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元コンビニSV(スーパーバイザー)のダンジョン運営 ~固有スキルスーパーバイジングは最強でした~  作者: 橘 弥鷺


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2/9

-01-コンビニSVの不運

こんにちは橘 弥鷺です。


元コンビニSV(スーパーバイザー)のダンジョン運営に、ご興味をいただきありがとうございます。

お読みいただければ幸いです。


尚、前作の完結しておりますSTRAIN HOLEもあわせて、是非、お読みいただければ、うれしく思います。

STRAIN HOLE

N6940GN

https://ncode.syosetu.com/n6940gn/

「はい、早乙女です」

『早乙女! お前何時だとだと思ってんだよ! 深夜巡回の申請出してねぇーだろ! 』


 その電話の相手は、上司からの電話であった。会社から貸与された車両には、GPS機器が搭載されており、整備士でもない素人がどうにかできるものでもない。貸与スマホのアプリをオフにしても上司にはバレている。早乙女は上司に聞こえないように舌打ちして返答する。


「すいませーん 1店舗オーナーのサインもらい忘れたんでそれだけ済ませて帰るんで! 」

『お前、今月の残業45時間をすでに超えているんだから帰ってくれよ! お前がいたブラックなチェーンとは違うんだからな! 合併したんだから効率いい働き方考えろよ!』

「了解でーす」

『プツン…… プープー…… ラジオネームもえっちさんのリクエストでMAI(マイ)の曲で…… 』


 ハンズフリーで繋がっていた上司との通話が切れて、車内にはかけていたラジオのパーソナリティーが愉しげな声を車内に響かせた。


「管理職は大変だねぇ~ パフォーマンスのクセに…… ブラックなのは変わらんだろって」


 早乙女は上司の小言を左から右に聞き流す。早乙女はコンビニエンスストア本部の社員であり、最も店舗に近い社員であるSV(スーパーバイザー)、もしくは店舗指導員と言われる仕事だ。加盟店であるフランチャイズオーナーに対して本部指示や経営指導をする仕事で、本部の窓口でもある。365日24時間営業の加盟店に対して本部の窓口であるSVが規則正しく休めるわけがない。加盟店からは休みだろうと深夜だろうと電話があったり、癖のあるオーナーはあえて休みを狙ってどうでもいい電話をしてくることもある。結局は人と人の付き合いなので、休みだからと相手にしなければ拗ねる加盟店もいるのだ。仕事を効率的にするならある程度の人間関係は構築しておきたいので、上司の小言よりも癖のある加盟店に良い顔をするのが早乙女の考えだ。それも早乙女は、このコンビニエンスストア本部に新卒から入社したわけではなく、数年前のコンビニ業界での平成の大合併により、業界4位だった早乙女の所属チェーンは、今いる2位のチェーンに吸収されたのだったが、さらに3位のチェーンが他の下位チェーンを吸収し、業界は再編され2位だった今のチェーンは3位に転落した。加盟店はだいたいが10年で契約更新をむかえる為に、本部は加盟店離れを防ぐ為にSVたちへ巡回頻度を増やす指示を出してさらに業務過多となったが、そこへ働き方改革などと世の中が言い出した為に矛盾が起きたのだった。そんな中での上司のパフォーマンスとも言える小言に耳を貸すよりも、加盟店オーナーとの付き合いを優先するのだ。結局は会社の指示に従っているわけだから、上司もそれ以上は言ってこないのが常である。


 早乙女は、店舗へと到着し駐車場の端へとクルマを駐車し、スーツのジャケットから店舗ユニフォームの上着を羽織る。この担当店舗は、先月から新たに担当することとなった国道沿いにかまえている店舗で、大型車用の駐車スペースがあり、大型トラックが数台駐車しているが、深夜はほとんどドライバー客は仮眠中で、店内への来店客はほとんどいない。この店舗のオーナーは、人は悪くないが経営者としては残念と言わざるおえず、バイトの育成がうまくできずに、深夜から昼過ぎまで働き詰めで、休みも月に1日か2日取れれば良い方だろう。コンビニのフランチャイズ契約に売上と休みの保証はない。早乙女が店内をのぞくと菓子やカップラーメンの段ボール箱がカーゴ台車に積まれて数台置かれていて、店内をオーナーが動き回り品出しをしているようだ。早乙女は駐車場のゴミを拾いながら駐車場をチェックしてから店内へと入るが、ドアチャイムは鳴るもののオーナーから入店の挨拶はない。


「お疲れ様です。オーナー」

「エ、エスブイ…… お疲れ様です。すいません気がつかなくて」


 本部の人間がこんな時間に来ると思わなかったのか、気まずそうにしている。早乙女は気さくな笑み浮かべて返答する。


「ま、それは良いんですけどね。入店挨拶は防犯効果もあるし、お店のイメージをお客様に決定させますからね。それに覆面調査もそろそろあるでしょうから」

「そ、そうですかね…… 」


 商売で挨拶は日本では当たり前の文化だと早乙女は思うが、客は挨拶を気にしていないと思う加盟店オーナーも多い、このオーナーも口にはしていないがそう思っている可能性高い。客が挨拶を気にしていないのは当たり前の文化だからだ。挨拶や接客レベルを落とせば、店のイメージは長期的に見ればマイナスに落ちていく。担当になったばかりの早乙女に心を開いていないオーナーには響かないのであろう。早乙女は更に笑みを深めてオーナーに声をかける。


