【7】 友達がいないわけじゃない
週の真ん中、水曜日。
ようやく水曜日かってかんじだ。
なんだか今週はやることなすことうまくいかない。
夜はあんまりよく眠れないし、そのせいか授業中は眠くて先生に怒られるし、体育の時間にはパスを受けきれず、バスケットボールを顔面で受け止めることになるし・・・。
「なんか、変よね」
泉子が牛乳を飲みながら言う。
牛乳なんて飲んで、それ以上胸をでかくしてどうするんだと思うが、言うと怒るので言わない。
泉子の傍らで、五月がこくりと頷く。
そう、私は別に泉子しか友達がいないわけじゃない。
高等部から入ってきた五月は、二年に入ってからのクラスメイト。眼鏡をかけた小柄な子だ。頭が良くて、学費全額免除の特待生。無口で、一見地味だけど、ほんとはかなりの美少女である。
どっちかというと、ちっちゃくてかわいい五月のことを我慢できずに抱きしめたり、かまっていることが多いのに、なぜ泉子との方が噂になるのか不思議だ。
「なにぼんやりしてるの、律のことを話してるんだからね」
「えっ」
おどろいて、私は二人を交互に見る。
いまは昼休み。天気もいいので、少し暑いけど屋上でご飯を食べているところだ。
泉子と五月はお弁当、私はパン。泉子はお家の人が作ったものだろうけど、五月はいつも自分で作ってくると言っていた。きれいないろどりのお弁当。女子スキルが高い。
「話しかけてもいまみたいに上の空だし、顔が赤くなったり青くなったりするし、突然うめき出したりするし」
泉子は指を折って数える。
自覚なかった。そんな風だったのか。うめき出したり顔色が変わるのは、王二郎の前で私わりと好き放題していたなあとか、無意識にせよ王二郎のことが1番好きだとか言ってしまったなあなどと思い出していたからで・・・つまり全然金曜の夜のことを忘れられていない。
「こい?」
五月がぼそりと言って、私を見上げた。
目が澄んでいる。きれいな石みたい。
ふらふらと抱きつこうとして、泉子に頭を叩かれる。
「律、好きな人ができたわね」
「は?!」
なぜか目が乾いて、ぱちぱちと睫を瞬かせる。
なにいってんの。
「何を根拠に」
しかし、泉子はびしりと私の目の前に人差し指を突きつける。
「いま顔が赤いのが何よりの証拠よ。相手は誰なの?王二郎くん?」
どきりと胸が痛んだ。
や、やめてくれ。王二郎のことは考えないようにしてるのに。
「そんなわけないじゃん。やだなあ」
だいたい王二郎はゲイで、あんたの彼氏のことが好きなんだよ、とは言えない。
「でも、だいたい毎週会ってるんでしょ」
「よく知ってるね。めぐちゃん情報?」
「それって付き合ってるって言わない?」
「言わないでしょ。だからただの趣味仲間だって」
泉子と、五月が顔を見合わせた。
「なんか、王二郎くんも最近変だって言うし。何かあったんじゃないの?」
それはあんたと彼氏が付き合い始めたことによって失恋したからだよ、とも言えない。
「何か隠してる・・・」
五月に見上げられた。猫みたいでかわいいなあ・・・。
にへら、と笑うと、泉子は深々とため息をついた。
「まあ、いいわ。何もないんだったら、今週の土曜日、みんなで遊びに行かない? 父から遊園地の招待券を貰ったの」
泉子はそう言って、券を見せた。六枚ある。期限は来週の水曜日まで。
「期限ぎりぎりじゃん・・・」
「そうなのよ。渡すの忘れてたって、まったくうちのお父様ってば」
泉子の家も、両親ともに忙しいらしく、たまにしか会えないらしいからな。普段はおばあさんと二人暮
らしらしい。
「わたしと、律と、五月と、めぐちゃんと、王二郎ちゃんでしょ。あと1人、五月、弟さんとかどう?」
五月は俯いて考え込んだ。たしか弟さんは、小学六年生。微妙な年齢じゃなかな。一緒にくるかな。
五月は無言で頷いて、「聞いてみる」とぽつりと言った。