07-ダンジョンの経営不振
こんにちは橘 弥鷺です。
元コンビニSVのダンジョン運営に、ご興味をいただきありがとうございます。
お読みいただければ幸いです。
尚、前作の完結しておりますSTRAIN HOLEもあわせて、是非、お読みいただければ、うれしく思います。
STRAIN HOLE
N6940GN
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アルトとミーナ、それにミーナの実兄のルイガノは、食事をしながら会話を進める。その口調は、男性としてはとても穏やかで柔らかい印象を与える。
「アルト本当に無茶をしてくれるよ」
ルイガノは、苦笑を顔に貼りつけているが、その声には心配と安堵をにじませている。ルイガノはアルトの1歳上であるが、偉ぶらずアルトを尊重しいままでもアルトの無茶の尻拭いをしてきた功労者である。ルイガノとミーナがいなければ、アルトの性格をよく思わない連中に、排除されていただろう。アルトの実力とルイガノとミーナをはじめとする理解者によって、アルトの勝手な振る舞いが中和されていた。ルイガノはテーブルに肘をついて口元を隠すように拳を組む。
「今回の事故はさすがに看過できないよ…… 緊急措置とは言え、他に方法はあったと思うよ。ランドが死んでいる以上は、監査は入ると思う。それはかまわないのだけど…… 会議での追及は避けられない」
事故というのは、早乙女がアルトのカラダを引き継ぐこととなった。下界での巨大サソリとの遭遇で、アルトが重傷の傷を負い、ランドは死亡してしまった。あれは、アルトも被害者で実際のところ死んでしまったのだが、ランドのダンジョンシーカー昇格の足がかりにしようと思う打算で挑んだのも事実だ。早乙女はアルトの判断を蛮勇だと理解しているし、責任を問われる理事会で追及されるのも理解できるが、過ぎたことは仕方がないと割りきっている。早乙女がサラリーマン人生で得たスキルだ。早乙女は、ルイガノに頭を下げて口を開く。
「ルイそれについては申し訳ないと思っている。オレもランドも蛮勇が過ぎたと今では思っている。ミーナにも改めて心配かけてごめんな…… だから、ふたりとも会議での対応策を一緒に考えてくれないか? 」
早乙女は、アルトの素行の悪さを理解しながらもそれでも寄り添う、この兄妹には新たなアルト・ノエルとして今後も世話になるつもりなので誠意を見せたつもりなのだが、アルトの姿を見てルイガノとミーナは口をポカンと開けてアルトを見ているが、気を取り直したようにルイガノがミーナに尋ねる。
「ミーナ…… アルトの様子がおかしいと僕は思うのだが…… 」
「あー 兄さん確かにそうなんだけどアルトも今回の事故で反省したみたい。昼間も図書館でずっと調べものしてたんだ」
「あ、アルトが図書館? 」
ミーナの返答に、ルイガノもおかしなものを見るようにアルトを見ている。早乙女はふたりの反応に不安になり顔を上げて声をかける。
「オレなんかおかしな事を言っているのかな? 」
こちらの常識など知らない早乙女は、自分の言動がおかしいのかとふたりの表情を見ながらも目を泳がすが、ミーナが両手を胸元でブンブンと振って否定しながらアルトに返答する。
「全然そんなことないよ! あらたまってアルトが言うから兄さんもわたしもビックリしただけ! わたしたちは、か、家族みたいなもんだからそんなこと当然でしょ! 」
「そ、そうか! ありがとうオレもふたりの力になれるように頑張るよ! 」
「アルトがその気になってくれたのは、心の底から安堵だよ」
ルイガノがアルトの言葉に柔らかい笑顔を顔に浮かべるが、すぐに顔を真剣なものに変えて話を続ける。
「それじゃ会議の対策なんだけど…… わかっての通り、まずは新たなダンジョンシーカー候補者を立てないとまずい…… そして、今年中にダンジョンシーカーとして合格させる」
探索者組合であるワールドトレックは、アルトやミーナとルイガノの両親が中心として誕生した組合で、数年前の事故で、アルトの両親とルイガノとミーナの父親と数名のダンジョンシーカーを一度に失った。これにより探索者最高位のダンジョンシーカーの所属数が組合の規模に比べて極端に少ないのが現状である。元々はこの自治区を代表する探索者組合であったワールドトレックだったが、今や3位に落ちるのではないかと囁かれている始末だ。
「シーカー所属数が増えなければ、若手の探索者の加入者は他に行ってしまう…… そうなればダンジョンの運営も成り立たなくなる」
ダンジョンの存在する意味はふたつある。ひとつはダンジョン内の環境を周囲に反映させることで人が住める自然環境を手にし、ダンジョン内で食糧生産が可能となる。もうひとつは、ダンジョンコアを操作しダンジョン内に擬似的下界を作り出し、探索者の育成環境を作り出す事だ。どの探索者組合の所属でもダンジョンでのトレーニングをすることは可能なのだが、所属する探索者組合が運営するダンジョンを利用した方が、いろいろな特典がある為、基本的には所属する探索者組合のダンジョンをホームとする探索者が多い。ルイガノが人差し指をピンと立たせて話していると更に中指を立てピースサインのように指を2本にして話を続ける。
「次はダンジョンの売上と利用者数の向上だね」
早乙女は売上と利用者数の向上と聞いてわずかに眉を跳ねさせたが、ルイガノの話を続けさせる。
「あの事故以来年々目減りしている…… なんとか食い止めないといけないけど…… 何から手をつけていいか」
元々が探索者が憧れるようなダンジョンシーカーが揃っていた探索者組合であったことは、事情を知らない早乙女にもなんとなく理解できた。であるならば、早乙女のスーパーバイザーとしての経験が活かせる可能性は高い、早乙女はルイガノに声をかける。
「ルイ、明日から会議までにうちのダンジョン全部見学できるかな? できれば他の組合のダンジョンも何ヵ所か見たいけど…… 」
「まぁ休みも使えば強行日程になるけど行けないこともないかな? 」
「じゃ決まりだ明日からダンジョン巡回する。ふたりも来れるかな? 」
「兄さんわたしは大丈夫だよね? 」
「ああミーナはアルトの看病あるから外しているから、僕は1日遅れになるかな? どこかで合流するよ」
「わかった。ミーナ案内頼むな」
「ダンジョン巡回してどうするの? 」
「改善点を把握するんだよ! 」
「改善点? 」
ミーナとルイガノは、アルトの言葉に疑問を隠せないが早乙女は気にせず、その場に拳を握りたち上がり宣言する。
「まずは改善点を見つければ、必ず売上と客数の向上は見込める。時間がかかっても継続すれば1年後には必ず回復させて見せる。それがSVの腕の見せ所だ! 」
こうして早乙女はダンジョン巡回をすることとなったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
前作のSTRAIN HOLEも何卒よろしくお願いいたします。
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