真実は分からずとも(1)
趣味で書いていた作品がやっと完成したので
投稿しようと思います。
初めて1作品書ききったので、拙い部分が多々あるかと思いますが
読んで頂けると幸いです。
ここは「ことら探偵事務所」。大通りに面した建物、ポップな虎のイラストが描かれた看板をさげている。誰でも気軽に相談出来る場所。
そんな場所を志していたんだけど、誰も人が来ない。
窓を見ると、空はオレンジ色に染まってもう時期に夕焼け小焼けのチャイムが町中になる頃だろう。
私は事務室のソファーに腰掛け、ため息をつきながらパソコンを立ち上げる。
依頼人が来るまでの間ドラマでも見るか。
私が、パソコンの画面にかじりついて見ていると、事務所の奥からゆっくりと助手が姿を見せた。
「ネコさん。何見てるの?」
助手はのんびりと穏やかな口調で聞いてきた。「ネコさん」というのは私のあだ名だ。本名は小虎ミヤ、ミヤっていう名前が猫の鳴き声っぽいからそう呼ばれている。
「ローザも見る?最近ハマってるんだよね。この恋愛ドラマ。社会人の恋愛を描いてて、これから三角関係に突入してくるんだよ!目が離せないよね。」
文字通りパソコン画面から目を離さず、口だけで語る。
ローザは私の熱量に押されたのか、若干引き気味だ。
「あー……なるほど。」
ローザというのは助手の名前だ。これもまた本名ではない。とある事件をきっかけに知り合ったのだが、記憶喪失であったため私が引き取った。ローザという名前は、秘密という意味のサブローザからとって私がつけた。なんだかミステリアスな彼の雰囲気には、よく似合っていると我ながらに思う。
しばらく二人でドラマを見ていると、ローザがドラマを眺めながらつぶやく。
「この女性は、壁ドンをされているけど、これは本当にキュンとする行為なのか?」
全女性を代表するように、声を大にして答える。
「そりゃあそうでしょ!全乙女の憧れよ!」
「ホントかな……?好意のある相手からであれば急に距離が縮まってドキッとするだろうけど、壁にドンと大きな音を立てて、至近距離で見つめられたら恐怖を感じてドキッとするんじゃないか?」
なんだかロマンも何も無い言葉に、呆れてくる。
そんな私のことなど知らずにしゃべり続けるローザ。
「ん?これは恐怖のドキドキと恋愛のドキドキを分からなくさせる吊り橋効果というやつか!なんか違う気をするけど……。でも、女性が男性に好意がある前提じゃないと成立しないよな。ということはこの男性は、女性が自分に気があることを確信しているということ?よっぽど自信家なのか?人は見かけによらないんだな……。」
「あーもー!ローザうるさい!今いいとこなの!」
こうなったローザは一生しゃべり続けるから、黙らせないといけない。せっかくいい雰囲気だったのに。
私がそのままPCを閉じると「えー。」と残念そうな声をあげて、リビングのソファーに向かっていった。
私も気分転換に紅茶を入れようと立ち上がった時、事務所のチャイムが鳴った。
玄関を開けると、浮かない顔の女子高生が立っていた。制服を見るに近所の高校の生徒だろう。彼女は元気の無い声で言った。
「あの……依頼って受け付けてますか?」
依頼人を笑顔にさせるのが探偵。待ちに待った依頼人を笑顔で応える。
「はい、いつでも大歓迎ですよ!さぁこちらにどうぞ。」
依頼人をリビングへと通す。この事務所はとても小さく、所長である私のデスクが窓際にあり、その向かいにテーブルを挟むようにソファーが置いてある。ここがリビングとなっており、その奥に小さなキッチン、階段の先に私たちの個室がある。
どうやらローザは二階の自室に移動したそうだ。
依頼人にお茶を出すと、さっそくお話を伺った。
「あの、確かめてほしいことがありまして。」
依頼人は出されたお茶を見つめながら話し出す。依頼人の名前は、田所 マイ。近所の高校に通っている女子高生だ。ギャルを思わせるちょっぴり派手なメイクが印象的だ。
「実は、好きな人がいまして……その彼が私のことが本当に好きか、確かめて欲しいんです。」
