39話 超完璧魔法使い
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
魔王と対峙し、互いに一挙手一投足を観察する。
おそらく実力は互角、どちらかが少しでも劣ればそこから崩れていく。
やがて、先にフォンドネスが動いた。
「っ...!やっぱ最初は私だよな!」
カミラとフォンドネスが激突して、私達は散らばる。ソフィアが遠距離、私は中距離、そしてカミラとレオンが近距離で戦う。
「カミラ、レオン!後ろは私に任せて!」
「ああ!」
カミラとレオンがフォンドネスと近接戦闘に入る。
あの2人を相手にして彼女は一歩も引かず、逆に2人を少し押している。
確かにアペタイトよりは戦闘能力は劣るだろうが、それは単にフィジカルが違い過ぎたからだ。
彼女はその戦闘技術だけで十分にアペタイトとも渡り合える程に強い。
それにプラスしてあの再生能力があるのだから、最強の魔族として、魔族の王して君臨するのは当然のことだ。
「ソフィア結界!」
「はい!」
「2人とも、ちゃんと避けてね!」
魔法に集中し、魔法陣を構築する。
生半可な魔法では彼女に傷を残すことすら出来ない。
なら、内部から壊してやる。
「"魔毒"!」
「っ...!かはっ!」
フォンドネスが吐血し、その場に倒れ込む。
その隙を見逃さずに、カミラとレオンが彼女の四肢と首を切り離した。
「ちっ、これでも駄目か!」
「まじで不死身なのかこいつ!」
彼女は首を斬られても、四肢を斬られても瞬きよりも早く再生した。
だが、私の毒はまだ彼女の中にのこっている。
こういう状態異常が彼女の弱点なのかもしれない。
「毒だなんて...何億年ぶりかしら!」
彼女が立ち上がり、剣を振る。
その一撃がカミラとレオンに掠り、ソフィアがすぐに治癒魔法をかけた。
魔王も毒のおかげで弱っているが、こちら側にも疲労がきている。
あまり長続きすれば、こっちが負けるのは明白だ。
「くそっ、どうすれば...!」
「考え事をしてる場合かしら?」
彼女が私の背後に周り、私は咄嗟に結界を張った。
だが結界は簡単に破られ、彼女の大剣が私に直撃した。
「シャルロットさん!今治癒魔法をかけます!カミラさん、レオンさん!少しだけ持ち堪えてください!」
「ああ!」
ソフィアが私のもとに駆け寄って治癒魔法をかける。
カミラとレオンに出来たあの一瞬の隙、毒を喰らっているというのにあの速さ...いや、違う。
あの時の彼女の身体から私の毒は感じられなかった。
つまり、もう彼女の中に毒はない。彼女はあの短時間で毒すらも克服した。
「耐えてよ、私の身体...!」
「シャルロットさん!?何を...!」
クリスタルを動かし、カミラとレオンの援護をする。
今の状態で2人だけで戦わせるのはまずい、ただ被害が増えるだけだ。
なら、回復しながらも戦わなければならない。
「ソフィアは治癒魔法に集中して...!私が、2人を援護する!」
「っ、はい!」
みんなが全力を出してもこの戦力差、再生能力がある分、彼女は万全の状態を半永久的に保っていられる。
それが彼女の強み。
その強みは、私も手に入れようと思えば手に入れられる。だけど...それをしてしまったら...!
