34話 飢えと輪廻の終末
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
立ち上がり、魔人の方へ振り向く。今までの彼との戦闘の全てが私の頭の中に流れ込む。圧倒的な全能感、今の私なら誰にも負ける気はしない。今まで会ったどの敵にも。
「シャルロット...なのか?」
「ごめんカミラ、話は後で。今は、奴が先だから。」
魔人が私の真上に現れる。流石の速さだ、でも私には彼の動きは完全に見えている。
「っ!これは、結界?」
「弾け。」
結界が光り輝き、魔人を空高く打ち上げる。五つの大きなクリスタルが私の周りを舞う。それらには各属性の力がこもっていて、さっきの結界は風の属性によるものだ。
「"天舞"。」
空高く飛び上がり、魔人に追撃を仕掛ける。空中に浮いている彼は、私にとってただの的でしかない。
「地に落ちろ!」
魔人を叩き落とし、彼を追う。彼に回復の暇は与えない。彼をひたすら追い込む、今はただそれだけに集中する。
「休む隙もありませんねぇ!」
「何?休みたいの?」
「まさか!」
彼も私に攻撃を仕掛けるが、私はそれを全て防ぎ、反撃を喰らわせる。だけど、まだこの程度じゃない事を私は知っている。私は今まで、彼の底を見た事がない。
「生命を形作るは魔法の源。万物を形作るは偉大なる元素。」
「させるとでも...!」
彼の手を掴み、胴を蹴る。彼の腕は千切れ、彼は空高く打ち上げられた。
「滅びろ、"神魔"。」
宙を舞う彼に私の魔法を避ける手段はない。よって、私の魔法は彼に直撃した。
本来ならば致命傷になる程の威力。だが、地に墜落した彼は立っていた。
「素晴らしい...!これ程までの魔法、かつて存在したどの偉人でもなし得なかった。賞賛に値しますよ、勇者シャルロット。」
彼の頭が崩れ、彼の本当の頭が露わになる。目はなく、鼻もなく、耳もなく、ただ口がある。山羊の魔族としての...一族を象徴する巻き角すら捨てたその姿は、まさに異形の人のよう。
「改めて自己紹介をしよう。私は列強...魔人アペタイト。誉れ高き、美食家だ。」
人に似た魔族、その姿は彼を魔人たらしめるものだった。
「私の想定よりもあなたは強い。私の戦いへの飢えすら満たさんとする程に。」
本当の姿を露わにした彼は、今までとは違い、全身を魔力が覆っていた。彼は今、魔力を纏っている。つまり、彼は本気を出したという事だ。
「戦闘能力だけで言えば、フォンドネス嬢...魔王すらも超えるだろう。つまり、私と並ぶという事だ。」
「並ぶ?何現実逃避してるの?」
彼に杖を向け、笑みを浮かべる。我ながら、あんな化け物を目の前にしてどうかしていると思う。けど、これでいい。私は、私の思うままに行動する。
「私の方が上に決まってる。」
「ククッ、そう来なくてはなぁ!」
互いに動き出し、衝突する。その瞬間に森を覆っていた霧が晴れ、空を覆っていた雲が晴れた。
「凄まじい威力!見事!」
天高く舞い、彼から距離をとる。だが、彼は空を踏み、私の背後をとった。
「っ...!」
「おや?笑みが消えていますよ?」
結界ごと蹴り飛ばされ、落下する。彼はさっきよりも数段と速くなっている。だが、もう彼の底が見えてきた。確実に追い込んでいる。
「さあ、避けてみなさい!」
彼が爪を振るった瞬間、大地に亀裂が入った。彼は天空にいながらも、魔力を飛ばして斬撃を放ったのだ。大地を裂く程の斬撃、それが彼の速さで放たれる。
「さて、死にましたかね?死体が残っていれば良いのですが...」
大地を土埃が覆う中、彼に一筋の光が放たれた。彼はその光を見て笑った。なぜなら、それは私が生きている証だったからだ。
「まったく、とんでもない攻撃だよ。」
「生きているとは思っていましたが...まさか、無傷だとは...!」
天空に巨大な魔法陣を展開し、私の頭上に結界を張る。あれだけ斬撃の雨を浴びせてくれたんだ、お返しをしてあげなきゃいけない。
