真実は分からずとも(2)
ここから少し、物語が動きます。
探偵モノを書きたかったけど、トリックを考えるのは苦手なので
キャラの表現を頑張ってみました!
濃いキャラが出てきますので、是非読んでください。
今回の依頼は女子高生マイさんの先輩の気持ちを調べること。この辺りに高校は一つしかなく、私の姪っ子もそこに通っている。
そう。情報屋の彼女とは、その姪っ子のことだ。
今日は学校が終わる時間にカフェで待ち合わせしている。私の後ろをダルそうに着いてくるローザと一緒に、入店する。
ちょうど入口から見えるテーブル席に姪っ子が座っていた。可愛い猫のラテアートが描かれたカフェラテを注文したようで、集中してスマホで写真を撮っていた。
邪魔しないように、小さく声をかける。
「リオ。やっほー。」
「あ、ミヤ姉!いつ来たの?」
よほど写真に集中していたのか、私たちが来たことに気づいていなかったようだ。
「今来たばっかだよ。リオさすが、可愛いの頼むねー。」
「えへへ。女子高生は可愛くてなんぼよ!」
そう言ってドヤ顔を決める。明るくて人懐っこい、本当に子犬みたいな女の子だ。
そんなリオと会話してる間、ローザを横目に見ると完全に空気に擬態していた。しかし、リオに一瞬にバレてしまった。
「ローザさん、大人しくしててもそこにいるのは分かってるぞぉ!」
ビシッとローザに指を指すと前のめりになりメニュー表を広げる。
「ねぇねぇ何頼む?あ、せっかくだから同じのにして、ローザさんはワンちゃんのラテアートにしてもらお?おそろいだぁ!」
理由は分からないが、ローザを紹介してから、リオはローザにすごく懐いているのだ。だがこうやって尻尾を振ってはしゃいでいるリオがローザは苦手なのだ。
まぁ分かってて連れてきた私も悪いんだけど。リオが喜ぶんでくれるなら、いくらでもローザを差し出すよ。記憶喪失も、ふとした瞬間になにか思い出すかもしれないしね。
そんなリオを前にさすがのローザも気を遣えるようだ。店に入る前の嫌な顔など忘れ、穏やかな笑みを浮かべて話す。
「うん、それじゃあ同じのにしようかな。」
「うんうん!そうしよう!わーいやったぁー!」
はしゃぐリオをしばらく眺めると、店員さんが注文した品を持って来てくれた。ドリンクに一口つけて、さっそく本題に入る。
「それでね、リオを呼んだのは。」
リオに今回の依頼の概要をあらかた説明する。
「なるほどね。田所マイ……。園芸部の子かな?だったら園芸部に友達いるから聞いてみるよ。先輩っていうのもきっと同じ部活の人だと思うし。」
そう言い終わると、スマホを触っていた指を止めると神妙な顔つきになる。
「それで、情報をタダで渡すわけにはいきませんなー。」
さすが情報屋。がめつい。しかし私もここで引くわけない。
「それは、それ相応の情報を貰ってからかな。」
私の返しに、手のひらをおでこに当てオーバーリアクションを取る。
「さすがミヤ姉!こりゃあ一本取られたぜ!まぁ任せてよ、私こう見えて友達多いから。色んな人に聞いてみる!」
「あ、でもあまり人目に付きすぎて、変な噂が流れないようにしてよ?色恋沙汰だし、本人たちも探られてるって思われたくないだろうから。」
「わかってるよ。女子高生の悩みは女子高生が一番よく分かるんだから。」
ドヤ顔で決めるリオに安心感を抱いていると、突然私のスマホが鳴りだした。画面を確認すると、精神科の先生からだった。記憶喪失のローザを引き取ってから、彼のカウンセリングに付き添っている。恐らく、経過観察の電話だろう。
「あ、ごめん電話出てくるね。リオ、ちょっとローザとしゃべってて。」
「任せて任せて!」
そういって二人を席においてカフェを退店して、電話に出る。
「もしもし。」
『お世話になっております。精神科医の神室です。ローザさんのことでお電話させていただきました。近いうちにカウンセリングを予定されておりますので、直近のご様子などをお伺いできればと思いまして。』
やはり経過観察の電話だった。
『前回のカウンセリングからローザさんにお変わりありませんか?』
「そうですね。」
前回のカウンセリングから一か月。ローザの様子を思い返す。そういえば、当初は恋愛関連のものを見ると、見るからに避けていたような気がするけど、今日は一緒に恋愛ドラマを見ても嫌悪感どころか好奇心を出していた。
『以前避けていた恋愛に興味がある状態ですか。もしかすると記憶が戻りかけている可能性がありますね。』
「記憶が戻りかけている。」
『えぇ、少しづつトラウマと向き合おうとしている可能性があります。ただ無理に平気なフリをしていないか注意深く見ていきましょう。』
無理に平気なフリをしているだけ。リオもローザに好意を抱いているから、それも彼に無理をさせているのだろうか。
ローザと出会ったのは、ある失踪事件を追っていた最中、倒れていたのを助けたのだ。急いで救急車を呼んで病院に連れていくと何も覚えていないらしく、それから行き場がないとのことで私が引き取ったのだ。
引き取ってからしばらくして恋愛ドラマを見ていると、ローザは強い拒絶反応を示していたことは強く印象に残っている。よほど恋愛が苦手なのだろうと当時は思っていた。それが記憶喪失の原因だと分かったのは、その後のカウンセリングからだ。
そして私のなかにはもう一つ気掛かりなことがある。ある日、ローザが事務所で過去の依頼の記録を見ていると、一つの依頼に凄く険しい顔をしていたのだ。その依頼はローザと出会う時に追っていた失踪事件。
