月架さん,それはやっちゃいけませんのじゃありません?
「亜威守っ!その娘から離れろっ!」
月架の怒声が遠くで聞こえる。(何をそんなに怒っているのかは不明)
亜威守って…この少年の名前かなぁ?
それにしても…下から見上げるっておかしくないですか?位置的に。
まるで私がお姫様抱っこされている様な……
「人をボールみたいに扱う変態にデリケートな女の子を渡せるか,常識で考えろド変態」
「んだとてめっ!しまいにゃぶっ殺すぞっ!!」
こんなカッコイイ男の子からこんな爆弾発言が漏れるなんて…
人を見かけで判断しちゃいけないって本当だね。(納得)
「さーて,名前知らないんだけどさ,とりあえず地面降ろしていい?」
少年の真っ蒼な瞳が私を見る。
おぉっ,美形!惚れてまうやろっ!!
「えと…あ,降ろしてくださいっ」
若干どもってしまった言葉に月架が「惚れ と言いかけたが旬藍に皆まで言わせずぶったたかれた。
「そ,じゃぁ降ろすよ。」
少年が私の足をまず地面に降ろし,その後肩で体を支えてくれながらゆっくりと地面に降ろしてくれた。
「あ,ありがと…」
「どーいたしまして」
少年は別に表情を変えるわけでもなく,ふーと右手で額の汗を拭った。
何故か少年の手のひらは火傷を負ったかのように真っ赤に染まっている。
…私のせい!?
そう思った(勝手に)私は急いで少年の手を取った。
月架が「うぎゃぁ!手 と言いかけたがやはり旬藍に阻止される。
「手…大丈夫!?私怪我させちゃったっ!!?」
私の問いに少年が自分の手のひらを見る。
そして「またか」と小さく呟くと,自分の手のひらにフゥッと息を吹きかけた。
今は冬ではないのに,少年の息が白く染まる。
するとみるみる内に赤みが消え,元の真っ白な手のひらに戻った。
『冷たい…』
少年の息はまるで吹雪のように冷たかった。
そういえば手の温度も随分と低い気がする。
「あ,ごめんね。俺さ,すぐちょっと温かいものに触ると火傷するんだ。だから火とか勿論触れないの。雪女と不死鳥の混合種族だから。ちなみにさっきアホ月架が叫んだと思うけど,俺は亜威守。正確に言うと氷柱 亜威守。宜しく」
一言も私の言葉を挟むことなく淡々と説明する亜威守さん(←何となく美少年なので敬意を払って)に自分の脳が凍るかと思った。
大体雪女と不死鳥ですか,それを混合種族と?てか貴方もアレっすか,精霊れすか?
「亜威守ぅ…てめまじ覚えてろよ…一目合わせれば人を変態変態と…」
「女子トイレに入った回数etc. 女子の着替えを除いた回数etc. 女子のスカートを捲った回数etc. その他セクハラ行為多数 この事実をお前はどう逃れる?」
月架はそのまま凍りついたかのように硬直した。
額からにじむ汗を見るとどうやら事実らしい。
…それにしても亜威守さんも毒舌らしい。
あんなにかっこいいのに,もったいなーい
「それは…否定しないけどっ…その他セクハラ行為多数って,俺は後女子の部屋を覗いたりエロ本をちょっと見てみたりしただけだぞっ!後二つで多数はないだろ多数は!!」
…あ,そこね 食いつく所は……
「それだけでも十分変態アル。セクハラ行為多数ネ」
旬藍の言葉のナイフが月架の胸に深々と刺さった。
そして追い討ちをかけるように亜威守さんの発言
「しまいにゃ一日で数十人を口説く始末。その後どうせ顔ビンタだろ。何十発も」
ボキッ
月架の心の折れる音が聞こえた気がした。