【10】 女の子が恋愛対象だったらどうするの
お化け屋敷からみんなが出てくるまで、王二郎とベンチに座って待っていた。
初恋。
女の子たちみたいに、相手の頭を撫で回したい気持ちもあるんだけど、もっと強い。
私に対して、相手からの好意を強く求めるのがいままでの人間関係と違う、と思う。
親しい人間には自然と互いに好意を持っているものだけど、自分の好きも、相手の好きも強く求めるのが、いまの私だ。
自覚した瞬間逃れようがないと思った。
いままでのいろんな要因が、すべてその一言でぴたりと解決するような気がした。
「りっちゃん、今日大人しいね」
急に、王二郎に顔をのぞきこまれて、後ずさる。
こいつ、さっきも五月の顔をのぞきこんでたな。
恋愛対象として意識しないからか、女子に対して距離が近い。
でも、五月と何か二人だけの秘密がある様子でもあった。
まさか前に付き合っていたとか??
お兄さん同士が友達なのはわかったけど、それでなんで五月が顔を赤らめる?
王二郎のお兄さんは遠くの大学に進学したと聞いていた。家を出たのは、まだ王二郎が小学生のころだったはずだ。その前に五月と知り合ったなら、ずいぶん前の話のはずだ。そんな子供の頃に?いや、知り合ったのが子供の頃でも、その後になってから再会して、恋が芽生えることもある。
「王二郎は、バイなの?」
「は?!」
長く黙りこくった末に突然そう言われて、王二郎は長い睫をぱちくりとさせた。
「いきなりなに?」
それはそうだ。唐突過ぎると自分でも思う。でも、言ってしまったものはしかたがない。
「いや、なんとなく」
五月と付き合ってたの、とは唐突の二乗すぎて聞けなかった。
口に出しにくい。
王二郎は、再び私の顔を覗き込もうとしたので、私は顔を背けた。
馬鹿なことを言ったと、猛烈に恥ずかしくなった。顔が熱い。見られたくない。
「女の子が恋愛対象だったら、どうするの?」
どうする?
そこまで頭が働いていなかった。
そしたら、私にも可能性があるかもしれないってことか。
しかし元々、一般的に、女の子を好きな人が私を恋愛対象として好きになるとも考えにくかった。
女の子に告白されてしまうくらい、私は女の子っぽくない。
男に告白されたこともないし、声をかけられたこともない。なにせ、ナンパされた泉子の彼氏と間違えられるくらいだ。
どのみち可能性が薄いのではないか。
「私の認識を改める」
「改めたら、何か変わる?」
王二郎はしぶとい。そんなこと聞いてどうするんだ。
変わらない、といいかけたときに、王二郎は続ける。
「あのさ、りっちゃん、俺、りっちゃんに言わなきゃいけないことが・・・」
そのとき、お化け屋敷から泉子と五月が出てくるのが見えた。
メールで居場所は伝えたけど、建物の中は電波が悪かったのかもしれない。きょろきょろしている。
立ち上がろうとして、動けなかった。
手を、掴まれている。王二郎に。
熱い手だった。
体が強張る。
恐る恐る、振り返ると、王二郎は俯いている。
そうだ、王二郎は何かを言いかけていた。
私に。
「泉子たち、出てきたよ」
呟くが、王二郎は顔を上げない。
じりじりする。
早くこの場から去りたい。
掴まれた手が汗をかく。王二郎の傍にいたくない。王二郎にわかられてしまう。友達のような理解者のふりをして、王二郎のことを好きになっていたって。
「五月と、つきあってたの?」
苦し紛れに聞いてしまう。
効果はあった。
王二郎は、ぱっと手を離して、私を見上げた。
元々大きな目が見開かれ、潤んでいるように見える。
「つきあってたっていったら?」
私は頭がくらくらしてきた。
先週から感情面において怒涛の展開で頭がついていかない。
初めて人を好きだと自覚したりだとか、その途端に失恋したりだとか、やきもきしたりだとか、もうなにがなんだか。
「わからないよ」
「なにが」
「わからない」
そう言って、私は泉子たちの方へ駆け出した。
それで、小さな五月をすっぽりと腕におさめた。
細い肩。骨ばっている私と違う、やわらかい女の子。砂糖菓子でできているってのも、信じられるような。
「どうしたの?」
五月が、低く尋ねる。
「なんでもない」
私はそう言って、五月から身を離した。
いつもはいさめる泉子も、黙っている。
そのとき、孤軍奮闘中だっためぐちゃんが楽しそうに出口から出てきて、そのままの勢いで私たちは他のアトラクションへ流れていった。




