20.香り
お待たせいたしました<(_ _)>ペコリ
ディーン視点です(*^_^*)
「一体何なんだあいつは!!」
俺はそう吐き捨て、エレインが立ち去った扉を睨みつけた。
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最初から何者かが忍び込んで来た事は分かっていた。
――物盗りか。
状況から考えてそう見当をつけたが、念のため寝たふりで様子を窺う事にした。
馬鹿正直に扉から侵入してきた物取りは気配を殺す事無く、――恐らく真剣に、物音を立てぬよう静かに扉を閉めた。
明らかにド素人丸出しの動きは、手くせの悪い子供か、困りに困って仕方なくといったところだろうか。
物盗りはしばらく部屋の中で立ち尽くしていた。
物を盗る気なら物色すればいい。怖気づいたなら、今すぐ立ち去ればいい。
相手の出方一つで自身の行動が決まる為、その初動を見極めようと神経を研ぎ澄ます。
しかしそいつは室内を調べている様子もなく、かと言って部屋から出てゆく気配もない。
――おかしいな。
そう考えている内に、物盗りが動いた。
奴は金目の物が入っている戸棚へとは向かわず、なんと俺の枕元まで来る。
そうしてから全く殺気を放つ事無く、親書のみが入ったザックを掴んだ。
――ただの物取りなら、すぐに捨て置くはず。
しかし物盗りは躊躇う事無く、親書を抜き取ろうとした。
『万が一、本人以外の手に渡り解読されてしまうと、その本人に危険が及ぶ可能性がある』
そう聞いていた俺は、万一にも親書を見られる訳にはいかない。
――捕まえて、背後の奴らを聞き出さなくては。
ナイフを突き付け、逃げられない様に拘束する。
呆気なく腕の中に囚われた物盗りは、柔らかくて良い香りのする女だと分かり――すぐに、それがエレインだとわかった。
エレインが俺を裏切る――――?
想像した事実は酷く心を掻き乱した。
親書の宛名が読めない俺はエレインの言う場所へと向かった。当然、彼女の言葉を疑わなかったし、疑うなどという発想すら今の今まで思いつきもしなかった。
動揺し、しかし仕損じる事も許されない中、高ぶった気はすぐには収まらない。
彼女を追い詰め、震え上がらせる。
正直に言ってくれ。
俺はお前を酷い目になんか合わせたくないんだ――――
エレインは震える声で謝罪を口にし、俺の用意した逃げ道へと駆けてゆく。
頷くだけの返事だったが、誰かと通じている可能性を潰し、二度目はないと伝える。
決定的な裏切りを突き付けられなかった事に俺は安堵した。
そうだ。エレインが俺を裏切る訳がない。
それによく考えてみろ。誰かの指示で親書を奪うならもっと違う人間を選ぶはずだ。
気配も消せないエレインが、そんな事をする訳が無いのだ。
彼女が自分を裏切らない理由を並べ、『エレインの興味本位』という自分が作った逃げ道を俺自身も信じる事にした。
緊張がほぐれ、つい思ったままを口にする。なのに、喧嘩になる事もなくて、寒くなったら『香』を分けてくれる約束までできた。
なんだか、うまく話せている事が嬉しかった。
いつもこういう風に話せたら、楽しいだろうなって。
じゃあいつも、こうするにはどうしたらいいだろう。
そう考えて提案したのに……あいつ、いきなり蹴りやがった。
ほんっと足癖の悪い令嬢だ。信じられねぇ。
大体ヘイなんとかってなんだよ!?
難しい言葉使うんじゃねえ!!
あまつさえは俺が『不埒な騎士』だと触れまわると脅してきやがった。
おい。
忘れてないか、エレイン。
お前が親書に触れようとしたからこうなったんだぞ、と。
なのにあいつと来たら……!!
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「……ああ!! ほんと、イライラする!!」
俺は思いっきりベッドに倒れ込んだ。
もぞもぞと横向きに寝転がり、スッと息を吸い込む。
そこで俺は――……後悔した。
痺れるような甘美な香り。
今までだって嗅いだ事ぐらいありそうな、香の香りだというのに。今日、今だけは俺の心を惑わせる。
(……良い匂い、だな)
ほんのりと甘い香りは、さっきまでここで俺の下敷きになっていた彼女を連想させ、知らず知らずのうちに体温が上がってきた。
あんな風に同じ寝台の上で身体を密着させるなど……まるで、恋人同士のようだった。
会話だって、うまくできていた。
エレ、と呼んでも怒らなかったし、エレインだってディーンと呼んでくれていた。
受け答えのすべてが柔らかくて、優しくて。気の強さはそのままなのに、心をじわじわと溶かしてゆくような甘さがあって……このままずっと、ずっとその甘さに触れていたくて。
『いつもこういう風に話せたら、楽しいだろうなって。』
そう思った事は俺の正直な気持ちで、それを伝えようとした時の彼女の反応はとても……
可愛かったのに。
そこまで考えて首を振った。
もう寝よう。
あれは幻想だ。そうに決まっている。
俺は目をつむりブランケットを被る。
柔らかな肌触りが無性に落ち着かなくて、何度も寝返りを打つ。その度に舞う甘い香りで否応なくエレインを思い出し、今度は石のようにジッと動きを止める。
ただそれも無駄で。
脳内まで侵入してしまった甘い香りは彼女の姿を作り出し、俺の名を呼ぶ。
それはとても心地良いと感じるのに、その理由は…………分からなかった。
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翌日。
エレインはケロリとしていた。
いつものように身支度を済ませ、これまたいつものように食事をとる。
仕草も、声色も、俺を見た時も。まるで、昨晩の事など存在しなかった様な振る舞いは、なんだか苛立った。
(……もっと、触れてやればよかったか?)
エレインに対してそんな邪な気持ちを一瞬でも抱いてしまって、俺は頭を柱にぶつけた。
「な、なにをやってるの、エメリー様……」
「……なんでもない」
バカか俺は。
エレインに馬鹿にされ続けているから、本当に馬鹿になってしまったのかもしれない。
「お前のせいだ、エレイン」
「はあ!? 一体何の事よ!!」
朝っぱらから言い合った俺達は、やっぱり無言で仕度を整え、ファンダムを旅立つ事になった。
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