番外編2.共に歩む道 11
「じゃあ、みんな。今回はありがとう」
全ての視察を終え、あたしとディーンは帰路につく。
「おう! 二人が来るのを楽しみしてる!」
「そうそう! 早くおいでよねっ!」
声を上げるダニロとリーゼロッテの横で、ラウラとベルフリートが頷く。
「結婚式の後、ファンシルでもお祝いしよう」
「それはいい考えですね。日中のパーティーにすれば、多数の人が来られるでしょうし」
「賛成賛成!!」
「昼からの酒はいいよな~!!」
「お前の場合、昼夜問わずだと思うが?」
「はっ!! 楽しい酒はいつ飲んでも美味いんだよ!!」
「自分で認めていますね」
変わらずの言い合いをラウラとリーゼロッテが笑いながら眺め、あたしとディーンも一緒に笑う。
季節は晩春から初夏へ。そして、秋まで後少し。
「……秋が待ち遠しいわ」
「待ち遠しいのはファンシルへの着任? それともお嫁さんになる事?」
「えっ……そ、それは……その」
「リーゼ。エレインをからかっちゃダメ」
「そうだぞ。からかったら、ディーンに怒られるぞ」
「間違いないですね。ディーン様はエレイン様の事になると狭量でいらっしゃる」
「ちょ、ちょっと!! 止めてよ! みんな!!」
慌てて皆の言葉を遮るも、ケラケラ笑って聞いてはくれない。
「も、もう……そういうんじゃないんだから……」
居た堪れない。
こういうの、慣れてないから。恥ずかしすぎる。
「まあ。仕方ないだろう」
「……って。ディーンはなんで平気なのよ」
「ん? まあ、慣れたから?」
「適応能力高っ!!」
妙なところは初心なくせに、どーゆーことよっ!!
こんな風にしばらく談笑した後。
お別れなのにしんみりした雰囲気には微塵にもならず。
あたし達は笑顔のまま馬車へと乗り込む。
「――良い人達だったわね」
「そうだな。頼りになるし」
「一緒に居て楽しかったし」
「言いたい事はハッキリ言ってくれるし」
「ちょっとお節介な気遣いもしてくれたし」
「最後まで笑わせてくれたしな」
あたしは窓の外を見る。
流れる景色はまだ緑多きファンシル。だけどその姿は、直に見えなくなってしまうだろう。寂しかった。
「……まあ、後少しだ」
「うん?」
「後、もう少しで、ファンシルへ行けるから」
どうしてディーンがそんな事を言ったのか。
その時すぐには分からなくて。あたしは彼の表情を見る。
ディーンはあたしを見つめて微笑んでいた。
「そっちに、行っていいか?」
途端、空気が甘くなった気がして。
あたしは視線を窓へと逃がし「いいわよ」と、そっけなく言ってしまう。
向かい合って座っていたディーンがあたしの隣に座る。
それだけで妙に緊張して、窓の外へと意識を集中させた。
……緑が綺麗。
この色を目に焼き付けて……。
景色を楽しむどころか、高鳴りを誤魔化すだけで手一杯になる。
しばらくして。
ふと、自分が進行方向に座っている事に気がつく。
それがディーンの気遣いだと分かると、無理やり作った集中はあっという間に霧散した。
――お礼を、言わなきゃ。
そう思いおずおずと視線をディーンへと戻す。
すると彼は、見計らったように口を開いた。
「――王都に戻ったら、すぐ任務に出る。……また、しばらく会えない」
「……うん」
「何処に行くかは言えないが、ちゃんと帰って来るから」
「うん」
「手紙も、書くから」
「うん」
ディーンは頷き、「待っていてくれ」と、続けた。
この視察は夢の先取りみたいなもので。
二人の未来を、どうしたいか考える大事な日々だった。
ディーンがあたしを望み、あたしもディーンを望んだ。
この気持ちは一方方向では満たされない。
お互いが強く望んだからこそ、満たされる。
重ならない想いは切なくて、苦しいからこそ。重なった想いの幸せは格別だと知った。
だからあたしは望み続ける。
以前は聞かれたって口にできなかったけれど――……今日は、自分から。
「……寂しいから、早く、帰って来てね」
今まで言えなかった分、ありったけの気持ちを込めて。
伝われ。あたしの気持ち。
ディーンが嬉しそうに笑った。
「――ああ。なるべく早く帰って来る」
想いが重なり、パチンと弾ける。
幸せのシャワーが降り注ぎ、頭の中を花畑に染め上げる。
赤、白、黄色。
先日見た花も、王都で見た花も。地域とか、季節とか、全く関係なくて。
咲き乱れる花々は歌い出すように揺れ、浴びた幸せで光り輝く。
いつの間にか伸びてきた手が、あたしを抱き寄せる。
強く求められるように。少しの隙間も許せないぐらい抱きしめられ、全身がディーンの温かさに包まれた。
あたしはキュッとディーンの服を掴む。
離れないで。もっと、傍に居て。
どれぐらいそうしていたのだろう。
ディーンがあたしの肩口に頬を寄せた。
「可愛い……」
吐息と共に呟かれた言葉は、あたしの顔を真っ赤にするには十分で。
慌てて顔の向きを変えようして。逆に手を添えられ、位置を固定されてしまう。
「……こんな表情、俺以外に絶対見せるなよ」
「み、見せるわけないじゃない……」
「弱々しい声。こんな声聞かされたら益々心配だ」
熱っぽい瞳で見つめられ、どうしていいか分からなくなる。
「……頑固で意地っ張りなエレも良いけど、こうやって甘えてくれるエレも堪らないな」
「なっ!?」
こ、これは本当にディーン?
それも、あたしに対して言っている言葉なの!?
「意地を張っている時の仕草はこの間分かったし。そうと分かれば、どの仕草も可愛いけどな」
「……!!」
今までの関係だったら絶対聞けない言葉は、あたしが喧嘩友達では無くなってしまった証拠で。
それはちょっぴり寂しくて、これからどんな風になって行くのか不安もあるけれど。
この先それを懐かしむ事はあっても、悲しく思う事は――……きっと、ない。
ディーンがあたしの頬を撫で、名を呼ぶ。
次に何をされるか分かったあたしはそっと目を閉じ、その時を待った。
二人を乗せた馬車は王都へと向け走って行く。
その間、蕩ける様な甘い時間を過ごした事は、二人だけの秘密である。
【番外編2.共に歩む道 おしまい】
いつもお読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)
番外編2は本日で完結です!
最後までお付き合いくださいましてありがとうございました!!
番外編3は準備が出来次第、投稿させていただきます!
お暇がありましたらよろしくお願い致します<(_ _)>ペコリ




