青年は病弱につき
その邸は商家とほぼ同等のもので、所有者が貴族であることは知られていない。邸の持ち主が領主であることも、誰が住んでいるかも、その土地の人間には興味がなかった。
何よりこの世界では貴族の庇護下にいたとしても安泰ではなく、むしろ庇護下が頻繁に変わることもあり、己の身は己で守ることが暗黙となっている。
誰にも興味を持たれない邸の中庭では、一人の青年が優雅にティータイムを楽しんでいた。
さらりと風に靡くやや橙色の髪、青年だというのに深窓の姫のような儚さ、華奢な身体つき。日陰を作るパラソルの下にいるせいか日焼けもなく、まるで一枚の絵画のようだ。
中庭とは言え殺風景で、樹木の手入れはされず自然に任せている。その一部の樹木が揺れたかと思えば、幾人もの男が青年へ刃を向けた。
遠くからは魔法が青年へ放たれ、向けられた刃はそのまま青年に振り下ろされる。
優雅にカップを傾けていた青年はそれらを視線で追いながら立ち、爪先でテーブルを蹴り上げ刃を防いだ。崩れ落ちるテーブルからテーブルクロスを抜いて魔法へ投げ捨てる。
炎の魔法で燃えるテーブルクロスを避け、飲み干したカップを侵入者へ投げた隙に、パラソルの柄を持って侵入者を薙ぎ払った。
刃を向けてきた侵入者の大半はそれで払いきれたが、遠方より魔法を放った侵入者へはそうもいかない。けれど青年は気負った様子もなく、掴んでいたパラソルを放り投げた。
重たいはずのパラソルは軽々と飛び、加速して遠方の侵入者を落とす。
「――かはッ」
けれど全ての侵入者を落とした青年が、口許を押さえて喀血した。
「はぁ、侵入者なら任せてくださいってあれほど申し上げているではないですか」
ずるりと滑り落ちた身体が地面へ辿り着く前に、ふわりと青年の身体は椅子へ移動させられ、溜息混じりの苦言が降ってくる。
「すまない、サギリ」
差し出されたハンカチで口許を拭いながら青年は仰いだ。