月
月だって考えるんです。
月だって恋をするんです。
私と彼との距離は近い。
……正確には近く感じるだけ。
本当は遠い。遠い。遠い。
私と彼はよく会う。
……嘘。私が一方的に付いていって、あなたは会っているように錯覚してるだけ。
皆には『綺麗だよね!』って言われるけど、きっとそれは違う。
私の裏を見たら、何も言えなくなるに決まってる。
だから、そうな………訳がないんだ。
私は少し、花火が羨ましい。
たった一夜だけでも、彼と見つめあえる花火が。
堂々と自分をさらけ出せる、花火が。
………彼を、一夜だけでも虜にできる、花火が。
私の事なんて隠さなくても、彼はその間花火しか見ないのに。
花火が月を羨むのなら、月だって花火を羨んでもいいと思うの。
一瞬だけど、私なんかよりずっとずぅっっと近くに行ける花火を。
永遠に遠くで見ているしか無い、月が。
『……交換出来るなら、したいものだわ………━━━━』
そんな私の呟きは
月と彼との間にある
大きく厚い空気の壁に阻まれて消えていった。
『……想いは、すれ違うんだ。』
同じ頃、そう誰かが呟いた。
………が、大きな花火の音で誰の鼓膜も揺らすことなくその言葉は消えていった。