「っ!カミラっ...!」
その瞬間、一瞬だけカミラの意識が私の方に向いた。
私を心配してくれたのだろう、だけどその一瞬の隙に、フォンドネスの大剣がカミラのすぐ後ろまで迫っていた。
時が遅くなったように感じる。いや、私の思考が今までにない速度で回っているんだ。
どうすればこの状況を打破出来るか、何万、何億通りも考えた。
その結果、一つの答えしか出なかった。
なら、私はそれをするしかない。カミラが死んでしまっては、元も子もないのだから。
「貰うよ、あなたの力...」
次の瞬間、私はカミラとフォンドネスの間に入り、彼女の大剣を弾いていた。
「ふふっ、成ったわね?」
「...うん、不本意だけどね。」
彼女と距離を取り、互いに体勢を整える。
もう1人の私が遺した力、それを取り込んだ事によって、身体能力、魔力、再生能力、魂の格、彼女の持っていた全ての力を私が引き継いだ。
これで、対等に戦える。
「シャルロット...すまん、私のせいで...!」
「レオンとカミラは休んでて、今はこの戦いを終わらせる事が優先。ソフィアは私の援護を。」
私の髪が白と黒に染まり、クリスタルが黒と白の光を放つ。
フォンドネスは頬を赤く染め、笑みを浮かべた。
「何?興奮してるの?」
「ええ、そうよ。だって私はあなたを心の底から愛しているもの!だからこそあなたの血が欲しい!今まで私が生きてきたのは、きっとあなたに会う為だったのね!」
狙われているとは聞いていたけど、まさかこんな理由だとは思わなかった。
まあ、元人間とはいえ彼女も魔族、アペタイトと同じだと思えば何もおかしくはない。
「ごめんけど私、カミラにぞっこんなの。だから、さっさと諦めてくれる?」
「無理ね、それは。何億年もの間探し続けたのだから、ここまできて諦めれる訳ないでしょう?」
「それもそうだね、なら仕方ないか...」
杖を突き出して、魔法陣を構築する。
和解出来るかなとか、少しだけ思ってたけどやっぱり無理みたいだ。
なら、やることは一つ。
「全力でかかってこい。この私が、全力で振ってあげる!」
「ふふっ、お酷い人!」
フォンドネスと衝突し、建物にヒビが入る。
速度や力だけなら今の私が勝っているが、技術に関しては彼女の方が圧倒的に上。
でも、私はあのアペタイトとも対等に渡り合った。
今の私なら、彼女も殺せる。
「あの戦い、私も見させてもらったわ!あなた世界を繰り返しているのでしょう?なら、私を殺す方法も知っているのかしら?」
「あいにく記憶はなくてね、それが分かれば楽なんだけど!」
まあ、そう言いつつも彼女を倒す方法は大体検討がついている。
おそらく、彼女を喰らう事で彼女を殺す。それが前の私がとった方法。
でも、今回の戦いでそれは通用しないだろう。
彼女があの戦いを見ていたという事は私の手の内はもうバレている。
だから、別の方法でなければ通用しない。
でも、今の私にそんな方法は存在しない。
「さあ、もっと攻めるわよ!」
彼女の身体から血を利用した攻撃が繰り出される。
手数が増え、押され始める。
ならばこちらも増やすまで。
「援護して!クリスタル!」
クリスタルが自律し、私の援護に回る。
これで手数は同等、でも私はクリスタルを使った魔法を放てなくなる。
なら、杖の力を解放するのみ。
「私の願いに応えろ、"勇者の杖"!」
「っ...!なんて規格外な力!」
勇者の杖に秘められた力、それは持ち主の願いによって変化する。
私が込めた願いは対象を破壊するという願い。
今のこの杖は、超攻撃特化の魔力を放っている。
「"魔砲"!」
私が放った魔法を彼女は軽々と避ける。
彼女がどれだけ避けようと、私は数多の魔法を絶え間なく浴びせ続ける。
その先に、勝利があると信じて。
「はぁ、はぁ...あれ、どこに消えた...?」
突然彼女の気配が消え、辺りを見渡す。
3人のところにもいないし、物陰に隠れている訳でもない。
「みんな、警戒して。どこから来るか分からない。」
「シャルロットはとりあえず休め、私達はもう大丈夫だから。」
確かに、レオンとカミラはかなり回復している。
それに比べて私の身体には疲労が積もるだけで、このまま焦ってても何も変わらない。
「うん、分かった。ありがとうみんな...」
「っ!シャルロット!」
私の真後ろから気配がして、咄嗟に杖を構える。
そこには床に溜まった血液から出現した彼女がいた。
でも、彼女は私を狙っていない。
彼女が見ているのは、私の杖...
