エピローグ
遠ざかる二人の背中を見つめながら、僕は物悲しい気持ちに身を委ねていた。
最後に彼女を送り出したいという気持ちはあった。こんなこと僕が言うべき言葉ではないのは重々承知しているが、それでも僕は……彼女との間に絆のようなものを感じてしまった。
僕がしたことは許されないことだ。家族を散り散りにさせ、憎しみを煽り、そして彼女にとってなによりも大切な人を奪ってしまった。
かつて僕が経験した痛みを、まだ大人と子供の境目にいる少女に強要してしまった。
ただ彼女が僕と違ったのは、僕は更なる痛みを抱え、彼女はその痛みに向き合い未来を求めて旅立ったということだ。
僕は思う。もし、かつての僕が彼女のようにできていたら結末は変わっていたのだろうかと。
もし、僕が全てを許し、グリフィスを家族の元へ帰すことができていたら。そうでなくとも、彼と未来を生きる決断ができていたら。
もしかしたら、今回のような結末にはならなかったかもしれない。こんなことを考えても後の祭りだが。
「僕はこの後悔を正しく刻めるかな……」
空に向かって問うてみるが、当たり前に返事は帰ってこない。鉛色の空は無機質で冷たく見おろしてくるだけ。
「ウゥゥ」
視線をさげると僕の唯一の親友と目が合った。しばらく姿を見せなかった親友は、また少し痩せたような気がする。
「どこ行っていたんだ。心配したぞ」
親友に手を伸ばしてみるも、彼は僕の手を嫌がるように少しだけ距離をとった。
「君も僕を嫌いになっちゃったのかい」
僕の問いに親友はなにも答えない。ただ、白濁った瞳で僕を真っすぐ見つめる。
彼との会話はいつもこうだ。長い付き合いだが、彼の声を聞いたことは一度もない。しかし、今日はいつもの違う。濁った瞳に「お前はいつまでそうしている」と問いかけられたような気がした。
「僕は……どうしたらいいんだろう」
自分の手に視線を落とす。人として生きていたころと変わらない手。だが、この手はあのころと違い、悪意を操ったせいで目も向けられないほど汚れてしまっている。
それでも。
こんな汚い手を持つ僕でも、なにかできるのだろうか。
「ウゥゥ……。アウ」
いつの間にか僕のそばに戻ってきていた親友に、鼻で小突かれた。彼の目を見る。
「そうだね、わからない。ただそれは彼女も同じだ」
自分がなにを知らないかを知ってしまった彼女は、世界の理不尽や悪意に屈することなく立ちあがり一歩踏み出した。
それはとても勇気のあることだ。誰にもできることじゃない。だが、誰にもできないことでもない。
かつて僕はそれができなかった。導いてくれる人もいなかったし、命よりた大切な人を失った悲しみを乗り越えられなかった。
一人だったから。誰も僕を信じてくれなかったから。
では今はどうだろう、なんて考えるまでもない。
「あのときは怖かった。けど、今は先を歩く彼女の背中が見えるし、君がいてくれるよね……?」
「フンッ」
親友は鼻を鳴らして森に顔を向ける。僕もその視線を追うと、そこにはアシュマンたちが心配そうにこちらの様子を伺っていた。
「ごめん。君だけじゃなくて彼らも、だね」
そう言うと親友は今度はフンともアウとも言ってくれなかった。それが否定ではなく、肯定の合図だということがわからないほど、付き合いは浅くない。
遠ざかり砂粒くらいにしか見えなくなった背中に僕は誓う。
いつか君はこの森へ帰ってくるだろう。それまでに僕も覚悟を決めるよ。そして、僕は僕なりに向き合って解決法を探す。
罪滅ぼしなんて言えば君は怒るだろう。だからそんな言い方はしない。
これは僕の戦いだ。戦って、戦い抜いて必ず勝利を掴みとってみせる。そして、僕の覚悟を見届けてくれ。
鉛の空に僕は思う。次に彼女と空を見あげるときは、晴天であって欲しいものだと。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ここで一旦ルグリと魔人の物語は終わりとなります。続編については現在鋭意制作ですので、続報をお待ちください。
ルグリと魔人を読んでくださり、ありがとうございました。




