歓迎…?
馬車は水流によって流され、岩へ激突して破壊された。馬を先に放っておいて良かったなとサギリは内心安堵し、青年を引き寄せ、土壁をギリギリのところで保って水流を受け流す。
油断していたわけではないが、青年の言う通り危機は迫り、逃げる足を失った。青年を護衛する立場として失格だと歯噛みしつつ、それでもサギリはこの危機を脱するため襲撃者の気配を追った。
「さすがに流されて終わりではなかったか」
乾いた大地が貪欲に水流を飲み込み終わる頃、視界は土埃も目晦ましも晴れ、土壁越しに声がかかる。
襲撃を受けている中防御を捨てることは命を捨てるようなものだが、青年から土壁を崩すよう指示を受け、サギリは相手が見える程度まで土壁を崩した。
「はは、おかしな女性使用人と今にも死にそうな少年とはな」
でっぷりと肥えた身体を揺すり笑う中年が恐らくバッカーノ公爵なのだろう。その周囲に護衛と思しき男たちが並び、さらに背後に魔法を使う人間がいるようだ。
ちらりと視線だけでそれらを確認する。サギリとしては相性の悪い魔法使い以外は何とかなると考えたが、青年の病弱さを考慮すれば分は碓かに悪かった。
「ご招待いただき、ありがとうございます。バッカーノ公爵でお間違いないでしょうか」
殺気立つ周囲に気づいていないかのように青年が話しかければ、馬鹿にしたような下卑た嗤いが返ってくる。
「いかにも、わしがバッカーノだ。貴様らがいる領地はわしの領地で、検問を通らなかった貴様らは不法侵入といったところだな」
さらにバッカーノは青年の挨拶に対し礼すら通させず、罪人だと断言した。招待したことも、案内を記載しなかったことも、何一つ確認しようとすらしないバッカーノにサギリは憤る。
けれど青年は何も気にした様子も、気負った様子もなく、サギリの肩に手を置き「だめだよ」とバッカーノの前へ進み出た。
「不法侵入者の捕縛を公爵自らなさるとは素晴らしいですね」
無防備に歩み寄る青年を嘲笑する声は止まず、バッカーノ自身もにやにやと青年を値踏みしている。
だが次の瞬間、魔法使いが荒野に飲まれた。
「――――ッ!!」