「ぐっ...!」
「あはっ!やっと壊れた!」
彼女の大剣が勇者の杖に命中して、杖が折れた。
その瞬間にクリスタルも消え、私の身体から勇者の力が抜け落ちた。
「"暴風の戦斧"!」
カミラがフォンドネスをぶっ飛ばして、私に駆け寄る。
「大丈夫かシャルロット!」
「わ、私は大丈夫...でも、杖が...」
「っ!クソ、マジかよ...!」
魔法使いは杖がなければ魔法が使えない。
たとえ私にまだ戦える力が残っていたとしても、私は魔法が使えないのだ。
「どうしよう...私、このままじゃ何も...」
「安心しろシャルロット、私が何とかする。お前はよくやった。」
「カミラ、でも...!」
「シャルロット、ここは僕らに任せろ。必ず勝つぞ!」
カミラが走り出して、それにレオンが続く。
ソフィアもすぐに切り替えて、戦闘に集中する。
何も出来ない無力感が私を襲った。
やっとここまで来たのに、私は何も出来ず無力だ。
フォンドネスの魔力も少しずつ弱まってきている、あともう少しというところで私は...。
「あはっ!どう今の気持ち?今まで全部何とかなってきたのに、無力感に絶望して!その顔、すっごくいいわ!」
「黙れ!お前にシャルロットを愚弄する権利はない!」
カミラが、レオンが、ソフィアが全力で戦っている。
でも、彼女は本気じゃない。さっきまで戦っていた私にはそれが分かる。
私がやらなきゃ、戦わなきゃみんなが死ぬ。
でも、私は戦えない。魔法が使えない。
私、勇者なのに...勇者の杖の魔法使いなのに...。
「はぁ、つまんないの。身構えていたけど、結局はこの程度なのね。」
「っ...!レオン、カミラ!逃げて!」
血の鞭が2人を襲い、吹き飛ばす。
あの一撃はこの頑丈な建物に大きな傷を入れた。
そんな一撃が、2人を襲ったんだ。
「待っててください!今治癒を...!」
「あら、私が許すとでも思ってるの?」
彼女がソフィアの前に立ち、ソフィアの首を掴む。
聖女であるソフィアに彼女にダメージを与える程の火力は出せない。
「ほら、早く動かないと。何をしているのかしら、勇者様?」
「っ...!」
立って走り出そうとした途端、風の魔法が魔王を吹き飛ばした。
血だらけのカミラが立ち上がって、よろよろと片足を引きずりながら歩いている。
「2人は逃げろ...レオンも、動けるならさっさと逃げろよ。どうせ無駄に長い命なんだ、お前らの方が生きてた方がいい。」
「それなら私が...!」
「馬鹿か、お前は人類の希望だ。勇者じゃなくたって、お前の力はいつか必ず魔王を殺せる。」
カミラが私の方へ振り向いて、優しい目を向けた。
彼女は、死ぬ覚悟をしていた。
「それに、お前は超完璧魔法使いになるんだろうが。」
「っ...!」
私の中で何かが動いた。
いつの間にか、私は忘れてしまっていた。
勇者になって、役目を果たさなきゃって焦ってた。
元から私は勇者になんかなりたくなかったんだ。
勇者なんかが霞んでしまうぐらいに強い、そんな魔法使いになりたかった。
何がもう戦えないだ、バカバカしい。杖が折れたぐらいで私は何で無力だって思い込んでる?
「...そうだね、カミラの言う通りだ。」
「...?お前、何して...」
私はカミラの前に立って、フォンドネスの方を見つめる。
彼女は立ち上がって私の方へ歩き出している。
でも、その歩みが止まった。
「っ...、何、この寒気は?」
「魔王フォンドネス!」
私の心臓が、魂が強く脈打つ。
杖がなければ魔法使いは魔法を使えない、そんな常識はぶち壊してやる。
私は高位な魔法使いでも、勇者の杖の魔法使いでもない。
「覚えておけ!私が、超完璧魔法使い、シャルロット・グラトニー様だ!」
「あはっ!可愛らしい名前ね!」
彼女の大剣が私を捉える。だが、その瞬間に彼女の視界が急変する。
「...は?」
彼女の目に映る私の姿は一瞬で小さくなり、私は彼女の片腕を握っている。
あの時アペタイトにしたのと同じように、彼女の腕と胴を切り離したのだ。
だけど彼女の片腕は血と化し、再び彼女の元へ還る。
「やっぱりアペタイトと同じようにはいかないか...切り離しても駄目、魔法で焼いても駄目、本当にどうやったら死んでくれるの?」
「さ、さあ?私も死んだことがないから分からないの。知りたいなら、あなたが私を殺してみればいいわ。」