「オーナーの時間少しいただきたいので、品出しを手伝いますよ。ふたりでやれば1時間もかからないでしょうからね。荷物事務所に置かせてもらいますね」

「いいんですか? 品出しをやってもらって…… 」

「いつもできるわけではないですけどね。今日はしっかり話したいんで」


 早乙女とオーナーは店舗の品出しを済ませる。この作業の間の来店客はゼロだ。早乙女とオーナーはレジ横の事務所に入るとオーナーは早乙女に声をかける。


「で、SV話って何ですか? 」

「本部通達で来ている来月施策確認しました? 」

「いえまだです」


 本部通達とは店舗事務所に設置されたストアコンピューター[通称:ストコン]に配信される連絡事項のことだ。


「忙しいのはわかるんですけどね。ゆっくり情報収集をオーナーができる時間を週に1時間か2時間つくれるといいですね。検討してみてください。必要であればご相談にはのりますので」

「はい…… 」


 早乙女はオーナーの乗り気でない表情を無視してストコンを操作し目的の画面を開く。


「今年の目玉施策になるのは間違いないです。CMもテレビやネットにかなり流すようです。基本対象アイテムは品揃えすることになります。今話題のアーティストなんでオーナーもご存知でしょう? 」

「全部ですか? うちじゃ売れない商品もありそうですけど…… うちはドライバー客メインだから若い歌手とかのキャンペーンは効果ないと思うけど…… 」


 本部が手を尽くして目玉の施策は、近年世界レベルで人気を博している若手日本人女性アーティストとのタイアップだ。コンビニのタイアップとしては意外な相手でインパクトがあるだけに一次的なものとはいえ、客数が上がることが見込めるが、オーナーはやはり後ろ向きである。在庫が増えることを懸念しているのだろうし、自店への思い込みも多い。早乙女は諭すように返答する。


「オーナーの(おっしゃ)りたいことは良くわかります。けど、周辺地図見てください。うちの他の店舗は、半径5キロ圏内にないので自社競合はないですし、この圏内に中学校3校と高校2校があり、他にもこの新しい分譲地ですかね。若い世帯が住んでいる地域があります」

「半径5キロっていつもの商圏の何倍で話してるんですか…… 」

「そもそもロードサイドの立地でクルマ利用客を狙って開発された店舗です。通常の商圏が意味するのはバック商圏だけですよ。この地域はクルマ社会ですしね」


 通常コンビニは、徒歩圏内にどれどけの人口がいるかが重要で開発されるが、国道や主要道路沿いは交通量で来店客数を想定する。この店は後者であり、保険のために徒歩圏内に数十世帯の住宅地と千人以上が就業する大型ショッピングモールがあるが、あくまでも主要の想定する来店客は道路を利用する客だ。どこに行くにもクルマを利用するほどに公共交通の便が悪い地域なのだ。


「最終的に商品発注をするのであれば初回の特別原価期間に発注をしましょうね」


 コンビニは商品を仕入れる時に、原価で商品を買うわけだが、新商品やタイアップなどがあると本部とメーカーで話し合い原価を下げて、オーナーたちが仕入れやすくするなど企業努力も行っている。早乙女は更にストコンを操作して必要な入力を手早く行う。


「自動発注でも発注かかるようにしてありますけど、最終的にはオーナーが判断してもらうことになるので、必ず調整を行ってください」

「SVが入れてくれたならそれで良いけど…… 」


 オーナーの言葉に早乙女は顔を横に振って口を開く。


「それで良くても必ず商品の確認をお願いします。発注の決定はオーナーかオーナー指示で行うものですからね。お願いしますね。来週改めて確認に伺いますね」


 早乙女はそう言って事務所から出て店内の時計が目に入る。時間は2:45を指している。


「オーナー長々とすみません。失礼します」

「いえ、こちらこそ品出しありがとう。SV眠気覚ましにコーヒーを」

「それなら自分で買いますよ! 」

「手伝ってもらったからそのお礼だから」

「それじゃお言葉に甘えて…… 」


 早乙女はオーナーから渡されたホットコーヒーを片手に持って外に出ようとした瞬間、人とぶつかってしまう。自身の不注意もあるがトイレでも行きたかったのかずいぶんな慌てようだなと早乙女は思うがオーナーよりもらったコーヒーをこぼしてしまい床を汚してしまう。オーナーに謝らなければと思い振り向きながらオーナーへと声をかける。


「すいませんオー…… 」

「エ、エスブイ! 早乙女さん! しっかり…… 」


 早乙女はオーナーのいるレジ側を見れないまま入口で倒れ込むその早乙女の視線の先には深夜の駐車場を走っていく男の影と自身のこぼしたコーヒーに赤い液体が混ざって行くところだった。


お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。


前作のSTRAIN HOLEも何卒よろしくお願いいたします。

N6940GN

https://ncode.syosetu.com/n6940gn/


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