番外編1.そして、不良騎士は
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時系列としましては、本編40話の数日後、41話の一カ月程前のお話です。
無事アルフレッドの騎士になり、エレインを引き止める事に成功した俺は、万事上手く行ったと手放しで喜べない事態に陥っていた。
「むっすりした顔して、どうしたんだい? ディーン?」
ニッコリ笑いながら問うアルフレッドに、目を細め、疑いの眼差しを送る。
城下では、子供の頃から天使の様だと言われていた、心優しい王子。
実際は、俺みたいな評判の悪い男を構ってくる、放浪癖のあるヘンな奴。
そう思っていたが、この情報にある事を加えねばならないのではと疑っている。
最初はまさか。と思った。
普段のアルフレッドから想像出来ない事だったからだ。
それでも一度芽生えた疑惑は、俺を注意深くするには十分で。
エレインがノーティス行きを辞退した事による、後任者の選定。
その親書の手配及び配達。
これらが自分の知らない内に全て終わっていた今、疑惑はほぼ確信に変わり。そして。
(謀ったかのように残っている、この仕事)
手元にある書類へと視線を落とす。
先程ざっと目を通したそれは、この疑いを決定的なものに変えるには十分だった。
(こいつ、全部分かってやりやがったな)
仕事内容は全てが、単独調査。
元々俺は団体で行動するには向いていない。
チームプレイの重要性を理解した上で、それでも俺は向いていないと思っており、だから騎士団に所属している時も単独で動くようなポジションにいた。
それを踏まえた上で、こうも自分向きの任務ばかり取り揃えられると、もう他の答えを考える余地はない。
もはやこいつには、俺がこの仕事を請け負うという事が分かっていたのだろう。
つまり俺が、アルの片腕になる事が分かっていたのだと。
さらに言えば、その恩賞として下賜される領地を使い、エレインを引き止める事までも見えていたのだと結びつく。もっと言えば俺が、エレインを……。
と、そこまで考え、不毛すぎてやめた。
この王子が何処まで考えていて、それを実行したかなんて考えても、次回それを生かせるとは思えない。俺はごちゃごちゃ考えるのは性似合わないんだ。
「……アル、これらの期限ってどれぐらいあるんだ?」
「んーそうだねー……まあ、全部で三カ月ぐらいかなあ」
「は!? 三カ月!? すぐ動かないと間に合わないじゃないか!!」
「うん、そうだねー」
のんびりとした口調でシビアな期限を突き付けてくるアルフレッド。
こいつが仕事に厳しいのは知っていた。だが。
「……なあ、アル。俺が婚約したの知っているか?」
「うん、知っているよー?」
「今が、一番大事な時期ってわかっているか?」
「うん。そうだねー。いちゃいちゃしたいの分かるよ」
「くっ!! ……それじゃあさ、これ減らし……」
「無理」
「即答かよ!!」
くっそ!!
どうしてこいつは!!
俺が今、どれだけエレインの傍に居たいと思っているか分かっているくせに!!
俺は正直怖かった。
離れている時間が増えたら、ちょっと前みたいな関係に戻ってしまうのではないかと。
それこそ婚約破棄されて、エレインがどっかに行ってしまうのではないかと。
彼女は昔っから自分でなんでも決めてしまうから、顔を見ていないと心配なんだ。
なのに、こいつと来たら!!
「大丈夫だよディーン」
不意にかけられた言葉に、一瞬心の中を覗かれたのかと思った。
俺はアルフレッドへと視線を移し、そんなわけは無いと焦りを隠す。
「アーサーズ嬢はさ、ベタ惚れだから大丈夫だよ」
「ベタ、惚れ……?」
「そ、ベタ惚れ」
マジか……。
アルから見たら、エレインは俺にベタ惚れに見えるんだ。
……意識は顔がニヤけるのを押さえるので精いっぱいだった。
一方通行だと思っていた想いは、ひょっとして俺の思い違いなのかもしれない。
たしかに抱きしめても、キスをしてもエレインは怒らなかった。
……いや、正確には怒りはしたが、それほど強く怒っていなかった気がする。たぶん。
そう考えれば、それは嬉しくてしょうがなかった。
じわじわと込み上げてくる想いが、早く本人に確認したくてしょうがないぐらい大きくなってゆく。
(――ああ。困った)
本当に困った。
これじゃあ、仕事が手に付かない。
俺は緩む口元を手で隠す。
それでも全身から溢れてしまう花畑のような気配は、部屋の雰囲気を温かな色に変えてゆく。
アルフレッドはニッコリと笑う。
「だからさ、ディーンは心配しなくて大丈夫!