女子高生らしい悩みだ。思わず頬が緩む。
「こんなくだらないことで、すみません。」
「いいえ。くだらないなんてことありません!恋に悩みはつきものですから。是非、その悩み私に任せてくれませんか?」
彼女は自信なく目を伏せ、両手でスカートを握ると弱々しく呟く。
「はい、お願いします。」
すると奥からローザがのっそのっそとやってきた。マイさんの表情から少し緊張を感じたので、すかさず紹介する。
「彼は私の助手です。ほら、ローザ自己紹介して。」
ローザはゆっくり振り向く。どうやら依頼人が来たことに気づいていなかったようだ。彼はマイさんを見ると穏やかな口調で挨拶する。
「あ~いらっしゃいませぇ~。ローザっていうらしいです~。」
「ど、どうも。」
ローザの変な自己紹介に、顔が引きつっているマイさん。
「すみません。彼ちょっと変わってて。」
乾いた笑いとともにフォローするが、そんなことは気にも止めず、ローザはジッとマイさんの学生鞄を見つめると、なにか気づいたように口を開く。
「あっそれ、あの女優さんのだよね。ネコさんが見てたドラマの。」
その言葉に自然と目線が彼女の学生鞄に移る。そこには確かに先程まで見ていたドラマの女優さんのキーホルダーがぶら下がっていた。
「あ、本当だ。もしかしてマイさんも「ホントの気持ち」見てるんですか?」
「ホントの気持ち」とは、この女優さんが主演を務めているドラマの名前だ。清楚なイメージで売り出していて、最近デビューした女優さんだ。
「そうなんです。いいですよね、あのドラマ。私あの主人公が好きなんですよ。」
そう言うとマイさんは、優しい目でキーホルダーを見つめる。
「珍しいですね。ああいう感じのドラマってイケメンに目が行っちゃいがちなのに。」
「ですよね。でもやっぱりあの、おしとやかででもしっかりしていて芯が強いところも好きなんですよ。あこがれちゃいます。」
くすっと笑いながら、そう語るマイさんに親近感を抱きつつ、私たちはドラマの話で盛り上がった。
気がつくと時計の長針がぐるっと一周していたことに気が付いた。
「あ、もうこんな時間。すみません、話し過ぎちゃいました。」
「うふふ。大丈夫ですよ。ご依頼はしっかり承りましたから、彼の気持ちちゃんと確かめておきますね。」
「はい。よろしくお願いします。」
最初に事務所へ訪れた時よりも、明るい口調でそういうと一礼して事務所を後にした。
マイさんを見送ると、調査について考えようとリビングにもどる。すると、ローザが顎に手をあて何か考えこんでいた。
私がリビングへ戻ったことに気づくと、こちらにゆっくりと話しかけてきた。
「ねぇネコさん。さっきの子なんだけど。」
少し間を開けてから続ける。
「メイク似合ってなかったよね?」
よかった。本当に彼女のいる前でそういうことを言わなくて本当によかった。出したくなくても溜息がでる。ここまでくると本当にノンデリだ。
「そういうこと言わないの。彼女も憧れている姿があって、そこに向かって頑張ってるんだから。」
私の言葉が届いたのかどうか分からないが、「うーん」と唸ってから小さく呟く。
「だったら、何か違う気がするけど……。」
ローザのノンデリに構ってる暇はないんだった。早速、マイさんから聞いた情報をもとに彼のことを調べなければならない。
「ほら、そんなこと考えてないで、依頼について考えるよ。」
直接、学校の門付近で聞き込みをしてもいいけど、20代後半の大人が張り込んでいると完全に怪しまれる。こういう時はこの町の情報屋に頼るのが一番だ。
「ローザ、明日会って欲しい人いるんだけど来てくれる?」
会って欲しい人と聞いて、ピンと来たのか明らかに嫌な顔をするローザ。
「まぁ彼女は、今回の依頼に関しては役に立つから、仕方ないか。」
そう言って大きなため息をつく。
読んで頂きありがとうございます。
この作品のローザは、作者自身をモチーフにしてます。
つまりノンデリです。