「そうだね、そうするよ。」
空気が揺れ、私の身体から魔力が立ち上る。
その魔力は存在するだけで周囲を次々と破壊する程に強大だ。
やがてその魔力は、意図的に彼女を攻撃し始める。
「ふふっ、何も変わっていないじゃない!その程度じゃ私は殺せないわよ!」
「だろうね!だから3人とも、力を貸して!」
私の一言でカミラ、レオン、ソフィアの3人が一瞬にしてフォンドネスを囲む。
「シャルロット!どれぐらいあればいい?」
「1分!3人とも、1分だけ耐えて!そうしたら、後は私に任せて!」
「「「了解!!」」」
3人が連携をとり、彼女に襲いかかる。
その後ろで私は一つの魔法に集中する。その魔法を察知した彼女の顔色が変わった。
「っ...!あはっ!いいわ、本気で殺してあげる!」
彼女が私に襲いかかろうとするが、それを3人が防ぐ。
私はただ信じればいい。
私は仲間を信じて、今自分に出来ることを全力でする。詠唱を、唱えるんだ。
「万物を破壊する魔法、万物を生み出す魔法。真実を司る魔法、架空を司る魔法。そのどれも等しく、我が魔法の前では無力と化す。」
周囲の魔力が粒子と化し、私の手に長い杖を形作る。
その杖は勇者の杖でも、賢者の杖でもない、私だけの杖。
私が創りし、最強にして最高にして超完璧な杖。
「伝説の剣も、杖も、人も超越する。天に立ち、破壊を創造する。それはまさに神の御業...だけど、私はその遥か上、神でさえも成せない御業を顕現せん。かつて、勇者がなし得なかった魔法、空想上の最強にして最大の破滅。私なら、それすらも容易に顕現させれる。」
多重の魔法陣が形成され、その魔法陣の中に七色の光の粒子が集まり、一筋の光を形成する。
これはかつての勇者が魔王を討ち滅ぼす為に考案したとされる、空想上の魔法。
今の私なら、その勇者でさえも成せなかったその魔法を顕現させれる。
「もういいわ、跡形もなく消してあげる!」
「っ!させるか!」
魔王が距離を取り、私に向かって文字の無い魔法陣を展開する。
3人が攻撃を与えるが、彼女はそれを気にする様子もなくただ魔法に集中した。
そして、彼女は詠唱もなしに魔法...いや、魔力の光を放った。
その光は、私に直撃した。
「あははははっ!これで終わりよ!いくら勇者といえ、この魔力に耐えられる訳が...!」
「...万物、生命の魂すら破壊する光よ。」
「は?」
魔力の光を浴びながら、私は詠唱を続ける。
この光に蝕まれるよりも早く、私の身体は再生し続ける。
この程度の攻撃、痛くも痒くもない。
「我が命に応え、その者を壊せ。勇者...いや、超完璧魔法使い、シャルロット・グラトニーが命ずる...!」
魔力の光が消え、フォンドネスが私の周囲から伸びた鎖によって拘束される。
彼女の見開いた瞳には、笑みを浮かべる化け物。神すら恐れる程の強大な力を持つ、人の形をした怪物が映る。
そして彼女は最期のその瞬間に、一つの想いを抱いた。
「ああ、なんて愛おしい...」
魔法陣がより一層輝き、縮小し杖の先に集う。
七色の光が魔法陣と同じように、杖の先に集う。
そして、その魔法を行使する1人の少女が口を開いた。
「放て、"勇者ノ魔法"。」
七色に輝く一筋の光が魔王を穿ち、天を穿つ。
その光は美しく、そして眩しかった。
世界を照らし、世界に希望をもたらす。そんな光だ。
その光は上空で散り、各地に降り注ぐ。
光はフォルテ城壁前での戦争に向かって行き、血で作られた魔族達に降り注ぐ。
そして、それを浴びた血の魔族は滅び、さらには大地を通して全ての魔族の性質を変化させた。
彼らは人と同じ程度の魔力の摂取で生きれるようになった。
それは、その光を放った彼女のそばに居る魔竜も同じである。
「...今ここに、勇者として宣言する。」
魔王が消え去った後、勇者が口を開く。
彼女の仲間、勇者一行の3名が彼女を見つめる。
そして、彼女が宣言した。
「私達の、勝ちだ!」
彼女らは互いに抱き合い、喜び合う。
魔王が滅び、長きに渡る人類と魔族の戦争に終止符が打たれた。
そして、それと同じくして勇者一行の旅は終点を迎えた。
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!