その記録を見るたびに手を振るわせていたので、何かローザの記憶と関係があるかと思っているが、如何せん依頼には守秘義務があるため神室先生にも相談しずらい。それにあの失踪事件は解決していないため、下手にローザを刺激してしまうんじゃないかと思い、ローザにも聞けていない。
しかし無理しているわけじゃなく、自然と克服してきているのであれば、その時は失踪事件について聞いてみようと思う。
神室先生との電話を終えて、店に入る。
リオの熱量に圧倒されていないといいけど。少しローザを心配しながら席へと向かう。
「ねぇねぇ、ローザさんは好きな子のタイプってどんなのがある?」
そんなリオの声が聞こえた。恋愛関連の質問。恋愛ドラマに興味をもっていたようだがローザは大丈夫だろうか、また拒絶反応が出ていないといいけど。
急いで席に向かう途中、ローザの声も聞こえてきた。
「うーん、そうだなぁ。よく笑う人は好意を持てるけど。」
その声は落ち着いていて、無理をしているようには聞こえなかった。
「二人ともおまたせ。好きな子のタイプって聞こえたけど、なになに恋バナ?」
茶化すように聞くと、リオは大きく首を横に振った。
「そうじゃないよ。さっきね、友達にメッセージでその先輩について聞いてみたの。」
どうやら依頼について、さっそく自前の情報網を使って、マイさんの想い人である先輩について調べてくれたようだ。
「そしたらね。友達がマイさんと同じ園芸部で結構仲も良いんだって。でね、その友達も先輩のこと知ってるらしくて色々聞いてたんだよ。」
以外にも身近なところでの話だからか、興奮気味に少し早口になっている。
「それで、何かわかったことあった?」
「それがね、その先輩には好きな子がいるっていう噂もあって。」
「それがマイさん?」
「ううん、それがわからないの。だからその先輩が好きそうなタイプを今聞いてる途中で、ついでにローザさんにも聞いてたの。」
そういうことか、ローザはただ依頼の調査に協力していただけなのか。ふとローザの顔を見ると、嫌な顔一つしていなかった。私の視線に気づいたようで、リオの説明に補足してくれた。
「そうだよ。その先輩の人が好きなタイプにどんなものがあるか考えてたんだ。」
そんな時、リオのスマホの通知音が鳴った。
「あ、友達からメッセきた。」
じっくり画面を見ながら、スマホを指でなぞる。しばらく画面を眺めてから、突然声を上げる。
「え~!ねぇねぇミヤ姉!友達からその先輩について返ってきた、先輩はギャル風の子が好きなんだって!」
「ギャル風?」
そこで依頼人のマイさんの顔を思い出す。たしかマイさんは性格こそギャルっぽくはなかったが、メイクは少し派手でギャルと言われれば、そうかもしれない。
ローザもその違和感を感じたらしく、咄嗟に口を挟む。
「そういえば、マイさんのメイクもギャル風ではあったけど。この先輩のいうギャル風ってメイクのことかな?それとも性格のことかな?」
その問いにリオも少し唸ってから答える。
「うーん、でも、性格がギャルなら見た目もギャルにならないかな?」
ローザがこちらを向いて聞いてくる。
「そういうものなの?」
「いや、私にも分からないわよ。」
女子高生の感性に疑問を抱いたが、リオはまだスマホ画面を見つめ、次の瞬間叫びだした!
「えっ嘘!」
「なに、どうしたの?」
あまりの大声に、思わず驚いてしまう。しかしリオのスマホに送られたメッセージ内容はリオの叫びよりも、衝撃的なものだった。
「明日、その先輩映画観に行くらしいよ!」
「映画?」
確か駅の近くに大きい映画館があったはずだ。そこに行くのだろうか。
リオが何か企んでいるような表情で口を開く。
「ねぇ二人とも先輩の顔とか知らないよね?だからさ、私を入れて三人で先輩を尾行しない?」
尾行。探偵業をしているとよくあることだが、私は如何せん尾行が苦手だ。依頼内容によっては仕方ないことなのだが、人のプライベートを覗き見することに少し抵抗がある。それを言うたびに「ネコさんは探偵らしくないよ。」とローザに言われる。なのでそういうことはローザに押し付けているのだが。ふいにローザの顔を見る。
「三人で尾行するなら、ネコさんも安心するんじゃない?」
ローザには心の内が見透かされていたようだ。
「どういうこと?安心?」
しかし事情の知らないリオは疑問を浮かべていた。
「うん、ネコさん尾行が苦手なんだよ。他人のプライベートを見たくないって。」
「あー。納得。ミヤ姉こそこそするの苦手そうだもん。絶対、怪しい人にも正面から切り込んでいくでしょ。世の中の人間が皆、正面からいったら素直に話してくれるわけないのに。皆が善人なら事件なんて起こらないでしょ?」
一体どんな生き方したらそんな悟りを開いたような言葉が出てくるんだ。心の中でそうツッコミ、リオの言葉を軽くあしらう。
「あーはいはい。苦手ですよー。まぁ三人で行くなら怪しまれないようにしなくちゃね。それに今回はリオに頼る形になるから、その先輩の人見つけたらちゃんと教えてよ。」
「もちもち。まっかせてよー。」
こうして私とローザ、そしてリオの三人は、映画館の向かいの駅前広場から映画館に入る先輩を尾行することになった。
今更ですが、この作品はローザの記憶について考える物語です。
果たして、彼にどんな記憶があったんだろう?




