俺の人生こんなはずじゃなかった。
目が覚めると、俺は風呂場で溺れかかっていた。
口に含んだお湯を吐き戻しつつ、せり上がってきた涙を堪える。
「はぁ。」
吐き気がやっと収まったとき、口の端からため息が漏れる。
なんでこんなことになったんだろう。
俺は掃除をさぼった結果黒い黴の沸いた天井を見上げる。
俺は自由が欲しかった。
人生を取り戻したかった。
それなのに、なんだこれは。
家族はいても、久しく会ってない。
友は学生生活の終わりと共に関係が切れた。
恋人はいない。
金もない。
仕事も昨日首になった。
どうにもならなくなって気晴らしに風呂に入ったら、溺れかける始末だ。
何のために生まれたんだろう。
その言葉が脳裏をよぎる。
休みの日に外に出かけただけで、劣等感を刺激させられるようなことのない生活を送りたかった。
キラキラしている学生が羨ましい。
家族と連れたって笑って歩いている連中が妬ましい。
ピカピカの革靴で歩いているサラリーマンですら、大昔に何の根拠もなくあんな感じの普通の人生を送って終わると考えていた情けない自分を思い出すようで苦しくなる。
どこで間違えたんだろう。
学生の時に勉強をサボったことか?
高校を適当に選んだことか?
大学も入れる所に滑り込んだことか?
友人といえる人物を一切作らなかったことか?
就活も適当に行ったことか?
そのどれでもないし、どれでもあるんだろう。
苦しい。
みんな笑顔だ。
世界は笑顔で満ちている。
俺以外、みんな笑顔だ。
無意識に叩きつけた手が水面を動かす。
俺は間違ってない。
ほんのちょっとだ。
ほんのちょっとのかけ違いで、俺はもっとすごいんだ。
今にきっと、何かがあれば。
そう考えられていたのは、いつまでだっただろうか。
ふと、手元を見るとふやけてしわしわになった指先が見える。
何となく、俺自身の未来の姿を感じた。
「でよ。」
冷蔵庫の残り物の飯食って、いつ干したのか分からん布団で寝て。
後のことは後で考えよう。
「俺の人生こんなはずじゃなかった。」