~序の段一~
さて、自分の好きな物をぶち込んだ作品ですがお口に合いますかどうか。
書いていて、客観的に面白いかどうか判らなくなってきたのでお試しでアップしてみます。
「破門じゃ」
「は?」
その一言が終わりであり、始まりであった。
~序の段一~
ふっ、しっ。
深山に鋭い呼気が響く。
どれほどの時間そうしているのだろうか、額には玉の汗が浮かび、身を動かすたびに飛沫となって散ってゆく。
突き、蹴り、捌き、連綿と続く動きはまるで舞のごとく。一つ一つの動作を骨身に刻み込むように繰り返し繰り返し、繰り返す。
いつしか時を忘れ疲れを忘れ、自我すらも世界に溶けるように薄れていく。そうして漸く終式を行う。
残心を心掛け最後の姿勢を保ったまま息を吐く。暴風のようだ。
年の頃は二十歳を過ぎてはいないだろう。身は細いが無駄なく引き締まり、背丈は若干高い。長い髪を後ろで緩く編んでいる。
「ふうむ。やはり、のう」
汗を拭い、荒い息を整えている時、背後より声がかかった。
「──老師」
左手で右のこぶしを覆い、拝礼する。捨て子だった自分をこの年まで育て、技を、知識を与えてくれた老師。感謝と敬意をどれだけ捧げようと足りない。
「あー。その、な?」
「はい」
「破門じゃ」
「は?」
一瞬、何を言われたか判らなかった。つばきを飲み込み、回らぬ頭で必死に意味を汲み取ろうとする。
「何故に。否があれば改めます。どうかどうか、そればかりは」
「お主には才が無いからの」
敬愛する師からの言葉に愕然とする。立っている感覚すら危うく、眼の前は真っ暗となった。
「才が無いとあらば二倍、いえ三倍鍛錬を積みます。どうか破門だけはお許しを」
「そういう問題じゃねえんだよ。どれだけの鍛錬を積もうと、おまいじゃ到底、皆伝には至らん。これ以上、時間を無駄にゃできんのよ」
「あまりと言えばあまりのお言葉。慈悲をどうか慈悲を。私にはこれしか無いのです」
そう懇願する彼を前に、師は感情のない目で眺めている。これは夢ではない。本当のことなのだ。それでも、どうかどうか、と繰り返す。彼にできるのは最早それしか無いのだ。
「さて、おまいに最後の慈悲をくれてやる」
師は手にしていた木の棒をばらりと地に巻いた。
「ほ、こりゃまたなんとも。面白い卦が出たもんだわい」
顎を扱きながら運命を読み解く。
「西……じゃな。それ以外はどこへ行こうと凶の一字。留まるは大凶ときた。わしに言えるのはこれだけ。後は好きにするがええ」
「老師……」
「おう、そうじゃった。門派の秘密を漏らされても困るから、封をさせてもらうぞ」
そう言うと、師は彼の額をとん、と突いた。
満足したようにひとつ頷くと、来た時と同じくふらりと消えて行った。彼はただ、うずくまるしかなかった。