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昏き背徒の赦逆録【ワイルドカード】  作者: 高島テラオ
1章.学園組のクラリッサ
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#4.兄弟子ヴァロとその一行

ギルドの片隅、壁際のテーブル席に腰を下ろしてしばらくすると、

後ろから聞き慣れた声で呼ばれた。


「お、アルスじゃねぇか」


振り返ると、いつもの軽い調子で手を振りながら近づいてくる男がいた。


「ヴァロさん。お疲れさまです」

「よせよせ“さん”なんて柄じゃねぇよ。それより―」


俺の向かい側の席を指さしながら言う。


「ここ、空いてるよな? ちょっと座らせてもらうぜ。」

「勿論です。ところで他の皆さんは?」

「ああ、ドロスが報告でマーニとカナギは荷物整理してっから後から来るよ」


そう言ってヴァロさんが腰を下ろす。

彼はギルドに入ったばかりの頃から何度か顔を合わせており、気にかけてもらっている方で

ラガンさんの弟子仲間みたいなもんだ。


「で、新人はどうだったんだ?噂じゃ学園組が来るって聞いてたけど」

「ああ、それなんですけど、ちょっといろいろありまして」


俺は軽く笑って肩をすくめる。


「今朝、合流予定だったはずなんですけど結局来なくて。

 ギルドの人にもまだ来てないって言われてとりあえず先に出発したんですよ」

「なんだよ、結局朝来なかったのか」


軽くため息をつきつつ苦笑している。きっと彼にも同じことがあったのだろう。


「はい。で、いつものルートを進んでたら途中で魔物に襲われてる人がいて。

 その場にいたのが、その人でした」

「…ああ、なるほど」

「その後一緒に戻ってきたんですけど、そのままギルドマスターの所に挨拶に行きましたよ」


ヴァロさんが腕を組んでうなずいた。


「そうなのか。しかしそりゃまたすごい巡り合わせだな。で、実力はどうだった?」

「強かったですよ。雷の魔法が中心でした。あれが学園仕込みってやつなんですかね」

「ふぅん。流石って所だな。で、そいつなんて名前だった?」


探索系パーティーの性なのだろうか、興味津々な様子で話を聞いてくる。


「クラリッサさんって人です。王都の学院出身らしくて。魔力量なんか自分とはレベルが違う感じです」

「クラリッサ、ねえ。ああ、もしかして“オルドレイン”って名字じゃなかったか?」

「はい、たしかそうです。クラリッサ・オルドレインって」

「うわ、まじかよ」


ヴァロさんが膝に手を置いて苦笑いしている。


「そりゃあ強いわけだわ。オルドレイン家って言やぁ、クリスダリアでも名門中の名門だぞ。

代々雷撃魔法の使い手で騎士団とか宮廷魔導士の家系だったはずだ」

「そんなに有名なんですか?」


そんなことも知らないのかよ?と言いたげな顔をしてヴァロはこちらを見てくる。


「有名ってレベルじゃねぇよ。ギルドに来るのが珍しいくらいだ。

 基本、貴族の子ってのは実地訓練なんかせずにそのままどこかのお抱えになるのが当たり前だぜ?」


ヴァロさんの説明が一区切りついたころ、背後からのんびりとした女性の声が聞こえてきた。


「あ、ヴァロ!見つけたと思ったらもう座ってる。ずるいですよ?」

「先に席とってたんだよ。遅いぞお前ら」


そんなやりとりをしながらヴァロが手招きしている。


「だってぇ、ドロスが荷物整理に時間かけるんだもん」

「確認に時間は必要だ。ヴァロ、お前が雑に放り込むからだ」


聞き覚えのある優しい口調と、淡々としたツッコミ。

そのまま声の主とフードを被った二人は向かいの空いた席に並んで腰を下ろす。


「やっほー、アルスくん。また会ったね」


マーニさんが軽く手を振りながらにこにこ笑う。

この方はヴァロ班のどこかふわふわした印象を持っている回復職のヴァロさんの妹。

なんだけど戦場では前衛と勘違いするくらい動きが鋭い。

前に見たとき、あの柔らかい口調のまま淡々と敵の懐に入っていったのが今でも忘れられない


「こんにちは、マーニさん」

「さんなんてやめてよ〜。ね、ドロスもそう思うでしょ?」

「呼びやすいように呼べばいい。気にしない」


隣で答えたのは、フードを深くかぶったどこか影の薄い男ドロスさん。

俺から見ると未だによく掴めない人物だった。言葉遣いは丁寧だけど感情の起伏が読めない

ラガンさんいわく「アイツの魔道具の威力はとんでもねぇ」とまで言わしめる、そんな人だ。


「アルスくんもお疲れ様。今日は どうだった?」

「ええ、大きな怪我もなく帰ってこれました」

「そっかそっか〜。えらいえらい♪」


俺の頭をなでるようなジェスチャーをしながら笑うマーニさん。

多分年上なのだろうけど包容力?がある。流石はヒーラーだ

そんな他愛もない会話が続いていたとき、俺の視界の端に影が映った。


「だぁれだっ♡ 今日もがんばったね、アルちゅ〜♪」


耳元にぴたりとくっつくような甘ったるい声と、妙に近い距離感

反射的に俺は振り返りながら、その手をがしっと掴んでいた。


「…っ!」


声の主が一瞬だけビクッと肩をすくめるのがわかった。

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