まだまだ最初は出会わない
「シュっ…旬藍!暴れるなぁっ!」
「ギャァーっ!そこは胸ネ!月架変態アル!おまわりさん,コイツブタ箱ぶち込めナノネーっ!!」
月明かりよりも明るく輝くのは眼下に見える街の街灯。
その光はユラユラとまるで蛍が踊っているかのように煌いていた。
そんな街の上をフラフラと頼りなく飛んでいたのは黒く羽ばたくコウモリの様な大きな翼を持った少年と,その少年にがっちりと掴まれてバタバタと暴れまくっている少女だった。
「大体何でアタシがオマエに掴まれて飛ばなきゃいけんカ!アタシだって自分で空くらい飛べるョ!」
「うるさいっ,お前が飛ぶと天変地異が起こるんだっっ!!」
少女はそんな少年の言葉がまるで聞こえていないかのように暴れるのをやめようとはしない。
それどころか自分が飛ぶと大変な事になるという少年の言葉に反応し,更に足や腕をバタつかせる。
「ちょ,おまっ!バランス崩れ―――」
少年がふらつく重心を戻そうと,必死に両翼を羽ばたかせる。
しかしその重心を崩すかのように少女はひたすら暴れていた。
「待てって!ちょっとやばいからマジで……」
不意に少年の言葉が途切れ,羽ばたくのをやめた。
「月架?」
少女が目をぱちくりと瞬く。
「いた。」
「ハ?」
突然少年の表情が変化し,何を思ったのか翼を折りたたみ体を地面と垂直にして落下を始めた。
「ギャアアァァァァ―――――――!!!!!?月架ァ!何してるネ!さっさと上がるアルゥゥゥゥ!!」
少女の悲鳴を他所に,落下速度はぐんぐん増していく。
耳元で唸る風の音が嫌と言うほど鼓膜に伝った。
スピードが上がると共に,心臓ぎゅぅっと掴まれたような感覚に少女は息苦しくなった。
しかし落下本人の少年は涼しい顔。
口角を引き上げてさも楽しそうにケタケタ笑い声をあげている。
「何しとんねんネ!さっさと上がるヨオオォッッ!!」
「旬藍!落ちるなよっ!!」
「ぎぃぃやああぁぁぁ!!!!!!」
少年は地面すれすれのところでくんっと態勢を立てると,ばさっとその翼を広げ,街から少しはずれた木々がうっそうと茂った小さな林に降り立った。
「し…死ぬかと思ったネ…窒息してお陀仏になるネコレ。」
少女が空に昇る月よりも青白い血の気の引いた顔でぜーぜー息をしている。
そんな少女を見て少年はまたもやケタケタとコウモリが鳴くように笑った。
「そんなんじゃ吸血鬼の嫁に行けねーなぁ。」
「別に,吸血鬼の嫁なんて死んでもなりたくないから安心するアル。」
少年の言葉をばっさりと斬り捨てる少女の言葉に少年は予想通りの結果ながら深いため息を吐いた。
「儚いね~…」
「何か言ったアルか?」
「…いえ…なんでも御座いませんよ~ほら,さっさと夢悪魔ぶっ潰しに行くぞ。確か出現場所はこの街,羽宇来都だったはすだ。」
少年は両翼をたたみこむと,どこから出したのか真っ黒なマントを羽織り林の外へと歩き出した。
「あ,待つアルョー!」
少女は少女でなにやらたっぷり30秒はあたふたしてから,少年と同じく黒いフードつきのマントを羽織って少年の背中を追った。
~☆~☆~☆~
「うぅ~,夜の道は恐いよぉ~…」
大都会と言えど,このところ頻繁に続いている“通り魔”の影響で道行く人々もずいぶんと少ない。
そんな暗くて嫌と言うほど静かな街を私は歩いていた。
両腕にパンがぎっちぎちに詰まった白いビニール袋を抱きながら。
「ママもひどいよぉ~,こんなまだ12歳の私に夜中のおつかい頼むなんてさぁ~」
私は1歩踏み出すたびに弱音を吐きながらもゆっくりと家へと向かう道を歩いていた。
私は日暮 紫炎
今年の冬小学校を卒業した12歳の女の子。
今は春休み中で,3日後にはこの街の大きな中学校に通う予定。
部活とかはまだ決めてない。けど
絶対に運動部に入るんだ!
それがダメなら吹奏楽。
もし吹奏楽なら私はフルートを吹きたいなぁ!
…ま,まだ分からないけどね。
でも…
絶対水泳部はパス!
…なんでかって?
それは…
~☆~☆~☆~
「月架,ホントにこっちから妙な気配がするネ?間違ってたらその首根っこ引っ掴んで地獄の底に突き落としてあげるヨ。」
「…お前,そんな恐ろしい言葉一体何処で覚えたんだよっ!」
少年と少女は深緑の植木の裏に身を潜めていた。
でも隠れる気が無いのか,後ろから見たら姿が丸見えである。
「う~,喉乾いたネ…水…水…」
少女はマントの下に手を入れ,小さな土器の壷と真っ白な毛が植毛された筆を取り出した。
「水…水…えっと…」
少女は空を仰ぎながら何やら10秒ほど黙り込んだ。
そしてその後筆を壷の中に突っ込み,すっくと立ち上がって何も無い空気に向かって筆を走らせる。
すーっと筆が文字を描いていくのを少年はまたか。というような顔つきでめんどくさそうに眺めていた。
縦線を跳ね,次はカタカナのフを描くようにはらう。
そして今度は二画でひらがなのくを描くように,最後はきちんとはらう。
水
少女が空中に書いたものは漢字だった。
暗くてよく見えないが,確かに黒い線が水という字を描いている。
「よっしゃぁ!コレ飲んだらきっと五臓六腑に染み渡るネ!」
「…お前さ,何か言葉遣いおかしいけど。めっさ難しい言葉知ってるな。」
少年が呆れたようにポツリと呟いた。
~☆~☆~☆~
新作書けました!
これからはRuraとの両立頑張っていきます☆★*