを避けるようにして食べていた。どうやら調陪さんは苦いものが苦手で響禾さんは辛い物が苦手らしい。2人はお互いの目を合わせて自分が苦手なものが乗った皿を入れ替えて完食したが僕はそういったことはあまりよろしくないのではと思い、「今のはちょっと慎んだ方がいいんじゃないでしょうか…。まあ、今は3人しかいないから周りに変な目で見られることはないでしょうけど。」と言うと「あら、別にいいじゃない、姉妹でやったことだし。」と言い返された。

 夕食後、入浴までの間に勇気を出して実緒からの誤解を解くために家族が宿泊している部屋から実緒をロビーへ連れ出した。実緒が「2人きりの場所にあたしを連れ出しておいて何の用なの、唯織兄。」と用件を聞いてきて僕は「実は、夕方にここでできてしまった誤解を解くために呼び出したんだ。僕と一緒にいた女の子は編入先での同級生なんだ。だから僕と同い年で年下に手を出したわけじゃないしやましいこともないから安心してね、実緒。」と札島さんのことを話した。その話を聞いた実緒は「なるほど…、ということは教室で話すような感覚で会話してたんだね、あんな事言ってしまってごめんね、唯織兄。」と僕に対して謝罪した。僕も「こっちこそ誤解を引き起こすようなことをしてしまってごめん、実緒。」と謝罪し、和解することができた。すると「忌々しき兄妹愛を見せつけるなんてお前ら喧嘩売ってんのかワレェ!」と僕たちに啖呵を飛ばし、「そんなお前らは印度人妖の口から吐かれる炎に焼き尽くされて死ねやこの糞兄妹!」と罵倒して来た。そして「88の星座のもとに告げる。我、妖を出現させり、願わくば、インドゥスの力を遣わせよ。」と唱えて中心に「炎」と書かれた魔方陣から印度人妖を出現させた。それに対して僕も戦闘態勢に入って水属性の攻撃系妖術を命中させていった。だが、向こうも炎を吐いてくるもののこちらは攻撃系妖術が一切効かないため物理攻撃を受けない限りこちらが劣勢になることはない。とりあえず旅館に被害が出ないように角力を使って外へとおびき出し、3階にある僕が止まっている客室から見える位置に誘い込んで調陪さんに連絡するとすぐさま異世界へと繋がっていそうな円状のものが出現してそこから戦鬼服姿の調陪さんが出てきた。彼女もすぐに戦闘態勢に入り、砲撃を命中させるがその音にびっくりしたのか実緒が外に出てきた。そんなことは眼中にせず、ちょうどいい具合のダメージを蓄積したところで「拾色龍・氷河」を放ち、印度人妖に止めを刺した。

 元の姿に戻り、調陪さんが出現させた先ほどの円状のもので客室に帰ろうとした時、実緒がこちらに走ってきて「あんな化け物をあっさりと倒しちゃうなんて…、唯織兄、あの姿強すぎて怖いけど凄いよ。」と称賛した直後に「だけど、そこにいる女の人の格好少しばかり破廉恥すぎでしょ。」と苦笑いした。僕は実緒に「じゃあね、次会うのは帰省するときか学校行事で島に一般人が入って来れる時だね。」と別れを告げて客室に帰った。

 その直後、調陪さんが僕に対して「さっきの女の子、もしかして瑠璃浜君が前話してた妹なの?」と聞いてきて僕は「そうだけど、どうかしたの?」と聞き返すと「やっぱりそうだったんだ。瑠璃浜君に対する呼び名からしてそうなのかなと思ったの…。」と答えた。

 印度人妖との戦いの後に偶然誰も入っていない露天風呂に1人で入っていると屋内風呂との出入り口の引き戸の開閉音が聞こえてきて「ここの露天風呂って女湯を覗けるのだろうか…。まあ、なるべく覗けるような造りになってるといいけど。」と独り言をつぶやきながら誰かが入ってきた。僕はその声に聞き覚えがあったので「もしかしてその声…壬?」と声をかけると向こうから振り向き、「誰かと思ったら唯織じゃん。確か2か月ぶりだっけ?」と話しかけてきて「それより…今から女湯を覗こうか。」と突拍子もないことを促してきた。それに対して僕は「ちょっと、女湯を覗くって、正気!?壬、去年の林間学校で女子が着替えてるところを覗いて先生から大目玉喰らったんでしょ。今やったら警察沙汰になるかもしれないんだよ。」と説得するものの「五月蠅ぇ、やると言ったらやるんだよ。」と言われて聞く耳持たずだった。




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 その頃女湯では男湯から漏れ出ている2人の男性が言い争う声を気にした神楽が「何か、騒がしくない?」とつぶやくと響禾は「そうね、誰かが覗こうとしてるのかしら。でも大丈夫よ。神楽ちゃんの裸を見ていいのはお姉ちゃんと唯織君だけだから。」と男湯の様子を察したかのように言った。そして神楽が「そういえば、明日って実家へ帰るんだよね、その時に讃岐には来て欲しいけど若狭には来て欲しくないよ。だって飯山の人たちは高千穂の人に良くしてくれるけど小浜の人は基本喧嘩腰だし…しかも女や子供、老人には色々難癖つけてくるしで里の人はみんな毛嫌いしてるから来ない方がよっぽどマシだもん。」と愚痴をこぼした。それを聞いた響禾は「あー、あそこは毎回のように飯山によってシメられているのになかなか懲りないのよねー、治めているのはいったいどんな質の悪い一家なのかしら。」と悪い感情を吐き出した。




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 風呂上りにゲームコーナーで遊んでいると札島さんが僕に「瑠璃浜君、大変なの。今さっき布団を敷きに御家族の客室に行ったら畳や襖に障子、さらにはテレビにまで血がついてて畳の上には御家族が倒れてたの。」と蒼くなりながら告げてきた。

 家族の部屋に駆けつけると報告通りの光景が広がっていた。部屋の中にある建具には血と思われる赤色のものが飛び散っていて何とも残酷だった。この光景に怯えていると「お二方、今からこの人たちを治療するのでどいてもらえませんか。」と僕たちに呼びかけて部屋に入って行ったのだった…。

 作者の湊です。今回はこの作品初の三人称視点を用いた回でした。なお、地名が登場しましたがフィクションですので悪いポジションで登場したところに住んでいる人はご安心ください。

 今回の視点変更は唯織→三人称→唯織となっております。




キャラクタープロフィール・伍

氏名         葛木 克彦(くずき かつひこ)

出身         伊予(現実での愛媛県)

誕生日        3月22日

星座         牡羊座

血液型        O型

身長         5尺5寸(約166.6㎝)

好きなもの      執筆、洋菓子

苦手なもの      梅干し

所属クラス・出席番号 鬼岩島学園中等部弐年参組拾八番

部活動        文芸部

得意科目       国語

苦手科目       特になし

所属寮及び部屋番号  大江寮男子棟220号室

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