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【005】マザランの洞察

エルヴィスは、まだ怒りの収まらない様子のゼインの肩を軽く叩き、声をかけた。


「ゼイン、それは仕方のないことだろう。

俺たちだって今日初めて会った相手を、そう簡単に信用できるもんじゃない。

ましてや相手は元公女だ。ゼインって名前を聞いただけで怪しいと思われても仕方ねえよ。

おまえの名前は、それだけ悪名が知れ渡ってるってことさ。


だがな、その名前を聞いてもなお、話を最後まで聞いた姫様は、なかなか大したもんだと思うぜ」


セミラミスがエルヴィスに続いて言った。


「そうよ。それにあんた、言葉遣いも礼儀もなってなかったんでしょ?

姫様が今まで見たこともないタイプの人間を前にした時の、正当な評価だったと思うけどね」


さらにブーディカが、くすくす笑いながら言った。


「あたしたちはゼインを知ってるけど、姫様はゼインを知らない。仕方ないじゃないか」


ブーディカの言葉で、場の空気がようやく和らいだ。

そのタイミングで、マザランが口を開いた。


「元公女は、我々とサイサリス公国を天秤にかけたわけですね。

それは、むしろ我々にとって好都合なのかもしれませんよ、モーゼル殿」


「流石はマザラン殿。気が付かれましたか」


モーゼルは感心したように頷いたが、他の仲間たちはきょとんとしていた。

ゼインは天秤にかけられたことに腹を立てていたのに、なぜ「好都合」なのか。


そこでマザランが説明を始めた。


「サイサリス公国から救助の伝令が元公女のもとに届けば、我々の計画は白紙に戻ります。

しかし、我々が救出の準備を進めている間にその伝令が来なければ、元公女の選択肢は我々しか残らない。


そうなれば、彼女が今の状況から抜け出すには我々の手を取るしかないのです。


アンドラ公国は、未亡人となったアデイラ元公妃の保護を名目にサイサリス公国を併呑しました。

旧貴族はすでにアンドラ公国の影響下にあり、傭兵団と共にアンドラ寄りの立場を取っています。


この状況でサイサリス公国から救援の使者が現れる可能性は、限りなく低い。

いや、ほとんど皆無と言っていいでしょう。


このように考えれば、ゼインが怒る理由は、見当たらないということになりませんか」


「流石はマザラン殿です。

我々に言いくるめられるのが悔しくて、そう言ってみただけなのかもしれません。

本来であれば、サイサリス公国から救助の伝令が来るとか来ないという話は、我々に言う必要すらないのです。

それを口にしてしまったあたり、まだまだ若いということでしょう」


マザランが尋ねる。


「そうですね。では、モーゼル殿。あなたの目から見て、元公女の印象はあまり良くなかったのですか。

我々が世に出るための手段として、使いようがないと考えておられますか」


「そのようなことはありません。そうですよね、ゼイン殿」


「ああ、悪くはない。

流石は黒蜘蛛戦争で父親のオリバー大公を失い、ルトニア王都の戦いでほとんどのサイサリス公国軍を失った中で、残存部隊をサイサリス公国まで引き連れて退却してきただけのことはある」


天秤にかけられたことに対して腹は立っていたが、

モーゼルとマザランの話を聞くうちに、なるほどと思った。

今はもう怒りは収まっていた。

それにゼインには、自分の感情と判断を切り離す力があった。


エルヴィスが皆を代表するように言った。


「二人の評価が揃っているなら、俺たちが迷う理由もないな。

姫様の救出とサイサリス公国の再興、付き合ってやろうじゃねえか。

俺は商人の真似事にも飽きてきたところだからな。動きたくてうずうずしてたんだ」


エルヴィスの言葉に、モーゼルが笑いながら返した。


「いやいや、エルヴィスさんの物真似は、すでに物真似の域を越えていますよ。

流石は商家の出身だけのことはあります。

アンドラ公国の主要な貴族たちは、サイラス商会の窓口であるエルヴィスさんを非常に信頼していますし、

実のところ、私の後釜はぜひともエルヴィスさんにお願いしたいと考えていたところなんです」


エルヴィスは、とんでもないという顔をして言った。


「このアンドラ公国の貴族どもは、頭の悪いやつばかりだ。

とてもじゃねえが、付き合いきれねえ。


賄賂ばっかり好む、仕事のできねえ貴族が八割。

で、残りの二割が、その八割の使えねえ連中の下で使われてるって状況じゃねえか。


しかも、サイラス商会の取引先ってのは、そのできねえ八割がほとんど。

そんな奴らを相手に、ずっと商売し続けるなんて、無理に決まってるだろ」


と、吐き捨てるように言った。

マザランが、からかうような口調で言う。


「エルヴィスさんの話を聞いていると、強欲な貴族の相手が得意なように聞こえますね。

その気になれば、アンドラ公国に貴族として受け入れてもらうことも、案外可能なのではないでしょうか。

サイラス商会を使って、皆でアンドラ公国の貴族として腰を落ち着けるというのも、ありかもしれませんね」


エルヴィスは、ため息をひとつついて言った。


「マザラン、勘弁してくれ。

こんな話をするつもりじゃなかったが、この国に将来なんてねぇよ。


今回の姫様を捕らえた件もそうだが、昨日まで友好国だった相手を平気で乗っ取り、公女を堂々と捕らえる国だぜ。

しかも捕らえた公女を自身の住む公城に連れて行こうとしたら、王妃が怒り出すからって理由で、領地に帰っている貴族の空き屋敷に住まわせるんだとよ。


家庭の事情で公女を空き屋敷に押し込むとか、正気の沙汰じゃねぇ。

アンドラ公国が大陸の他の国々からどう見られてるか、想像もできねぇ連中の集まりだ。

そんな国に仕官しろなんて、笑えねぇ冗談だぜ」


マザランの冗談に、真面目に答えたエルヴィスの言葉を聞き、モーゼルが静かに言った。


「確かに、シュール大公の女癖は悪い方向に出ましたね。

公女を自身の住む公城ではなく、空き屋敷に閉じ込めたのは、明らかに判断を誤ったと言えるでしょう。


上の者がだらしなければ、下も堕落する。

この国はまさにその典型だと思います。


とはいえ、公女が公城にいるよりも、空き屋敷にいるほうが救出しやすいのは確かです。

結果的には助かりましたね」

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