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【031】ルーク王子、再興の四段計画

後に黒蜘蛛戦争といわれた、ひとつの戦争。


それは、サイサリス公国がルトニア王国に攻め込んだ事から始まった。サイサリス公国に物語があれば、当然、ルトニア王国にも物語があった。


そして、ルトニア王国の物語は、動きを止めること無く、進んでいた。


捕らわれていたルーク王子の、思考と考えが解き明かされる。


ルーク王子が捕らわれてから、すでに一か月を超えていた。

軟禁生活にも、次第に慣れつつあった。


サイサリス公国の情勢はハンナが、旧ルトニア王国の動きはラルフ子爵が、それぞれ報告してくれる。

そのおかげで、ルークは部屋にいながらも外の状況をおおよそ把握できていた。


その日も、ハンナがサイサリス公国軍の軍議の内容を報告し終えると、ルークは窓の外を眺めたまま静かに口を開いた。


「サイサリス公国は、王都をうまく治めているようだな」


ハンナは小さく頷き、表情を引き締めて答えた。


「そのようです。一部の傭兵団の振る舞いが目につくことはありますが、それ以外には揉め事もなく、住民たちも徐々に受け入れ始めているようです」


彼女は、当初こそぎこちなかった。

しかし日を重ねるごとにルークとの距離感をつかみ、今ではまるで十年近く仕えてきたかのように自然に振る舞えるようになっていた。


最初の頃は、サイサリス公国とルトニア王国の間で板挟みになっているような様子もあった。

だが次第に、自らの立場を正確に理解し、その役割を真摯に果たそうとしていた。


その姿は、実に献身的だった。


彼女の報告を聞いたラルフ子爵は、満足げに頷きながら言った。


「思った以上に、サイサリス公国はうまくやっていますね。

裏切り者のコンラッド侯爵も、ベネット侯爵を抑え込んでいます。

統治は機能的で、ローガン侯爵もビアトリクス公女もよく働いています。


ただ、よく働いているのが限界です。

こちらが偽の情報を流せば、ほとんど疑うこともなく、それに対応してきます。

ある意味、やりやすい相手です」


ラルフ子爵は両手を広げ、得意げな顔を浮かべた。


「計画通りに進んでいるのか?」


ルークが静かに問いかける。


「ええ、まったく計画通りです。

これほど手玉に取りやすい国も、そうはありません」


ラルフ子爵の口調には、皮肉と自信が入り混じっていた。


「ルトニア王国再興計画についてですが、ルーク王子のおっしゃる通り、四段構えで動いております。


第一段は、ダレル団長率いる傭兵団のサイサリス公国への帰国

第二段は、商都ハンザの南にあるエデッサ地域で、王族アラスター様を擁立した謀反の勃発。

第三段は、オリバー大公の暗殺と、それに続く王都内の暴動の誘発。

第四段は、リアム侯爵の合流による王都奪還です」


ルークはわずかに目を細め、言葉を促すように視線を向けた。


「詳しく話せ」


「第一段階、ダレル団長率いる傭兵団の追い落としは、すでに実行中です。

王都に住むベイジル侯爵の屋敷を襲うよう仕向けてあり、近日中には必ず騒動を起こすでしょう。


ハンナの報告によれば、傭兵団はすでに王都内で度々問題を引き起こしています。

そのため、近く彼らにはサイサリス公国への帰国が命じられるはずです。

命令が下れば、彼らは王都を発ち、サイサリスに到着するまで五百三十キロ。

およそ二十日を要します。


ひとたび帰国してしまえば、もはや我々がどう動こうとも、再び戻ってくることはありません」


「第二段階、エデッサでの謀反もすでに始動しています。

ローガン侯爵のもとには、二百名規模の反乱と伝わるよう仕向けました。

その報告を受け、鎮圧部隊千が出立しております。


エデッサ地域まではおよそ三百キロ。正確な報告が届くのは、まだしばらく先となるでしょう。

ですが実際には、正規兵四百、徴募兵六百、徴収兵三千、合計四千を超える勢力が蜂起しているのです。

三千もの徴収兵が集まったのは嬉しい誤算です」


ラルフ子爵は笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「目的は王都から兵力を引き離すこと。

そして周囲の耳目を集めることです。

エデッサが騒がしければ、本命となるリアム侯爵が動きやすくなります」


「第三段階、オリバー大公の暗殺についても、すでに動き始めています」


ラルフ子爵の声がわずかに低くなる。


「成功の確率は、混乱の最中にこそ高まります。

実行はいつでも可能です。

王都で馴染みの娼婦を通じ、すでに手はずを整えてあります」


「暴動と同時か」


ルークは目を伏せ、静かに頷いた。


「確かに、最も効果的な瞬間に仕掛けるべきだな」


「第四段階は、リアム侯爵が合流しての王都奪還です」


ラルフ子爵は続けた。


「フランク王国と対峙していたリアム侯爵ですが、

ルーク王子とフランク王国の姫君との婚約を前提に停戦交渉が成立しました。


これにより、彼は軍勢一万五千を率いて、すでにこちらへ向かっております」


ルークは静かに頷いた。


「これで、四つの段階がすべて整ったわけだな」


「はい。あとは、ダレルが率いる傭兵団を王都から追い出すことができれば、我らの動きを妨げるものは何もありません」


ラルフ子爵の声音には、揺るぎない自信がにじんでいた。


「よくやった。

あと少しで、こことの生活ともお別れだな。

それと同時に、我が国からサイサリス公国を排除して、お別れにしたいものだ」


五日後、ついにサイサリス公国のダレル団長率いる傭兵団が王都を離れ始めた。


その直接の原因は、ベイジル侯爵の屋敷に押し入った事件である。

一か月前、サイサリス公国軍がルトニア王都を襲撃した際、ベイジルはいち早く恭順を示していた。

その屋敷を標的としたことで、傭兵団の素行は決定的に問題視されることとなった。


関与した兵士は即座に捕らえられ、処刑された。

その首は見せしめとして広場に晒されたが、実際には誰かにそそのかされて動いた可能性が高かった。

自らの意思ではなく、背後の意図に操られていたのだ。


この一件に激怒したオリバー大公は、傭兵団に帰国を命じた。


やがて城門の外へと続く街道を、装備を整えた五千の兵が黙々と行進していった。

王都には緊張が走る。

長らく町を荒らしてきた荒くれ者たちが本当に去るのか、それとも途中で新たな騒乱を起こすのか。

安堵と不安が入り混じり、人々は固唾を飲んでその背を見送った。


だがその裏で、誰にも気づかれぬまま、仕掛けられた糸が静かに絡まり始めていた。

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