「降り注げ、"雨魔"。」
あらゆる物を貫く雨が、大地に降り注ぐ。まさに天変地異、それが彼と私の戦いだ。
「ククッ...クハハハハハッ!良い!実に良い!懐かしき感覚、これ程までに私が攻撃を喰らうとは!」
身体を再生させながら彼が私に向かって歩みを進める。これだけやってもまだ動ける、本当にあり得ない強さだ。一体何が彼をここまで強くしたのか...少し気になるけど、大して気にする事じゃない。私はただ、繋げばいい。
「そろそろ終わりにしよう、アペタイト。もう夜が明ける。」
「そうですね、私もディナーも食べれていないので、そろそろ朝食を食べたい気分ですよ。」
互いに魔力をさらけ出し、全力の一撃を構える。次の一撃で、もしかしたら私は死ぬかもしれない。でも、私はそれでも繋ぐ。この一撃は、彼を殺す為の一撃であり、私が勝つ為の一撃じゃない。
「星は煌めき、生命は咲き乱れる。天を覆う星々、地を覆う草木、それら万物は星の輝きによって創られし神の造物。」
私が詠唱をするように、彼も地を踏みしめて魔力を凝縮する。だが互いに隙はなく、双方が完璧な間合いで、完璧な魔力操作で、その一撃を構えた。
「たが我が力は神のものに非ず、我が身は神のものに非ず。この身、この力、我が欲望の為にあり。我は囚われぬ者、我は我を生きる者。我が名は、シャルロット・グラトニー!」
「その覚悟に、その強さに敬意を払おう。我が名は、魔人アペタイト!」
静寂が訪れ、一瞬だけ時が止まったように感じた。それは嵐の前の静けさであり、次の瞬間に災いが訪れる。
「壊せ!"星之輝"!」
私が魔法を放つ、そして彼が爪を振るう。視界が白くなり、耳鳴りがした。やがて目を覚ました時には、私は彼に首を掴まれていた。
「あなたの負けです、シャルロット・グラトニー。」
「...そう、だね。私の負けだ。」
彼の笑みを見ながら、私は笑みを浮かべた。さっきの一撃は全力の一撃。だが、私が勝つ為の一撃ではない。あの一撃は、彼女へ繋ぐ為の一撃だ。
「ん?何を...」
「繋いだよ、シャルロット。」
彼の身体に手を当てる。その瞬間、彼の魂に彼女の魂が触れた。もう私の出番は終わった。私は彼女に託して、眠りにつく。私は負けた。でも、彼も負けたのだ。
◇
暗闇の中、魔人へ向かって歩く。あれだけやり合った後だというのに、こいつの魂は全然弱っていない。
「あなたは...」
「世界を繰り返したのは4917万1114回目だが...これでお前に会ったのはちょうど7777万7777回目だ。おめでとうアペタイト、ラッキーセブンだ。」
私はあいつと違って、本来この世界にいるべきじゃない存在。あいつ...この世界の私は、本当にぶっ飛んだやつだった。魔人を倒す為に、まさかこんな作戦を考えるとは思わなかった。
「ところで、アペタイト。お前、地獄は好きか?」
「...ククッ、なるほど。そうか、負けか。だが、楽しかった...私の飢えは、満たされた。」
不本意だが、私はこの作戦に乗る。こいつを殺せるなら、何だってやってやるさ。今までもそうだったんだから。
「さて、アペタイト...」
魔人を押し倒し、彼の顔を覗き込む。いくら魔人だとしても、私より劣る部分がある。それは生命として、絶対に私に勝ることがない事。魂の強さ、それだけは何度も世界を繰り返した私の方が上だった。
「私と一緒に、地獄に落ちようぜ?」
「ふっ、それも一興か。」
私の存在自体が消え、彼女の身体から私の力は...記憶は消える。だけど、大丈夫だ。彼女はもう弱くない。それは一番近くにいた私がよく知ってる。彼女なら魔王すら殺せる、それを私が知っている。
ああ、やっと...
私の想いは報われた。
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!




