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41.それからのあたし達は



  





「何よ!! どうしてそんな事いうわけ!?」

「はあ? それはエレがいけないんだろ!!」

「いけないって! ただあたしは、仲間と話していただけじゃない!!」



 旅を終え、ノーティス行きの技術師を見送り。

 あたし達は日常を取り戻していた。


 ディーンはアルフレッド殿下の護衛騎士として、あちこち忙しそうに任務をこなしている。一方、ノーティス行きを辞退したあたしは、そのまま研究室に残留し研究を続けていた。


 もうしばらくしたら、ノーティスから技術師が到着する。


 その歓迎会も兼ねてパーティーを開く事になり、あたしは仲間と話をしていた。――その相手は男性だ。



「何も、二人きりで話すことないじゃないか!」

「別に、故意に二人きりになったわけじゃないわよ!」

「事実、二人きりだったじゃないか!」



 完全に濡れ衣だ。

 いつもなら他の仲間も一緒で、複数人で話をしている。

 たださっきは、皆席を外していただけで、単なる偶然。


 あたしには(やま)しい事なんてないのに、ディーンはずっと不愉快な顔をしている。



 (……折角、久しぶりに会えたのに)



 そう。ディーンは忙しくなった。

 以前より責任のある立場になった為、顔を見るのも一カ月ぶりだった。



 (なによ。『エレがいない毎日なんて、考えられない』とか言っておきながら!)



 何の音沙汰もなく、一カ月も放置して!

 それなのに、会えた途端こんな事言われるなんて。


 忙しい事は分かっていた。

 だけど、毎日いつ手紙が届くか、ずっとずっと待っていたのに。



「とにかく! 二人きりになるのは止めてくれ」

「なんでよ! 別に疾しい事なんてないわ!」

「それは信じている。……でも、俺が嫌なんだ」



 そういうとディーンはそっぽを向いた。

 少しだけ顔を染めた彼は、まだムスッと口を引き結んでいる。


 あたしは今言われた言葉を時間差で理解し、ポカンとしてしまった。



「……ヤキモチ?」

「そうだ」

「……なんにも、ないよ?」

「分かっている」

「……だって、お父様と同じ年」

「それでも嫌なんだ」



 嬉しくて、笑ってしまう。

 そんなあたしを見たディーンは、急に手を引いた。

 突然の事に反応出来る訳の無いあたしは、そのまま彼の腕の中に飛び込む。



「わかったら、もうしないでくれよ?」



 顔を上げず頷くあたしに、ホッと息をついたディーンは「会いたかった……」と、耳元で囁く。


 彼の想いは真っすぐ過ぎて、こちらが赤面してしまう。



「なあ、エレは?」

「……ん?」

「俺に会いたかったか?」



 同じ想いを返してほしいと、その声色は言葉より雄弁に語っていた。



 こんな時、あたしは意地を張りたくなる。


 『寂しくなんてなかったわ』


 そう言えば、彼の方があたしを求めてくれている気持ちになるから。

 自分の方が寂しくて毎日手紙を待っていたという事を秘密に出来るから。



 でも今日だけは。

 ヤキモチなんて焼かれて、少し浮かれているから。


 ちょっぴり勇気を出して、本当の気持ちを伝えてみよう。



               ・

               ・

               ・



 ディーンが驚いたように目を瞠る。


 やっぱり、らしくない?

 前言撤回した方がいい?


 不安になる。やっぱり、まだ――……


 そう思っていたら、彼はすぐに優しい笑みを浮かべた。



「……今度は、手紙書く」



 ――その後。

 あたしは不覚にも泣いてしまった。


 嘘の魔法を解いたあたしは酷く涙もろい。

 あの魔法には涙腺を強化する効果もあったに違いないと、断言できる。


 慌てるディーンがハンカチを探している。

 そんなもの、前から持ち歩いていたっけ? なんて。そんな場違いな事を思ってしまう。



「なあ、エレ。泣くなよ」

「ひっく……」

「お前に泣かれると困るんだよ」

「うっ……うっ」

「ああ。どうすれば……」



 困り切ったディーンは手のひらで、涙を拭ってくれる。

 ちょっと痛い。でも、嬉しい。


 それでも止まらない涙を彼は益々困った顔で見ている。

 悪いなあ。と、思いながらもそのままにしていると、彼が急に表情を変えた。



「……そうだ! 今から、菓子屋に連れて行ってやるよ!!」



 はい?



「エレは甘いもん好きだろ? それで、泣くのは止めだ!」



 ちょっと、待て。

 あたしはお菓子をねだる子供か?



「前にな、アルに聞いた店があって……」



 あたしの心の内を察していないディーンは、さも名案を思いついたようにお菓子屋の話をする。


 待って、待って、ちょっと待って。

 別にあたしはお菓子が欲しくて泣いているわけじゃないわよ?



 (どうしてこんな事に?)



 それはディーンだからとしか言いようがない。

 彼は鈍感、朴念仁で、たまに予測不可能な事を言ってくるおバカさん。



「……今日は特別だ、店の菓子全種類買ってやるよ!」

「食べきれる訳ないじゃない!! っていうか、その前に気付けバカ!!」

「は? 馬鹿とはなんだよ! 人が折角!!」

「『折角』以前の問題!! そんな事も分からないの!?」

「分からない!! だから、ちゃんと言えよ!!」

「言えないわよ!! バカ!!」

「言えないくせに、人を馬鹿にするのか!?」



 ――今日も、一日が過ぎてゆく。


 嘘の魔法を解いたあたしと、不良騎士を止めた彼は、今も『犬猿の仲』に見えるらしい。


 まあ。それは、表面上だけで。


 本当はお互い好き合っている事実が、後ほど王国中に知られてしまう未来を。今のあたしは知らない。





【嘘の魔法と不良騎士 本編 おしまい】


いつもお読みいただきまして、ありがとうございます!!(*^_^*)

本編は今回を持ちまして終了です。ご愛読、本当にありがとうございました!


この後、番外編を更新予定です。(*^_^*)

もう書き終えているお話と、今書いているお話といくつかあります。

ディーンとエレインのお話の時は糖分過多予告です……!!

お暇がありましたら、お付き合いいただけるとうれしいです(*^_^*)


番外編のリクエストなどありましたら、お気軽にどうぞ(*^_^*)


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