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私の黒子彼氏は浮気症です

作者: 淡海

黒髪のセミロングに、同色の瞳。身長も163cmと平均的で、成績も、学歴も、人並み。何処にでもいるような女。それが、初対面の人から受ける私の印象だろう。

塾の教師をしていて、勉学はまぁまぁ得意だったから、教えてあげられた。


そんな私には、信じられない事に、それはそれは容姿端麗な彼氏がいる。

彼の祖父がアメリカ人だからかクォーターの彼の髪は普通より少し明るめの茶色の髪で、瞳もかなり明るめの茶色をしてる。その下に涙黒子があり、筋の通った鼻。身長差10cm。

年齢差カップルと、言うのだろうか。21歳の私の方が歳上で彼はまだ18歳の高校2年生だ。

実家と高校が遠いからと、お洒落な高級マンションに一人暮らししてる癖に、殆ど家に帰らず私の家に通い妻ならぬ通い夫をしているのだ。


別に、そこに文句がある訳じゃない。彼の作る料理は絶品だし、私にはいつだって優しいし、イケメンだから目の保養にもなるし、私のことが好きなのを素直に言ってくれる。

かといって、完璧な訳でもないのだ。


だって彼、浮気性だから。



「ごめんなさい!」

「…はぁ…」



玄関に入った途端に土下座の美青年を見る私の気持ちにもなって欲しいものだ。半パンに赤いTシャツと地味な格好でもイケメンがきるとお洒落に見えるものである。

毎度毎度、月一のことなので気にせずにリビングにあがり、椅子に座ると、美青年…こと、青山朝日くんが背に哀愁を漂わせ、子犬のような目をし、しゅんとした顔に、私と向かい合わせの椅子に座った。

月に一度は起こるこの事態は付き合いたては傷ついては泣いて、離れてを繰り返してきたわけだが、今思うと面倒である。

大体素直である彼に嘘をつかれる方が傷つくのだと最近知った。

というのも、つい一か月前に事態が起きなくて不自然に思った私は奴を騙してえすえむプレイと名乗った上で縛り付け、興奮する彼をよそに携帯を調べたらなんのその。

簡単に、女の連絡先が見つかり、激情のままにそのまま朝日くんを一日放置したのはいい思い出だ。

彼にとっては暇と孤独との戦いでトラウマものだったようだけど



「…それで?」

「浮気しました。ごめんなさい、フユちゃん。」



フユちゃんとは、私のニックネームだ。てゆうか、彼がそう呼んでいるだけで、他の人が呼んでいるだけで訳ではないけれど。

一宮真冬というのが私の名前で、彼は真冬の冬を大層気に入ってる。何故だか知らないけど。大した理由でもないだろうから、触れたことも無い。



「高校の後輩で…その、告白されて、断ったら思い出だけでもいいからキスをせがまれて…可哀想だったから、キスしたんだ。ごめんなさい。」



こんなのは、軽い方である。ナンパされて、人目が多かったため、ここで断ったら女の子が可哀想ということでついていった先にあった所謂ラブホテルに連れ込まれて、一夜を明かしたこともあるのだから。

心配した私が、彼の家に行ってもいなくて、帰ってきた彼がソファに凭れて転寝してしまった私に、土下座した事もあった。

あの時は、一週間会わなかったし、口も聞かなかったなぁ。


けれど、慣れたからといって、怒っていない訳でも無いのだ。



「けど、ちゃんとキスだけだったし、その後、先輩も諦めてくれたし…」



ペラペラと言い訳を重ねる朝日くんの言葉を遮るように、テーブルを強めに叩く。



「はいはい、言い訳はもういいから、仕事で疲れたし、ココア作って?ご飯まだ?お風呂入りたいんだけど。」



側から見れば美青年を召使いのように使う我儘な女だが、朝日くんは嬉々として彼の家とは比べものにもならない狭い家を歩き、台所で料理し始めた。



「お湯は沸かしてあるよ!」

「そう?じゃ、浴びてくるから、よろしくねー。」



手をひらひらとはためかせて、バスタオルを掴みそのまま浴室に入っていく私を、朝日くんは幸せそうな顔で見てた。

いや君、さっきまで浮気バレてた最低男だからね。



と、これが私達の日常な訳である。浮気は月一で、昔よりも軽いものばかりだったから、我慢出来たんだ。

私だって、朝日くんを好きなのは変わりないし、離れたくないし、彼が最後の人だと信じてる。


けど、流石にこれはないだろう。


それは、冬の終わりごろ。




「…朝日くん、遅いな…」



休日のお昼。朝日君がそろそろやってきて、お昼を作ってくれててもいい時間なのに、肝心の彼がまだ来ない。

もしかして、また浮気?でも、月一の浮気は一週間前に終わってるし…なんて、普通ではあり得ないような事を考えながら、たまには彼の家に行くのも悪くないと厚めのコートを着て、家を出た。


雪が降り積もって滑りやすい道は嫌いだ。でも、朝日くんと歩くなら、嫌いでもないんだ。ツルツル滑りながら、なんとかバランスを保って私の家にたどり着く彼を見るのは、楽しかったし、幸せだと思えた。

色のなかった私の世界に、彼は色を与えてくれたのだから。


だから、今回だってきっとそうだ。特に今日は寒いし、多分着替えに遅れてるか、コタツに入ってまったりしてるだけに決まってる。

余計な不安を振り払って、私はようやくたどり着いたマンションのエレベーターで上に上がっていった。

彼の部屋は4階の右端から3番目。ポケットから持ってきてたスペアキーを鍵穴に差し込み、ビックリさせようとゆっくり音を立てずに中に入って、唖然とした。



なんで、ヒールがあるの。



黒色の、今人気のヒールだった。少し先にあるコートがけには、亜麻色のコート。そして、赤いニット帽。声が出なかった。

何処かで、ギシギシと音が聞こえる。それと、女の、喘ぎ、声。



頭がいたい。本能がここから離れろという。けど、それよりも先に来たのは、怒りだった。

土足のまま中に入り、彼の部屋のある場所を勢いよく開ける。



「!フユちゃん!」

「ふぇ…あれぇ、この人誰?お姉さん?」



甘ったるい声で彼の背中に手を回す女。顔立ちも結構綺麗で、朝日くんと釣り合う。だから、余計悔しかった。



「…朝日くん。」



何も、言えなかった。言いたいことはたくさんあるのに。

何してるの、とか。この人誰?、とか。でもそれよりも先に頭に浮かぶのは、別れの言葉。

ベッドから這い出た朝日くんは、ちゃんとズボンを履いている。まだ、致してないか、それともこれは行為後なのか。

近付いてきた彼の頬を思いっきり叩いた。



「なっ、あんた朝日に何してるわけ!?」

「そっちこそ、誰。なんで朝日くんといるの?」

「あたし…は…朝日の、学校の先輩よ。ちょっと訳あってここにいる。」



わけって何。あなたがブラのままで、朝日くんが半裸でしなければいけないわけなのか。頭に血が上ったようだった。

叩かれた朝日くんは呆然として、叩かれた頬を触れていた。

それだけで、いつもの土下座もしないし、何も言わない。

改めて思い出したけど、私は彼を叱っていただけで、叩いた事はないのだった。


近くにあった机に、スペアキーを置いて、彼に言った。



「今後一切、私に関わらないで。」



そのまま、家を出ようと振り向かずに歩いた。



「ふ…フユちゃ…フユちゃんっ」


ご観覧ありがとうございました!

浮気症彼氏の試作品です!


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