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従妹を紹介してくれって、いいけどさぁ…。

作者: 有梨束
掲載日:2026/10/19

なんでもあり。

僕には見た目だけは完璧な従妹がいるのだが、彼女を紹介してくれと言われるのは何度目だろうか。


僕が毎回渋っているのだから、もう少し噂が回ってもいいと思うのだが。

そう思うくらいには従妹の話が出回っていないところを見るに、僕の友人たちは口が堅いいい奴らばかりのようだ。


そして、今もまた別の友人に従妹と紹介してほしいと迫られていた。



「……いや、紹介するのはいいんだけれど」

「そう言いながら、ちっとも表情が乗り気じゃないぞっ! いくら美人な従妹だからって、独り占めはよくないと思う!」

「いや、そうじゃなくて」

「はっ!それともお前も狙ってる? 従妹だったら結婚できるもんな!?」

「いや、だからね……」

僕は額に手を当てて、ため息を吐いた。

おそらく夜会か何かで従妹を見て、僕伝いで知り合いになりたいのだろう。

従兄はあまり表に出てくるタイプでもないし。

それはわかるけれど、なぜ従妹に魅入られた人間はこうも前のめりになるのか。


見た目だけは美人薄命に見えるからだろうか。

色素の薄い肌に瞳に髪が、彼女をそう演出しているのかもしれない。

最近は大胆なデザインのドレスが流行っている中、滅多に露出しない格好をしているのも、儚く見える出で立ちにより拍車をかけているのかも。

……本人は、いたって儚くない人間なのだけれど。



「紹介するのはいいんだ。あんまりおすすめじゃないけれど、君がいいならもちろんいいよ」

「本当か!?」

「ああ。ただ、次はいつ帰ってくるかわからないから、予定を決めるはまだ先でもいいかい?」

僕が頭を掻きながらそう訊くと、途端に友人は不思議そうに首を傾げた。


「帰ってくるって、どこかに出かけているのかい?」

「ああ、魔獣を倒しに行っちゃったからまたしばらく帰ってこないんじゃないかな」

「……は、魔獣?」

「そう、魔獣」

僕がおうむ返しのように頷くと、友人の目の焦点が合わなくなっていくのを感じた。


……あーあ、意味がわからなくて情報処理に時間がかかっている人の顔って、みんなこうなるよね。


何度目かわからない他人の脳みそが情報を拒絶する顔を見ながら、仕方なくこちらから話を続ける。



「辺境の特殊部隊が魔獣倒しをしているのは知っているだろう?」

「……ハッ、し、知っているが、なぜ彼女が!? あれは屈強な平民による部隊だろうがっ…!」

「貴族も稀にいるんだよ。……まあ、物好きしかいないけど」

「なんで彼女がそんなところにいるんだ! 危ないじゃないかっ!」

友人のいうことはもっともだが、僕は自分の周りで従妹より剛健な人間を知らない。

子どもの頃から思っていることだが、彼女はたぶんナイフでブッ刺されても死にやしないと思う。

この疑問を抱いているのは、僕だけじゃないんじゃないかな。

他の親戚たちも同じように、彼女のことを頑丈な鎧か何かだと思っている気がする。


それぐらい強くて逞しくて好戦的で、精神が厳つい女性だ。



「魔獣部隊は平民が唯一貴族並みに出世できる重要部隊だから、ほとんどが平民だけれど、基本的には試験に受かれさえすれば部隊員にはなれるんだよ」

「それは知っているが、普通貴族がそんなところ行かないだろっ!? 死ぬぞ!?」

「それでも時々いるじゃないか。自分の力を試したい、騎士では納得のいかない奇特な連中が……」

僕が苦笑いしながら肩を竦めると、何を言いたいのかが伝わったようで、青くなった顔がどんどん白くなっていくのが見えた。



あー…、なんというかお気の毒様というか、うちの従妹は見た目から連想される性格とは真反対と言っていい落ち着きのない子だ。


それこそ幼い頃は庭中を駆け回るだけでは飽き足らず、崖を登ったり、二階の窓から飛び降りたり。

歳の近い僕のような親戚連中は背負い投げされるやら、担いで橋の上から川に落とされるやら、とても、その…、活発で元気な子だったので、彼女に怯えていた子もいたりいなかったり。

僕は、まあ、話せば会話は通じるから苦手ではなかったけれど、取っ組み合いを一方的に仕掛けられるのは苦手だった。

というのもあって、剣術と体術を習うようになってからはようやくそれらに夢中になって、僕らのような被害者は出なくなったけれど、そんな子がおとなしく貴族令嬢慎ましくいるわけもなく。


魔獣部隊の試験の年齢制限である13歳を迎えた誕生日の明け方には、もう屋敷から消えていて、辺境の地に勝手に旅立っていた。

そして、そのまま勝手に部隊員になって、1年以上帰ってこなかった強者だ。

彼女を恋人ないし嫁にしたいとなると、かなり手こずると思うのだが。

従妹は魔獣部隊が相当性に合っていて生き甲斐のようで、それ以上にの何かを提示するとなると厳しい未来しか……、と僕が説明する前に。



「……ごめん、やっぱり今の話なしにしてくれ。魔獣部隊のおかげでこの国の治安が保たれていて、とても素晴らしい仕事だと思っているが、身内にとなると、その、話は別だ……」

それはそうだ、僕ら親戚中もそう思っている。

僕らにできない仕事だからこそ頭が下がる思いだが、あんなに血の気の多い荒っぽい連中と同じ言語のはずなのに会話をするのはちょっと難しいと思ってしまうのもまた事実だ。

嬉々として魔獣に迎える彼らの脳みそのネジは、一つか二つ外れていると思う……。



「うん、大丈夫、気にしないで」

僕は今までと同じようにそう返事をすると、やっぱり友人もこれまでの友人のように安堵したようにホッとしていた。


貴族令息が相手をするには、なかなか厳しいものがあるというものだ。

……いや、従妹も一応貴族令嬢なんだけどね?

それでも、畑が違うというほどに噛み合うのは難しさがあるだろう。

なんせ、斧をぶん回し、魔獣の首を真っ二つに切断し、血まみれになることに高笑いできてしまうのだからな、我が従妹は……。




こうして、今回も従妹に直接合わせる機会もなく、従妹を紹介する話は消滅した。


僕としては、貴族令嬢として窮屈そうにしているより、生き生きしている今の従妹の方がいいと思っている。

顔は身内贔屓抜きにしてもすんごく可愛いんだよ…。

生傷が絶えなくてドレスを着る時は絶対に露出のないものだから、余計に見た目の儚さを加速させているんだけど。



……魔獣の干し肉はつまみとしては絶品だからな。

今度、従妹が持って帰ってきた時には友人にも分けることにしようかな、うん……。

次帰ってくるのは半年後くらいかなぁ、怪我なく元気にしているといいけど。





了

お読みくださりありがとうございました!!

290日目。

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― 新着の感想 ―
世界は広いからギャップ萌えを感じる男子か、守られたい乙女男子がいつか現れるよ☆
見た目詐欺なイトコかぁ(,,・д・)電話対応の時だけ別人で詐欺だって言われる私とどっちがマシなんだろう?(°▽°)
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