表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/54

20.香り

お待たせいたしました<(_ _)>ペコリ

ディーン視点です(*^_^*)


 





「一体何なんだあいつは!!」


 俺はそう吐き捨て、エレインが立ち去った扉を睨みつけた。



                   ・

                   ・

                   ・



 最初から何者かが忍び込んで来た事は分かっていた。

 


 ――物盗りか。



 状況から考えてそう見当をつけたが、念のため寝たふりで様子を窺う事にした。

 

 馬鹿正直に扉から侵入してきた物取りは気配を殺す事無く、――恐らく真剣に、物音を立てぬよう静かに扉を閉めた。 

 明らかにド素人丸出しの動きは、手くせの悪い子供か、困りに困って仕方なくといったところだろうか。


 物盗りはしばらく部屋の中で立ち尽くしていた。


 物を盗る気なら物色すればいい。怖気づいたなら、今すぐ立ち去ればいい。

 相手の出方一つで自身の行動が決まる為、その初動を見極めようと神経を研ぎ澄ます。


 しかしそいつは室内を調べている様子もなく、かと言って部屋から出てゆく気配もない。



 ――おかしいな。



 そう考えている内に、物盗りが動いた。

 奴は金目の物が入っている戸棚へとは向かわず、なんと俺の枕元まで来る。

 そうしてから全く殺気を放つ事無く、親書のみが入ったザックを掴んだ。


 ――ただの物取りなら、すぐに捨て置くはず。


 しかし物盗りは躊躇(ためら)う事無く、親書を抜き取ろうとした。



『万が一、本人以外の手に渡り解読されてしまうと、その本人に危険が及ぶ可能性がある』



 そう聞いていた俺は、万一にも親書を見られる訳にはいかない。



 ――捕まえて、背後の奴らを聞き出さなくては。



 ナイフを突き付け、逃げられない様に拘束する。

 呆気なく腕の中に囚われた物盗りは、柔らかくて良い香りのする女だと分かり――すぐに、それがエレインだとわかった。


 

 エレインが俺を裏切る――――?



 想像した事実は酷く心を掻き乱した。

  

 親書の宛名が読めない俺はエレインの言う場所へと向かった。当然、彼女の言葉を疑わなかったし、疑うなどという発想すら今の今まで思いつきもしなかった。


 動揺し、しかし仕損じる事も許されない中、高ぶった気はすぐには収まらない。

 彼女を追い詰め、震え上がらせる。


 正直に言ってくれ。

 

 俺はお前を酷い目になんか合わせたくないんだ――――



 エレインは震える声で謝罪を口にし、俺の用意した逃げ道へと駆けてゆく。

 頷くだけの返事だったが、誰かと通じている可能性を潰し、二度目はないと伝える。

 決定的な裏切りを突き付けられなかった事に俺は安堵した。


 そうだ。エレインが俺を裏切る訳がない。

 それによく考えてみろ。誰かの指示で親書を奪うならもっと違う人間を選ぶはずだ。

 気配も消せないエレインが、そんな事をする訳が無いのだ。

 

 彼女が自分を裏切らない理由を並べ、『エレインの興味本位』という自分が作った逃げ道を俺自身も信じる事にした。



 緊張がほぐれ、つい思ったままを口にする。なのに、喧嘩になる事もなくて、寒くなったら『香』を分けてくれる約束までできた。

 なんだか、うまく話せている事が嬉しかった。

 いつもこういう風に話せたら、楽しいだろうなって。


 じゃあいつも、こうするにはどうしたらいいだろう。


 そう考えて提案したのに……あいつ、いきなり蹴りやがった。


 ほんっと足癖の悪い令嬢だ。信じられねぇ。


 大体ヘイなんとか(・・・・・・)ってなんだよ!?

 難しい言葉使うんじゃねえ!!


 あまつさえは俺が『不埒(ふらち)な騎士』だと触れまわると脅してきやがった。


 おい。

 忘れてないか、エレイン。

 お前が親書に触れようとしたからこうなったんだぞ、と。

 なのにあいつと来たら……!!



                   ・

                   ・

                   ・



「……ああ!! ほんと、イライラする!!」



 俺は思いっきりベッドに倒れ込んだ。

 もぞもぞと横向きに寝転がり、スッと息を吸い込む。

 

 そこで俺は――……後悔した。

 

 痺れるような甘美な香り。

 今までだって嗅いだ事ぐらいありそうな、(こう)の香りだというのに。今日、今だけは俺の心を惑わせる。



(……良い匂い、だな)



 ほんのりと甘い香りは、さっきまでここで俺の下敷きになっていた彼女を連想させ、知らず知らずのうちに体温が上がってきた。

 あんな風に同じ寝台の上で身体を密着させるなど……まるで、恋人同士のようだった。

 

 会話だって、うまくできていた。

 エレ、と呼んでも怒らなかったし、エレインだってディーンと呼んでくれていた。

 受け答えのすべてが柔らかくて、優しくて。気の強さはそのままなのに、心をじわじわと溶かしてゆくような甘さがあって……このままずっと、ずっとその甘さに触れていたくて。



 『いつもこういう風に話せたら、楽しいだろうなって。』



 そう思った事は俺の正直な気持ちで、それを伝えようとした時の彼女の反応はとても……



 可愛かったのに。



 そこまで考えて首を振った。


 もう寝よう。

 あれは幻想だ。そうに決まっている。


 俺は目をつむりブランケットを被る。

 柔らかな肌触りが無性に落ち着かなくて、何度も寝返りを打つ。その度に舞う甘い香りで否応なくエレインを思い出し、今度は石のようにジッと動きを止める。


 ただそれも無駄で。

 脳内まで侵入してしまった甘い香りは彼女の姿を作り出し、俺の名を呼ぶ。

 それはとても心地良いと感じるのに、その理由は…………分からなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇




 翌日。

 エレインはケロリとしていた。

 いつものように身支度を済ませ、これまたいつものように食事をとる。

 仕草も、声色も、俺を見た時も。まるで、昨晩の事など存在しなかった様な振る舞いは、なんだか苛立った。


(……もっと、触れてやればよかったか?)


 エレインに対してそんな邪な気持ちを一瞬でも抱いてしまって、俺は頭を柱にぶつけた。



「な、なにをやってるの、エメリー様……」

「……なんでもない」



 バカか俺は。

 エレインに馬鹿にされ続けているから、本当に馬鹿になってしまったのかもしれない。



「お前のせいだ、エレイン」

「はあ!? 一体何の事よ!!」



 朝っぱらから言い合った俺達は、やっぱり無言で仕度を整え、ファンダムを旅立つ事になった。







いつもお読みいただきましてありがとうございます!(*^_^*)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