なんてったって、ファンシルは研究者の楽園! アーサーズ嬢もベタ惚れさ!!」
「ベタ惚れってそっちかよ!!」
「え? 何? それ以外にあるの??」
キョトンとした顔が可愛らしい天使なんかじゃなく、イタズラ好きの妖精に見え。
「おーまーえーは!!!!」
「あれ? 何怒ってんのディーン?」
「っ!! 何でもない!!」
信じられねぇ!!
こいつ、自分が腹黒だってバレたから遠慮なくからかってきやがる!!
もはやアルフレッドのニコニコ笑顔は、何かを企んでいる黒い微笑みだと認識を変えなくてはいけない。
そう思えば、このままからかわれたままと言うのは癪だ。ならば、本当にベタ惚れになってもらうしか方法はないだろう!
「アル! 今日はもう帰る!!」
「えー? まだ、来たばかりじゃないか」
「仕事する気にならねぇ!」
「ふーん。まあ、いいけど?」
「おう!」
今日中にエレインと気持ちを通わせて、絶対からかわれないようにしてやる!!
俺は手早く荷物を片づけ、執務室の扉へと向かう。
エレインに会ったらどうするか。好きだともう一度伝えようか。いや、俺の気持ちはもう伝わっているハズだ。俺が聞きたいのは彼女の気持ちで。だから、俺の事をどう思っているのか教えてくれと迫ろう。だが、素直に教えてくれるだろうか? 頑固なエレインの事だ。教えてくれない可能性が高い。それならば、もっと強引に――
そんな事を考えていると、「あ、そうそう」と、アルフレッドが声を上げた。
「強引に迫ると嫌われちゃうからね?」
「頭ン中見えんのかよ!?」
そう口走って、慌てて口を押さえる。
その仕草を見てアルフレッドは「ディーンは正直者だね」などとニヤニヤ笑っている。
くっそお!
やること成す事、全て先読みしてきやがる!!
俺はアルフレッドとこれから働くのかよ!!
あーやめだやめだ!! こんなのと働いていたら身が持たねえ!
王子の護衛騎士なんてなりたい奴はいくらでもいる! そいつに譲って……
と、そこまで考え、俺は自分の捕まえた未来の姿を思い出す。
大切な友人に囲まれ、彼らを守る事の出来る力と、その立場を手に入れ。
愛する彼女が愛する薬草に囲まれ、幸せそうに笑っている姿。
それらを手に入れるには、俺が俺の望む姿を追い続けなければならない。
嫌な事があっても、真っすぐ進めなくても、立ち止まる事があっても。
俺が立ち上がり続ける限り、その姿は現実のものとなるのだと。俺は、知っている。
「――アル。やっぱ、仕事するわ」
「うん。よろしく頼むよ、ディーン」
太陽みたいな笑みを浮かべる友人に、俺は苦笑する。
逃げようと思えば、簡単に逃げられる。
道はいくつもあり、いとも簡単に現実を変える力があるから。
その中で俺は自分の望む道を選び取る。
決して一人では見つける事の出来なかった道は、強く願った女性と道は他にあるのだと根気強く俺に声をかけてくれた友人が教えてくれた。もう逃がさないと誓った。
「――なあ、アル」
「ん?」
「ありがと、な」
俺は心から感謝する。
苛立ち燻っていた俺をうっとおしいぐらい照らしてくれた、一人の親友へ。
だけどその本人は。
「わお! ディーンってからかわれるのが好きなの!? それって……」
「おい!! 良い話ぶち壊すなよ!!」
これが、照れ隠しだと分かるのは、ずっとずっと後になる。
【番外編1:そして、不良騎士は おしまい】
番外編第一弾、お読みいただきましてありがとうございます。(*^_^*)
まずはじめに。
糖分過多なお話を期待されていた方、ごめんなさい。
二人のお話は、次話以降となりますので、またお暇がありましたらお付き合い頂けると嬉しいです。<(_ _)>ペコリ
今回のお話は元々、本編ラスト用に書いていたものです。(詳しくは8/14活動報告にて)
その後、番外編の一番初めが相応しいのではないかと思い、このタイミングで投稿させていただきました。




