番外編2.共に歩む道 5
今日のお話は、全体の流れにあまり関係ないSSです。
カットするか、後日【あの日の事】的なお話として投稿するか迷った結果。
時系列順に投稿する事にしてみました。
目的のお菓子屋さんへ向かう。
ベルフリートの言っていたお店は大通り沿いの赤茶けたレンガ屋根が目印で、加えて人の列が遠くからでもよく見えた。
並んでいたのは女性が圧倒的に多く、男性は頼みを断れなかったから仕方なく。と、いった感じ。喜々として順番を待ちわびる女性に対し、男性は温かい眼差しを向けていたり、やれやれといった感じに苦笑を浮かべたりしていた。
「評判通り込み合っているみたいだな」
「そうね。時間かかりそう」
あたしは甘いものが好き。
たとえ順番待ちになっても、その後に待っているご褒美を思えばなんて事無い。
きっと、ここで待っている女の子はみんなそう。
「エレ、見てみろよ。こっからショーケースの中身が見えるぞ」
「え? ほんとー?」
促され、店内を覗けば、ガラス張りのショーケースの中には色とりどりのケーキが見える。
真っ白なクリームに赤いワンポイントが定番なイチゴのショートケーキ。
全体が色鮮やかなフルーツタルト。
甘酸っぱさがこちらまで伝わってくる、ラズベリー色のムース。
高級感を漂わせるガトーショコラには可愛らしいミントの飾りと、粉雪のような砂糖がまぶされている。
すぐ側には透明の器に入れられたゼリー達。
いくつものフルーツを閉じ込めたもの、層が綺麗に分かれているもの、夏をイメージしたのかスカイブルー色のものまである。
さらにその隣には――……
「――やっぱ、女は甘いモノに目がないんだな」
掛けられた声に振り返れば、ディーンが目を細めている。
それは先程、列の中にいた男性がしていた様な眼差しで。喜ぶ恋人を温かく見守っている瞳だった。
「だ、だって甘いものは美味しいじゃない……」
答えになっている様な。なっていない様な。
そんな返答をし、あたしは視線を逸らす。
高く鳴り始める心臓は、傍にディーンがいるだけで益々落ち着きを失う。
(……ディーンは、ずるい)
意地悪だったり。優しかったり。
怒ったり。笑ったり。
どれも呼吸するかのように、普通に。
何でもない様な事であたしの気持ちを揺さぶる。
悔しいな。って思う。
あたしだって、ディーンの心を甘く揺さぶりたい。
あたしの仕草で、心臓が高鳴ってドキドキさせたい。
でも。どうやって?
「――エレ」
名を呼ばれ、顔を上げる。
ディーンが口角を上げたまま、指で前方を差す。列が進んでいた。
あたしとディーンはその隙間を詰める。
後ろを振り返れば、先程あたし達がいた場所には別のカップルがいて。あたしと同じように窓越しのケーキに見惚れている女の子と、それを見つめる男の子。その表情がやっぱり愛おしいものを見つめる眼差しで、あたしは胸がキュッと苦しくなる。
二人は指を絡めあって手を繋いでいた。
あたし達は指先すらも触れあっていない。
今のあたしには自分から指を絡めて、手を握る勇気までは無い。
だけど、少しだけ。
ほんの少しだけ、勇気を出して。
あたしはディーンに近づき、自然を装って指先同士を触れ合わせてみる。
ピクリと、ディーンの指が反応する。
それだけでも嬉しくて。
あたしは素知らぬ顔をして、ディーンに触れてみる。
指先や、手の甲。手のひらを突いたり、くすぐってみたり。
彼も途中から応戦してきて、小さな攻防はお互いの顔を見ないまま続けられる。
少しずつ、列が進んで行く。
甘く、じれったい気持ちも高鳴って行く。
そうしてお店の入り口に着いた時。
「――イタズラは、もうおしまい」
ディーンがあたしの手を捕まえた。
そこで初めて、彼の顔を見る。
少し眼元を赤く染めた彼は、あたしと視線が絡むと、フイと顔を他所に向けた。
その仕草はまるで照れている様に見えて。それだけで、あたしは嬉しくなる。
(ディーンのこういうとこ、可愛いかも)
そんな事言ったら怒る。
もう二度と、こんな顔してくれなくなっちゃうかも。
そう思うともったいなくて、とても伝えられそうにない。
この表情はあたしだけのもの。
他の誰にもあげない。
あたしは視線を落とす。
その先には自分とディーンの手。
二人の手は絡め合って結ばれていた。
いつもお読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)




