40話 茨の道
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
「勇者シャルロット・グラトニーの率いる勇者一行よ、よくぞ魔王を討ち取った。汝らの功績は、英雄譚として語り継がれることであろう。」
勇者一行が帰還し、国王より賞賛が贈られた。
勇者であるシャルロットの率いる勇者一行は、人類と魔族の戦争に終止符を打ち、人類と魔族が共存出来る平和な世界を作ったのだ。
「...それで?報酬は?」
「ん?ああ、もちろん報酬は与えようぞ。何でも言ってみるがいい。」
出発時と大きく変わり、神経の図太くなったシャルロットに周囲は困惑した。
いや、そもそもこの場でこんな態度の彼女がおかしいのだ。
「う〜ん、お金だけあればいいかな?私、地位とかはいらないし。」
「そ、そうか、なら他の者は...」
「なら僕は貴国に兵を配属させて頂きたい。貴国が善良な魔族を殺さない保証がないからな。」
騎士王であるレオンは、フォルテの騎士の中の騎士であり、国王でもある。
よってこの場ではトップレベルの発言権を有しており、国王も彼の要求に反対する事は難しいのだ。
「じゃあ、私はこのお城に住まわせてもらえないでしょうか?一応、聖女として皆様の助けになればなと...」
「それは願ってもいないことよ。では、最後は...」
国王は少し不満そうな顔をしてカミラを見た。
彼の魔族への嫌悪感は消えておらず、やはり魔竜の子であるカミラに対してはどうしても不満を覚えてしまう。
だが、迂闊にカミラに対して冷たい対応を取ってしまっては、勇者シャルロットの機嫌を損ねかねない。それは、2人の距離の近さを見れば一目瞭然だった。
「あっ、私か。う〜んそうだな〜...じゃあ、私が魔王になるから、あんたの国と和平を結んでくれよ。」
「...は?」
カミラの言葉には、この場の全員が驚いた。
魔王とは魔族を統べる王であり、その存在は圧倒的。
つまり、彼女は全魔族を手中に治めると言っているのだ。
「私のこの考えは最も合理的だと思うぜ?私が魔王になってあんたら人類と和平を結べば、血の気の多い魔族もあんたらに手を出しにくくなる。知性のない魔族の被害は減らないだろうが、それ以外の魔族からの被害は大幅に減少するって事だ。どうだ?悪くない話だろう?」
カミラの話はなるほど確かにとても合理的だ。
人類と敵対する気のないカミラが魔王として君臨すれば、知性があり、人類に対し悪意を持つ魔族達も人類に手を出せなくなる。
そうなれば、ほぼ完全な平和が訪れるわけだ。
「承知した。その提案を受けようぞ、カミラ・ミストラルよ。」
「よし、そうと決まれば、私はもう行くわ。とりあえず魔王としての力を見せつけてくるからよ。」
「待って、カミラ...」
足早にこの場を立ち去ろうとしたカミラをシャルロットが止める。
誰から見ても分かるぐらい、シャルロットは寂しそうな顔をしていた。
「なんて顔してんだよ、シャルロット。別に死ぬ訳じゃねぇんだから...」
「それは、そうなんだけど...」
俯くシャルロットの頭に、カミラが手を乗せる。
そして、優しい目でシャルロットの顔を覗き込んだ。
「お前と私は永遠の命を持ってる。だから安心しろ、いつでも会える。」
「...うん、そうだったね!流石は私のお嫁さん!」
その瞬間、シャルロットの腹に強烈な殴りが放たれた。
「うぐっ...これ、いつぶり?」
「知らねぇよ馬鹿!ったく、じゃあまたな!」
そうしてカミラは魔界に向かって歩き去って行く。
こうして、勇者一行はそれぞれの道を歩み始めるのだ。
「これからレオンとソフィアはどうするの?」
国王との謁見が終わり、カミラを除く元勇者一行の3名が顔を合わせた。
「仕事も溜まっているだろうし、僕はフォルテに帰るよ。正直、まだまだ旅をしていたかったぐらいだね。」
「ふふっ、レオンさんは一国の王様ですもんね。あっ、私は1人でまた旅に出ようと思ってます!平和な世界になったとしても、まだまだ困っている人はたくさんいるでしょうし!」
2人とも、それぞれ別々の道を歩むみたいだ。
もちろん、それはこの場にいないカミラも同じで、彼女は魔王として魔族を統べる。
そして元勇者であるシャルロットにも、もちろんする事はある。
「2人とも色々と大変だと思うけど、存分に楽しんで生きなよ!ちなみに私はまったり過ごすだけだけどね!」
「ははっ、お前らしいなシャルロット。」
「ええ、本当にシャルロットさんらしいです!では、そろそろ...」
3人は互いに目を見て、それぞれ別々の方向を向く。
「「「お互い、元気で。」」」
そうして勇者一行は旅を終え、それぞれが別々の道を歩んで行く。
人と魔族が共存する平和な世界、彼女らは旅が終わった後でも、その世界でそれぞれの物語を紡ぐのだ。
◇
魔界の最深部、そこにヒビが入り、ボロボロになった魔王城がある。
元勇者一行の1人であるカミラ・ミストラルは、天井に大きな穴の空いた王の間に入った。
「来たぞ、アリス。」
「ふふっ...」
カミラのその一言で玉座の裏から1人の少女が姿を現す。
彼女は先日勇者に討たれたはずの元魔王、アリス・フォンドネスであった。
「元列強カンナカムイ...あなたの父親が亡くなってから数億もの時が経った。そして今あなたが魔王になり、人類と魔族が共存する平和な世界が訪れた。とても素晴らしい事ね?」
彼女の問いに、カミラは応えない。
その代わりに、カミラはフォンドネスにとある問いをした。
「あの時の返事、聞かせてくれるか?」
フォンドネスは彼女の問いに笑みを浮かべた。
あの時、それは数億年前、父の遺体の前でカミラがフォンドネスにある提案をした時のこと。
その提案は、今も継続中だ。
「...ふふっ、いいわよ。このアリス・フォンドネスがあなたに協力してあげる。」
「それは良かったぜ、1人ぐらいは強い協力者がいてくれないと困るからな。」
カミラの提案を承諾したアリスは、この部屋の扉の前に立ち、カミラの方を振り向きもせず、彼女に向けて言葉を放つ。
「じゃあ、早速準備をしてくるわね。魔王カミラ・ミストラル様?」
「...ああ。」
そしてアリスが去り、カミラは玉座に座って、天を仰ぐ。
今、カミラの心の中には罪悪感やこれからする自分の行いに対しての疑問など、多くの雑念がある。
カミラは目を閉じ、それらの雑念を殺すように一つの決意を固めた。
「ごめんなシャルロット、私はずっと嘘つきのままなんだよ。」
そして彼女の半身が竜と化し、その目が紫色に光り輝く。
それと同時に魔王城全体を覆う程の魔法陣が展開され、魔王城の周囲に風の結界が張られた。
「始めるか...」
カミラは今までずっと奥底に隠していた力を確かにその身で感じながら、決意を固めた。
彼女の決意、それは両親が死んだ時に思い描いた野望を果たす為のもの。
「これは真の平和の為、竜として役目を果たす為...私は必ず、魔族を根絶やしにしてみせる。」
彼女の瞳は、揺るぎない信念を宿していた。
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