表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無頼魔拳伝  作者: 馬骨刀
序の段
1/15

~序の段一~

さて、自分の好きな物をぶち込んだ作品ですがお口に合いますかどうか。

書いていて、客観的に面白いかどうか判らなくなってきたのでお試しでアップしてみます。

「破門じゃ」

「は?」

 その一言が終わりであり、始まりであった。



~序の段一~

 ふっ、しっ。

 深山に鋭い呼気が響く。

 どれほどの時間そうしているのだろうか、額には玉の汗が浮かび、身を動かすたびに飛沫となって散ってゆく。

 突き、蹴り、捌き、連綿と続く動きはまるで舞のごとく。一つ一つの動作を骨身に刻み込むように繰り返し繰り返し、繰り返す。

 いつしか時を忘れ疲れを忘れ、自我すらも世界に溶けるように薄れていく。そうして漸く終式を行う。

 残心を心掛け最後の姿勢を保ったまま息を吐く。暴風のようだ。

 年の頃は二十歳を過ぎてはいないだろう。身は細いが無駄なく引き締まり、背丈は若干高い。長い髪を後ろで緩く編んでいる。


「ふうむ。やはり、のう」

汗を拭い、荒い息を整えている時、背後より声がかかった。

「──老師」

 左手で右のこぶしを覆い、拝礼する。捨て子だった自分をこの年まで育て、技を、知識を与えてくれた老師。感謝と敬意をどれだけ捧げようと足りない。

「あー。その、な?」

「はい」

「破門じゃ」

「は?」

 一瞬、何を言われたか判らなかった。つばきを飲み込み、回らぬ頭で必死に意味を汲み取ろうとする。

「何故に。否があれば改めます。どうかどうか、そればかりは」

「お主には才が無いからの」

敬愛する師からの言葉に愕然とする。立っている感覚すら危うく、眼の前は真っ暗となった。

「才が無いとあらば二倍、いえ三倍鍛錬を積みます。どうか破門だけはお許しを」

「そういう問題じゃねえんだよ。どれだけの鍛錬を積もうと、おまいじゃ到底、皆伝には至らん。これ以上、時間を無駄にゃできんのよ」

「あまりと言えばあまりのお言葉。慈悲をどうか慈悲を。私にはこれしか無いのです」

 そう懇願する彼を前に、師は感情のない目で眺めている。これは夢ではない。本当のことなのだ。それでも、どうかどうか、と繰り返す。彼にできるのは最早それしか無いのだ。

「さて、おまいに最後の慈悲をくれてやる」

 師は手にしていた木の棒をばらりと地に巻いた。

「ほ、こりゃまたなんとも。面白い卦が出たもんだわい」

 顎を扱きながら運命を読み解く。

「西……じゃな。それ以外はどこへ行こうと凶の一字。留まるは大凶ときた。わしに言えるのはこれだけ。後は好きにするがええ」

「老師……」

「おう、そうじゃった。門派の秘密を漏らされても困るから、封をさせてもらうぞ」

 そう言うと、師は彼の額をとん、と突いた。

満足したようにひとつ頷くと、来た時と同じくふらりと消えて行った。彼はただ、うずくまるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