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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

亀裂

作者: セト

最近、誰かに見られている気がするのよね…。という十和子の言葉に、亮太はただ、適当な相槌を打つだけだった。

二人が居るのは喫茶店、それもエアコンからかなり遠い席である。

昼頃ということもあり、かなり日差しが強い。そのため二人の額には玉のような汗が滲み出ている。


「ちょっと、聴いてる?私の話」

「ああ、はいはい。さっき見た映画のことだろ…」

「それはもう終わった!そうじゃなくて…誰かに見られているって話」


ああ、そうか。そう言うと、亮太はまたスマホの画面に目を戻した。

全く、せっかくのデートだというのに、何でスマホばっかり見ているかなぁ…。十和子は溜め息を吐いた。無機物に嫉妬するなんて初めてだ。


「でもさ、気のせいってことはないの?」


突然亮太が口を開いた。


「それは…分かんない。だって、部屋で一人で過ごしているときでも、見られてるって思うもん」

「自意識過剰にもほどがあるね」


亮太は呆れた風に息を吐いた。と同時に、なにか閃いたのか、ポンと一つ、手を打った。


「あ、もしかして幽霊かも!」

「バカじゃないの?」


 そう言う十和子の視線は冷たかった。



「じゃ、今日はありがと」

「ああ、俺も楽しかったよ」


 デートの終わり。十和子の家の前で、二人は形式通りの挨拶をした。


「じゃ、また学校でね」

「ああ。んっ…」


 そして形式通りキスをする。生憎、二人はまだ高校生。亮太は結局十和子に手を出せずじまいで、歯痒い思いをしていた。


「……あれ?」


 十和子が亮太の顔を見て声を上げた。

 ー唇の少し下の辺り…亀裂?


「どうした?十和子」

「え、あ、ううん。多分見間違い」


 バイバイ。十和子は亮太に手を振ると、家に入って行った。



「ああ~!もうだめ。何なのよ、もう…」


 手に持っていたバッグをフローリングの床に放り投げ、ヘアゴムを無造作に取り払うと、十和子はそのままベットにうつ伏せた。

 さっきは形式上、仕方なく『楽しかった』などと言ったが、そんなことは一つもない。

 ―デート中なのにスマホの画面ばっかり見てる男とのデートが楽しい!?バカじゃないの!

 十和子の心は大いに荒れていた。


「は~…別れよっかな…」


 そう、十和子は呟き、寝返りをうった。


「…あれ?」


 たった今寝返りをうった十和子の目の前、その壁に亮太の唇の下にあったのと同じような亀裂が走っている。

 壁紙は剥がれていない。ただ、よく観察しないと見えないような小さな亀裂が存

在している。


「まさか…」


 十和子はそう呟くと、ベットから跳ね起きて、部屋中を隈無く調べた。すると案外簡単に亀裂は見つかる。


「何で今まで気付かなかったんだろう…」


 気になる。一体これが何なのか、どうしても気になってしまう。異常なまでの好奇心が心の底から沸き上がってくる。

 と、その時だ。

 突然亀裂が開いた。


「えっ…?」


 たった今目の前で起こった実に非科学的現象に、十和子は素っ頓狂な声を上げた。

 しかし異常な事態はまだ続く。今度はズルリ…とやけに粘着質な、ゼリー状の物体が開いた亀裂から這い出て来たのだ。

 十和子の目の前の亀裂だけではない。部屋の至るところの亀裂から、ソレはナメクジの様な動きで這いずってくる。

 ―なにかヤバイ。

 ようやく事態を受け入れた十和子は、自室のドアから脱出しようとドアノブに手をかけた。

 が、余りにも彼女の行動は遅すぎた。

 ふと見ると、十和子が手をかけているドアノブには無数の亀裂が入っている。

それらから一斉にナメクジモドキが放出された。


「ひ…ヒィィィィィィィィ!」


 自身の手の甲を縦横無尽に這いずり回っているナメクジモドキに十和子はたまらず悲鳴を上げた。

 しかし、その悲鳴もじき止まる。

 十和子の手に貼り付いたナメクジモドキが、彼女の静脈から体内に進入し始めている。

 いや、部屋中のナメクジモドキが十和子の身体中から体内に進入しまくっていた。

 恐怖で足が動かない。ナメクジモドキに体の動きを制限され、銅像のように微動だにしない。

 当然声も出せない。しかし、感覚器官はいまだに動いていた。

 家のドアの開く音がする。開けた主は階段を上り…十和子の部屋の前に来たようだ。足音が止んだ。

 ―誰?

 意識は朦朧としているが、辛うじて頭に疑問符を浮かべることは出来た。

 しかし、十和子の部屋の前に立つ人間は彼女の部屋に入ろうとはしない。

 十和子の意識が途絶えるのを待っているのか、なにか準備しているのか。

 十和子はそいつの真意を理解することは出来なかったが、一つだけ確信していた。



自分はもうすぐ、死ぬのだと。

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