gray story.1-03 射抜く青
わざわざ始業式のために魔法で創られたその空間は、全校生徒を収容するだけあって広いそのなかには、幾つものパイプ椅子が並べられていた。
ばらばらに。
始業式恒例の行事、「椅子とりゲーム」
別に椅子が幾人か分だけ抜かれている訳ではない。むしろ余分に置かれている。
ただし、「はずれ」をまじえて。
その「はずれ」には、なぜか校長自ら魔法をかけている。それも本気で。
当然、本気の魔法など見抜けるわけもなく、大体の生徒達は次々と引っ掛かっかていく。
「衣装変化」、「異常成長」、「呪詛」など種類は実に様々。
唯一逃れる方法は座らないこと。なので、数年の間にチャレンジャー精神を燃やし尽くしてしまった上級生などは立つ気満々でいる。
「灰色、どうします?私は立ちますけど」
答えなど知った顔で、皐月は灰色に問うた。
「僕だって立つよ。いやー、若いっていいね」
そう言って灰色は四苦八苦する下級生を見やる。そんな彼を見た皐月も意地悪く笑う。
「まぁ、若さの至りというものですわ。……本当に見ていて面白い」
「全くだね」
あははははは……と彼らは笑う。ただし、上級生の中には笑っている奴なんてたくさんいるし、自ら進んで笑いものになろうという者もいる。
過去のトラウマが発生して妙に深刻な顔をしている奴らもいるが。
そして。
そんな上級生の中でも一際目立つ二人がいた。
その二人は、哀れな下級生を一人は左手で、一人は右手で指差し、もう一方の片手でお腹をおさえて盛大な笑い声をあげていた。
見事にはもらせて。その二人の過度の笑いからくる苦痛に歪む顔は遠目から見てもわかるくらいそっくりだった。
一人をレイウィリアス・シン・リサタルト。
一卵性双生児の兄である。
もう一人をアルファレナ・リサタルト。
一卵性双生児の妹で、女であるにもかかわらず兄と全く同じ格好をしている。
男にしては長め、けれど女にしては短めというなんとも微妙な長さの金髪に、同色の瞳。どこか気品を漂わせる仕草に、中世的な整った顔といかにも貴族です、という服装の彼らは、実際、魔法七貴族の一つ、リサタルト家の跡取りだった。
そして彼らは今も下級生にむかって聞こえよがしにこう言っていた。
「うわ、何あれ見た、アル?」
「見たよ。あ、あれ見てレイ!馬鹿みたい」
そんな彼らは日々恨みを買っていったりしている。
「あ、あそこの……あ、灰色じゃん」
「本当だ。〜……レイ、皐月もいる」
「げ。最悪」
笑ったり顔を顰めたりとかなり感情豊か。言っている間も駆け寄ってきていたので、彼らは既に灰色たちの目の前まで来ていた。
「あら、双子ですわね。ごきげんよう?あぁ、朝からその派手で下品な金色が目に毒ですわ」
満面の笑みながらも、確実に毒を含むその言葉。
「元気だよ?そういう皐月こそ青と緑なんて毒々しいね」
「典型的な毒薬の色みたい」
「あはははは」
「あはははは」
すこし子供っぽい、意地悪げな笑み。対して皐月は黒い微笑を浮かべる。
「緑は目に優しい色ですのよ?」
「そうなんだ?」
「あはははは」
「うふふふふ」
何度も見てきた光景に灰色はため息をついた。双子と皐月は仲が悪い。幼馴染だからなのか、同じ七貴族だからなのかはよくわからないが本当に仲が悪い。誰かが仲裁をしないといつのまにか周りが壊滅状態になる。
先程から彼らは何故か笑い声の大きさを競っているようで、その異様な様にいつのまにか周りの生徒達は押し黙り、三人の笑い声だけが大きな空間に木霊していた。
「アル、レイ、皐月。そろそろやめないと始ま『そこの三人、静かに』
スピーカーを通して大きく聞こえるその声は、生徒会長のものだった。
灰色の脳裏に今朝の情景が浮かぶ。壇上にたつ彼の表情は凛々しく、女子は頬を染め、男子は憧れの眼差しをおくる。彼は慕われている。それは揺るぎないものだ。
「……気のせいか?」
それでも疑念が消えず、生徒会長を見て眉をやや寄せる彼を、皐月が冷ややかな目で見ていた。
改定中。